(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)で一括ご覧いただけます。
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3.米国は2030年頃に石油の輸出国になる:IEAの予測
前項で米国内のシェールガス及びシェールオイル(軽質タイトオイル)の生産が急増し、近い将来石油・天然ガスを完全自給できる時代が来ると述べたが、つい最近IEA(国際エネルギー機関)は「World Energy Outlook 2012 (世界エネルギー展望2012)」の中で「米国のエネルギー・フローの潮目が変わり、米国は2020年代半ばまでにサウジアラビアをしのぐ世界最大の石油生産国に、2030年頃には石油の純輸出国になる」と明言している。さらに同報告書では「国際石油貿易はアジアへの流れが加速され、中東産石油をアジア市場へと運ぶ戦略的ルートの安全保障が注目される」とも記している 。
かつて米国が地中海そしてペルシャ湾で外交及び軍事力を展開してきたのにはいくつかの理由がある。その一つは言うまでもなくイスラエル支援であり、もう一つは西欧諸国或いは日本、韓国、インドなどアジアの親米同盟国を繋ぎとめるためのエネルギー安全保障であった。エネルギー安全保障問題についてはヨーロッパ諸国ではペルシャ湾岸産油国の依存度を低下させる一方、北アフリカに関してはリビア内戦へのNATO軍事介入の例に見られるように米国抜きに自力で対処している。そして米国自身も全世界の紛争に介入する余力を失い、中東から撤退して太平洋にシフトしようとしている。
このように考えると米国が中東の反米イスラム勢力或いは中東産石油を渇望する中国を刺激してまで日本、インド、韓国などのためにリスクを負うつもりはなくなったと考えるのが常識的であろう。そもそも米国は国産で不足するエネルギーは隣接のカナダ、メキシコから輸入し、それでも足らない場合は南米のブラジルや大西洋対岸の西アフリカ諸国(ナイジェリアなど)から輸入すれば良いはずである。何も地球の反対側のペルシャ湾からはるばるスエズ運河或いは喜望峰を経由して輸入する必要はないのである。
完全自給体制が視野に入って来た現在では米国にとって中東問題はエネルギー問題ではなくイスラエル支援の問題でしかなくなりつつあると言えよう。米国は軍事力を中東から太平洋にシフトしようとしている。今や米国の死活的利益は環太平洋における自由貿易体制であり、そこにおける「仮想の敵」はまず中国、次いでロシアであろう。端的に言えば米国が守ろうとしているのは「自国の意のままになる自由貿易体制の堅持」であって「同盟国のためのエネルギー安全保障」ではないのである。
米国の対日戦略は日本近海における中国の脅威に対しては日本を支援し共同作戦を取るであろうが、ペルシャ湾からインド洋、東シナ海へと続く日本のエネルギー・シーレーンの安全確保まで保証してくれる訳ではない。かといって日本が自らの手で安全を確保することは日本固有の軍事力或いは日本の置かれた国際的立場から見ても無理な話である。さらに米国がエネルギーの輸出国になったとして緊急時に日本に優先的に配慮するとも思えない。米国は地球規模で国益を追求するドライな国である。
このような観点に立つと日本と同じエネルギー自給率ゼロの韓国の方がよほど将来に対する冷徹な目を持っている。朝鮮半島で常に脅威に直面している韓国は軍事力の行使に躊躇しない。と同時に国際社会で生き延びるためにはいかなる手も打つつもりのようである。米国とFTAを締結したのもその表れと言える。米国は天然ガス(LNG)の輸出をFTA締結国に限定している。つまり韓国は米国からLNGを輸入することができるが、日本は今のままでは輸入出来ない。
政治的外交的な安全保障の観点から今のところ日米同盟にかわるものはなく日本は米国に頼らざるを得ないのが現状である。しかしエネルギー安全保障の面では米国一国依存は極めて不安定なのである。日本は孤独である。
(続く)
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