石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

SF小説:「ナクバの東」(67)

2023-02-15 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

 

Part III:キマイラ(Chimaira)

 

67. 最凶の宿主ヒトへの侵入(2)

 

 地球上の種の間では熾烈な生存競争が繰り広げられてきた。その中で頂点を極めたのが「ヒト」である。ヒトはわずか数百万年の間に地球上で最強の生物になった。最強というよりも最凶と言った方が良いかもしれない。そして同時に異常繁殖し始めた。2千年前にはわずか3億人程度であった地球の人口は今では80億人を超えた。

 

ただヒトの繁殖力は一様ではなく人種によって異なっていた。ユダヤ人とアラブ人が住むイスラエルではパレスチナアラブ人の増加が止まらない。ユダヤ人がイスラエルの少数民族になる日はさほど遠くない。そのことに強い警戒心を抱いたのがシャイロックであり、野心を抱いたのがドクタージルゴであった。

 

 ドクタージルゴがオリックスに寄生するギャラクシーに遭遇したのはまさにそのような時であった。シャイロックとジルゴの思惑が一致した。ジルゴはオリックスの卵巣から取り出したギャラクシーの遺伝子情報の書き換えを試みた。彼は遺伝子の鎖を断ち切り、そこにパレスチナ人女性の卵子から取り出した遺伝子情報を埋め込もうとしたのである。

 彼の思惑では、実験が成功すればギャラクシーはオリックスからヒトに移転することができる。オリックスからより最強の種であるヒトに移転することはギャラクシーにとっても望むところであったろう。通常、異なった種に移転するためには種の遺伝子が突然変異する必要がある。しかしそれは自然界の偶然―創造主の御手―にゆだねられ、ギャラクシーが自ら変異することはできない。ところがジルゴは自分の力技で変異を成し遂げたと信じ込んだのであった。

 

 それはこの世に生を受けたヒトを殺さず、ヒトになる前にヒトを滅ぼすことである。それは法律的に殺人とは言えない。だからと言って倫理的な問題が解決されたわけではない。「パレスチナ人」を対象として具体的な実験に取り掛かることは大きな問題をはらんでいた。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 

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