石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(論評)石油・天然ガスの確保で孤独な戦いを強いられる日本(4)

2012-11-26 | その他

(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0249OilGasSupplyInJapan.pdf

 

4.冬寒く、夏暑い近未来の日本
 1973年の第4次中東戦争でアラブ産油国は石油を外交の武器に使用した(いわゆる第一次オイルショック)。供給サイドには「石油を売らない自由」があり、価格が暴騰した。しかし1980年代以降は供給過剰となり石油は金さえ出せば買える市場商品となった(石油のコモディティ化)。但し石油にとって代わるエネルギーは現れず、需要側に「石油を買わない自由」はなかった。

 最近久しぶりに石油を外交の武器にするケースが現れた。イランの核開発疑惑に対し米国が発動したイラン原油の輸入禁止措置である。第一次オイルショックとは逆に「買わない自由」の行使である。しかしイラン以外の産油国から十分な石油が確保でき、さらには年々自給率が高まる米国自身にとってはイラン原油の輸入禁止は殆ど実害がない。西欧諸国も影響は軽微である。深刻な影響を受けるのは日本、中国、韓国、インドなどのアジア諸国である。日本は米国の顔色を窺がい、制裁の例外措置を受けることで急激な影響を何とか回避しようとしている。「買わない自由」すら米国に握られていると言う日本の状況に寒気を覚える。

 さらに日本は原発停止と言う試練が加わった。代替の発電燃料としてLNGを買い漁っている状況である。米国ではシェールガス革命で天然ガスの価格が史上最低水準にあるにも関わらず、日本のLNG輸入価格は米国の5倍以上(米国産ガスをLNGとして輸入する想定価格で比較しても2~3倍)である。日本は高価格のLNGを調達せざるを得ない。天然ガスについても日本には「買わない自由」は無いのである。

 勿論日本の石油企業、商社、電力会社などは石油・天然ガスを安定的に確保する努力を怠っていない。海外の石油・天然ガスの開発事業に参画し、或いは天然ガスを石油価格連動ではなく現在の市場相場に近い価格で契約するケースも見られる。国内では太陽光、風力など再生可能なクリーン・エネルギーの開発が盛んに行われている。また自動車の燃費向上、LED照明の普及など省エネルギーの動きも活発である。この結果日本は10年前に比べて石油・天然ガスの消費量が減少している世界的にも極めて稀な国となっている 。

 しかし現在のところ経済的に見て石油・天然ガス等の化石エネルギーに比肩できるものは見当たらず、世界経済が持続的に発展するためには化石エネルギーが必要不可欠であることも明らかである。従って今後も石油・天然ガスの価格は高止まりすると考えられる。

 つまり日本の消費者は高い価格で石油・天然ガスを輸入しつつ、同時に高コストの太陽光、風力などの再生可能エネルギーを使用することとなり、企業も一般家庭も高い負担を覚悟しなければならないであろう。一般家庭では今までの快適さを我慢する「夏暑く冬寒い」生活を覚悟しなければならない。またマクロな日本経済で考えた場合、石油・天然ガスの高い輸入コストをカバーするために輸出を促進し貿易の赤字幅を少しでも減らすことを考えなければならない。

 エネルギーの安定確保と輸出促進と言う日本の国益を追求しようとすれば米国の利害と相反する局面が増えるであろう。しかし再三述べてきたように米国が軍事面で日本と共同行動を取ることはあっても、経済面で日本の苦境に手を差し伸べることは期待できない。そのためには日本外交は時として米国と異なる対応を取ることも必要になる。そのため米国に対するダブル・スタンダード外交を覚悟しなければならない。潔癖症の日本人はダブル・スタンダードを「二枚舌」として嫌う傾向が強い。しかし外交の世界ではダブル・スタンダードこそ標準(スタンダード)なのである。米国に追随するだけではなく、リスクヘッジのための代替手段を確保しておかなければならない。日本のエネルギー確保は今後孤独な戦いを強いられる。しかし孤独を恐れてはならない。

(完)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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