Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『走れメロス』

2009-08-03 01:32:30 | 読書。
読書。
『走れメロス』 太宰治
を読んだ。

新潮文庫版の、表題作を含めた太宰治中期、9編の短編集です。
太宰治は後期の『斜陽』と『人間失格』を以前に読んでいますが、
内容とか文体とか、ほとんど覚えていないので、
この中期の作品群と比較できません…。
中期とはいっても、1作品目の『ダス・ゲマイネ』だけは
初期のものだということです。

一番おもしろかったのは、『女生徒』という、
若い女の子の一日を、その子の独白の形で綴ったお話でした。
大人と子どもの中間の年頃で、その複雑さを感じられるようなお話。
どんな複雑さかというと、なんていうんだろう。
子どものような素直さを持っていながら、
同時に、醒めた見方もしている。
子どもながらの単刀直入さなんだけれど、
それでもって自意識を見つめられる知性を持っている。
それでいて、「悲しい」「やりきれない」
「わずらわしい」「情けない」「おかしい」
「泣けそう」「ばかばかしい」などなどたくさんの
理屈から離れた感覚的な言葉に代表されるような心の動きがあります。
そして、成長途上。
そういう複雑さなのかなー。
いや、繊細という言葉のほうがしっくりくるのかなー。
でも、読んでいて難しいわけではないんです。
おもしろいです。
これを読んで、自我に目覚める子たちっていうのも
いるのかな、って思いました。

あとは、私小説の『帰去来』とその続きにあたる『故郷』が
おもしろかったです。

『走れメロス』だけを知っていて読み始めると、
こんなつもりじゃなかったのにっていう読書になりそうです。
僕は『走れメロス』すらよく知らないで読み始めたので、
先入感なく、他の8編も面白く読めました。
私小説のところは、巻末の年譜と照らしあわせながら読むと
わかりやすくなるかもしれません。僕はそう読みました。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする