2017.12.10
前田 高行
11月30日にウィーンで開催された第173回OPEC総会及びそれに続くOPEC・非OPEC合同会議において来年3月末まで実施中の協調減産をさらに来年末まで9か月間延長することが合意された。減産量はOPEC加盟国が120万B/D、ロシアを中心とする非OPEC産油国が60万B/Dの合計180万B/Dである。今年初めから来年末まで2年間という長期にわたり産油国が結束して減産するということは過去に例のないことである。
本稿では協調減産成立の経緯、減産期間の延長とその背景及び今後の見通しについて解説する。
協調減産成立の経緯
2016年初めに原油価格がバレル30ドルを割って最盛期(2014年)の4分の1以下に急落、OPEC加盟国は深刻な財政難に陥った。このためOPECは減産による価格の回復を目指し、昨年11月の第171回総会において加盟国全体で2017年1月以降の生産量を9月の実績生産量から120万B/D低い水準に抑えることで合意した。但し内戦で生産が極めて低い水準にとどまっていたリビアとナイジェリアは対象外とし、それ以外の加盟11か国で120万B/Dを減産することとなった。11か国を生産量の多い順に列挙すると、サウジアラビア、イラク、イラン、UAE、クウェイト、ベネズエラ、アンゴラ、アルジェリア、カタール、エクアドル及びガボンである。
世界の原油生産量に占めるOPECの割合は4割強であり、OPECの単独減産だけでは価格引き上げは不十分と見られ、非OPEC産油国、特にロシアを巻き込んだ協調減産が不可欠であった。ロシアとサウジアラビアとの協議が重ねられた結果、OPEC総会後の12月11日にOPECと非OPEC11か国の石油相会合が開かれOPECと足並みを揃えて60万B/Dを減産することとなった。これによりOPEC・非OPECの22の産油国が2017年1月から半年間にわたり180万B/D減産することとなった。協調減産に同意した非OPEC産油国は生産量の多い順にロシア、メキシコ、カザフスタン、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア、エクアトール・ギニア、南スーダン、ブルネイ、スーダン及びバハレーンの11か国であり、BP統計によればこれら11か国の2016年の合計生産量は1,800万B/Dに達するが、そのうちロシアの生産量だけで1,100万B/Dを占めている。(なおエクアトール・ギニアは今年OPECに加盟しており、従って現在の協調減産対象国はOPEC12か国、非OPEC10か国となる。)
減産期間の延長とその背景
今年1月に始まった協調減産の状況を検証するためOPEC側はクウェイト、非OPEC側はロシアを共同委員長とする閣僚級モニター委員会(MMC)が設けられ、各国の生産状況を毎月監視している。MMCが発表する減産順守率は1月の86%から2月は94%、3月98%と月を追うごとに上昇し4月にはついに100%を超え、その後も90%台後半を維持し協調減産が成功していることを裏付けた。この結果2017年前半の原油価格は50ドル台を維持しており、これに気を良くしたサウジアラビアはは減産期間の延長を画策、5月のOPEC総会で120万B/Dの減産を翌年3月迄延長することを決議し、その後ロシアを始めとする非OPEC側もこれに同調した。
協調減産延長のニュースを受けて原油市場は上昇に転じ11月には60ドル台に達した。原油価格の上昇は産油国すべてにとって好ましいことであるが、特にサウジアラビアにとっては財政赤字を回避するためには60ドルの維持は譲れないところである。このため同国は来年3月末までの減産期間をさらに12月末まで延長することを各国に働きかけた。但し原油価格が高値で安定すると協調減産に加盟していない他の産油国が増産に走り、22か国による180万B/Dの減産効果が相殺される恐れがある。その最大の懸念が米国シェールオイルの生産動向である。
当面の原油市況が堅調に推移すると踏んだサウジアラビアはさらに来年末までの減産継続方針を掲げて産油各国を説得、11月30日の第163回OPEC総会で加盟各国の了承を取り付け、さらに同じ日の午後に開かれたロシアなど非OPECとの閣僚会合においても来年末までの協調減産が決定された。これは今年のOPEC議長国であるサウジアラビアの外交的勝利と言って良いであろう。但し、ロシアは今後米国がシェールオイルの増産に走り市況が混乱することを警戒し、必要なら来年6月に減産体制を見直すことを条件とした。因みに次回のOPEC総会は来年6月22日の予定である。
今後の見通し
OPEC総会後の原油価格(WTI)は50ドル台後半で推移しており、来年にかけて上昇するか下落するか専門家の見通しも割れている。そのポイントとなるのが米国のシェールオイルの動向である。生産技術の進歩により大手生産業者の生産コストは現在のWTI原油の市場価格でも十分に利益が出ると言われている。事実米国における掘削リグ稼働数は上昇傾向にあり、米国全体の生産量は1千万B/Dに迫っている。
米国の生産者は価格に敏感であるため原油価格が現在の水準もしくはそれ以上に値上がりするようであれば増産の機運がさらに高まる。そしてその結果価格が暴落すれば中小の業者は生産をストップするであろう。つまり全体としてみれば米国の原油生産は需給バランスに応じて生産を調整する「スウィング・プロデューサー」の役割を果たすことになる。一方需要は中国、インドなど新興国を中心に年々増加することは間違いない。これらのことを勘案すると協調減産が続けば原油価格は現在の価格水準を維持することになりそうである。
問題はこの状態が果たして協調減産22か国中の二大産油国であるロシア及びサウジアラビアにとって満足できる(あるいは何とか我慢できる)かどうかということである。ロシア側は米国の増産を危惧してこれ以上の価格の上昇を望んでいないと考えられる。ロシア政府の意見は分かれ、エネルギー省はOPECの減産延長を支持したが、財務省は延長に否定的であったと言われる。来年6月に見直しを再検討するとした合意はロシアの意向を踏まえたものである。
一方サウジアラビアには別の事情がある。それは国営石油会社アラムコの株式上場であり、またムハンマド皇太子が脱石油を目指す経済構造改革Vision2030を至上命題としていることである。アラムコを有利な条件で株式公開するためには石油価格が高値で安定し同社が好調な業績を維持することが必要である。また脱石油の構造改革を進めるためにはまず安定した石油収入を上げることが不可欠である。「石油依存から脱却するためにはまずは安定した石油収入が必要」なのである。
石油の需要と供給には多くのプレーヤーがかかわっており、サウジアラビアやロシアはその一つに過ぎない。さらにエネルギー源には天然ガス(LNG)や再生エネルギーなどもあり、特にLNGは従来の原油価格との連動あるいは長期契約の見直し、仕向け地制限条項の撤廃など市況商品としての性格を強めつつあり、石油の強力なライバルになろうとしている。石油と天然ガスの両方を握るロシアはともかく、石油に頼るサウジアラビアにとって先行きは楽観できない。
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前田 高行
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