(注)本シリーズ(1)~(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf
3.残された問題その1:決まらない国別割当量
現在のところOPEC原油に対する需要が落ち込む兆しはなく昨年12月の生産量は3年ぶりの高い水準である3,074万B/Dを記録した 。12月総会で決定した加盟13カ国による生産枠3千万B/Dが守られたことになる。
昨年の6月総会以降サウジアラビア(及びクウェイト、UAE)が増産を強行した理由の一つは、リビアで3月に内戦が勃発、市場から消えた160万B/Dをカバーするためであった。しかし10月のカダフィ死亡により内戦は終結しリビアは原油の生産と輸出を再開した。石油施設に対する被害は意外に軽微であり、12月には100万B/Dまで復活しており 、内戦前の生産水準に戻るのも時間の問題と言われる。
さらにイラクの生産も徐々に増加しており、昨年10月同国石油相は年末までに生産量は3百万B/Dに達し、年明けの輸出量は250万B/Dになると述べている 。イラクは1998年以降OPECの国別生産枠の対象から除外されており、2008年12月に決定された生産枠2,485万B/Dもイラクを除く11カ国が対象である。これに対し昨年12月に決定された生産枠3千万B/Dは加盟全12カ国の現在の生産量である。従って今後のリビア及びイラクの増加量に見合った削減を残り10カ国がどのように負担するかと言う問題がある。
そもそも問題は3千万B/Dの国別内訳が決まっていないことである。OPECはインドネシアが脱退し、アンゴラとエクアドルが加盟した時から国別の生産枠(イラクを除く)を公表しなくなった。と言うより公表できなくなったと言うべきかもしれない。最後の国別生産枠は2005年6月であり、その後2008年までは全体量を増減させたものの個別の生産枠は示していない。2008年秋には11カ国(アンゴラ、エクアドルを含めイラクは除く)の当時の合計生産量を150万B/D引き下げて2,731万B/Dとすることとし、11カ国の削減量を公表した(削減量だけで各国の具体的な生産割当量は示していない)。さらに同年12月の総会で全体の生産枠は2,485万B/Dとなり3年間据え置かれ、今回の総会で加盟12カ国の実生産量3千万B/Dを追認したのである。
つまり2005年以降のOPECはその時々の各国の生産量を合計した数量を後追いしているだけなのである。OPECをもし生産者カルテルと呼ぶならば、OPECは最早内部統制機能を失いカルテルとしての体を成さなくなっていると言えよう。石油価格が下落せず、しかも需要が伸びるか少なくとも下落しない状況であれば今のままでも問題は起こらない。OPEC各国は自国の都合で増産し、OPEC総会でそれを追認するだけだからである。
しかし一旦需要が減退し、或いは価格が大幅に下落してOPECとして減産する必要が生じた場合、現在のままでは国別の生産量を各国に示すことができない。仮に2008年秋のようにOPEC全体の削減量を決定し、それに基づいて各国別の削減量を示す場合でも、割当量はその時の各国の実際の生産量がベースになる。その場合各国とも出来るだけ高い生産量であったほうが実害が少ないはずである(生産量に比例するため削減目標値は高くなるもののある程度の生産枠は確保できる)。さらに付言すればこれまでの歴史を見るとたとえ減産モードになっても抜け駆けで生産する加盟国が後を絶たず、需給がだぶつき価格が暴落する可能性は高い。
これらの問題に対処して需給の均衡を維持し、価格の暴落を防ぐことができるのはサウジアラビアだけというのが、OPEC加盟国のみならず世界の石油生産国と消費国に共通した見方である。実際OPEC総会後カイロで開かれたOAPEC(アラブ石油輸出国機構)でリビアの石油相は、自国の生産量が増加すれば、他の加盟国(即ちサウジアラビア)がそれに見合った量を削減することになっている、と断言している。サウジアラビアが生産の調整役(スウィング・プロデューサー)の役割を担うことが期待されているのである。
但しサウジアラビア一国が調整役を負わされて単独減産しとしても、価格が下がり続ける可能性は否定できない。その時サウジアラビアは深刻な財政難に陥るであろう。同国はかつて1990年代初頭にスウィング・プロデューサーの役割を負わされ大きな痛手を負ったことがあり、当時のヤマニ石油相が詰め腹を切らされている。勿論外貨準備が豊富な同国がすぐに財政難に直面することはなさそうであるが、ナイミ石油相は次項に述べる欧米のイラン原油輸入禁止措置と合わせ今後しばらくは難しい舵取りを迫られそうである。
(続く)
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