読書。
『ロボット創造学入門』 広瀬茂男
を読んだ。
この本を買ったのは、その頃たぶんに
心脳問題というのに興味が湧いていて、
ロボットひいては人工知能が人にだんだん近づいていく昨今なので、
そのあたりの理系的アプローチがあるのではないかな、
と思ってでした。
残念ながら、「心と脳について」にあたるような論考はなかったのですが、
ロボットにプログラムする倫理感覚などについて、
まず人間はどうなのだと考察していくところは、
中高生向けの岩波ジュニア新書だとしても、非常に興味深かったです。
というよりも、中高生でもけっこう頭の切れるタイプの人じゃないと
理解できないのではないかと、その他の章も含めて思ったくらいです。
それでも、知的好奇心をくすぐられるように書かれていて、
記述でも専門的な言葉やらx、y、zを使った数学的記述もあるのですが
くだいた文章なので、わからないところはわからなくても、
おおむねは理解できます。
まず、地雷除去ロボットの製作過程を追いながら、
ロボットってどんな感じかというのを知っていくことになります。
さらに次章で、ヘビ型ロボットの製作過程を追っていき、
ロボット観を深めていくと同時に、
製作者である著者の生活なども垣間見えて、面白い読み物としても
読み進めていくことになります。
その章で言われているのに、こんなのがありました。
__________
大学院のいいところは、十分に時間をかけて考える時間があることだ。
朝研究室に行って机に座り、窓の外の雲を見ながら考える。
図面を書いたり計算したり、実験をしながら考える。
昼になったら、毎日欠かさないようにしている道場での空手の練習をして、
夏ならその後プールに飛び込んでダラーと泳ぐ。泳ぎながら考える。
そして学食でお昼をとり、また机に向かって窓の外の雲を見ながら考える。
あきたら研究室の仲間と雑談をしたりして、また考え続ける。
腹が減って耐えきれなくなったら、家に帰って晩ごはんを食べ、
テレビなど見てリラックスする。
そして、風呂の中や寝床で眠りはじめるまで考える。
もちろん、ときどき飲み会で羽目をはずして大騒ぎしたり、デートもしたけどね。
こんなふうに、時間を十分使ってじっくりと考えつづけられるのが、大学院だ。
最近の大学では、短期間で博士号をとらせようとするような国の政策で、
ゆったりとした余裕をもって研究しにくいような雰囲気があるけれど、
私は昔ながらの大学院のいいところをなくなさないほうがいいと思っている。
__________
すぐに結果を出せ、だとか迅速主義的に事を成せと言われがちな現代で、
とくに顕著なのは民間企業だと思いますけども、上の記述こそが
本当らしいように思いますよね。迅速主義なのは場当たり的だったりもします。
とはいえ、これは研究についてのことですから、
何にでも適用してみようというわけではありません。
でも、こうやってゆったりと一つのことに当たる経験にこそ、
学業や研究の楽しいところがあるのではないかな。
さて、最初のほうに書いた、ロボットの持つべき倫理について。
その章ではまさかの「囚人のジレンマ」についての考察もあります。
また、未来のロボットは倫理などをわきまえた知能を持つようになるとすると、
それが功利主義にのっとった考え方をプログラムするべきだ、
みたいな主張で締めくくられているので違和を感じたのです。
大多数の幸福のためには少数の犠牲はやむを得ないとする考え方が功利主義です。
この本の例だと、工場が爆発する危険があるときに、
自動走行の車型ロボットが工場内で作業しているとすると、
爆破を止めるボタンを押すためには何人かの人間を轢き殺してでも、
その目標を遂行しなければいけないとしていた。
大多数の救助のための少数の犠牲はやむを得ない、と。
カントの道徳論では否定される考えらしいです、ちょっとググってみた。
たとえば、地球が爆発するときにそれをとめるためには、
少数のあるいは半数の人類の犠牲が必要で、
それは人類の種の存続としても大多数の幸福としても必要という功利主義の考えがでてきたら、
それはしょうがない気がするんです。
危険度の高さだとかどれだけを助けるためだとかで、
やっぱり少数派は犠牲になる。
この本ではアシモフのロボット三原則も否定されていました。
ロボットを人間のようにする、
つまり利己的な生存優先の考え方を植えつけてから、
三原則でしばりあげて奴隷化するのはおかしい、という主張。
合理的にというか、本質的に考えると、それはそうかもしれない。
人間に似せる必要はない。
理系というか工学系というかそういう人って、
こういうところがドライなのかもなぁと思いました。
マイノリティは犠牲になってしょうがないとして、
例えばそう言っている工学系の人が少数派や弱者になって、
犠牲を強いられた場合どうする?と問うたとしても、
犠牲になるよって普通に答えそうですし。
東北の復興にはお金がかかるので、GDPの低い東北の復興は本当に必要か、
なんて言っているブログかツイートかに出くわしたことがあるけれど、
そういう切りすてこそ深みのない功利主義なんだと思う。
原発事故が起こった時に、
政府が情報を小出しにするようにしておきながら
避難範囲の半径10kmとか20kmとかありましたけど、
あれだって政府はパニックを恐れての功利主義的な動きをしているんじゃないか
と疑ぐった人って多かったと思うな。
福島は犠牲になれみたいに考えてないかという疑い。
こんへんでも、功利主義一辺倒だとかにならず道徳論だとかとせめぎ合わせて、
絶えず揺れているような姿勢でいるのが、悩ましいけれど本当なのかもしれない。
考え方でも、一色に染まっていると安泰な気分になるけど、
そもそもそんな真理を突いている考え方ってないんだろうから、揺れているのが良さげ。
それが、まぁ、一つの僕の結論となりました。
本書はこんな僕のような社会学よりの読み手からしてみても、
ロボットそのものの駆動系や制御系なりの記述は、
難しくて理解しがたいところが多いながらも新鮮ですし、
やっぱりこれからの人工知能を考えた時の、
倫理観を考えるというのも、人間そのものを振り返る意味でも
面白かったです。
10代だとか、若い人でね、これから工学系を中心にやっていきたい
とする人は、本書は夢が広がる本の一つになるでしょう。
原発事故が起こって、その廃炉への作業にはロボット技術の革新が必須だ、
などとも言われています。
注目分野ですし、伸びていってほしい分野です。
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『ロボット創造学入門』 広瀬茂男
を読んだ。
この本を買ったのは、その頃たぶんに
心脳問題というのに興味が湧いていて、
ロボットひいては人工知能が人にだんだん近づいていく昨今なので、
そのあたりの理系的アプローチがあるのではないかな、
と思ってでした。
残念ながら、「心と脳について」にあたるような論考はなかったのですが、
ロボットにプログラムする倫理感覚などについて、
まず人間はどうなのだと考察していくところは、
中高生向けの岩波ジュニア新書だとしても、非常に興味深かったです。
というよりも、中高生でもけっこう頭の切れるタイプの人じゃないと
理解できないのではないかと、その他の章も含めて思ったくらいです。
それでも、知的好奇心をくすぐられるように書かれていて、
記述でも専門的な言葉やらx、y、zを使った数学的記述もあるのですが
くだいた文章なので、わからないところはわからなくても、
おおむねは理解できます。
まず、地雷除去ロボットの製作過程を追いながら、
ロボットってどんな感じかというのを知っていくことになります。
さらに次章で、ヘビ型ロボットの製作過程を追っていき、
ロボット観を深めていくと同時に、
製作者である著者の生活なども垣間見えて、面白い読み物としても
読み進めていくことになります。
その章で言われているのに、こんなのがありました。
__________
大学院のいいところは、十分に時間をかけて考える時間があることだ。
朝研究室に行って机に座り、窓の外の雲を見ながら考える。
図面を書いたり計算したり、実験をしながら考える。
昼になったら、毎日欠かさないようにしている道場での空手の練習をして、
夏ならその後プールに飛び込んでダラーと泳ぐ。泳ぎながら考える。
そして学食でお昼をとり、また机に向かって窓の外の雲を見ながら考える。
あきたら研究室の仲間と雑談をしたりして、また考え続ける。
腹が減って耐えきれなくなったら、家に帰って晩ごはんを食べ、
テレビなど見てリラックスする。
そして、風呂の中や寝床で眠りはじめるまで考える。
もちろん、ときどき飲み会で羽目をはずして大騒ぎしたり、デートもしたけどね。
こんなふうに、時間を十分使ってじっくりと考えつづけられるのが、大学院だ。
最近の大学では、短期間で博士号をとらせようとするような国の政策で、
ゆったりとした余裕をもって研究しにくいような雰囲気があるけれど、
私は昔ながらの大学院のいいところをなくなさないほうがいいと思っている。
__________
すぐに結果を出せ、だとか迅速主義的に事を成せと言われがちな現代で、
とくに顕著なのは民間企業だと思いますけども、上の記述こそが
本当らしいように思いますよね。迅速主義なのは場当たり的だったりもします。
とはいえ、これは研究についてのことですから、
何にでも適用してみようというわけではありません。
でも、こうやってゆったりと一つのことに当たる経験にこそ、
学業や研究の楽しいところがあるのではないかな。
さて、最初のほうに書いた、ロボットの持つべき倫理について。
その章ではまさかの「囚人のジレンマ」についての考察もあります。
また、未来のロボットは倫理などをわきまえた知能を持つようになるとすると、
それが功利主義にのっとった考え方をプログラムするべきだ、
みたいな主張で締めくくられているので違和を感じたのです。
大多数の幸福のためには少数の犠牲はやむを得ないとする考え方が功利主義です。
この本の例だと、工場が爆発する危険があるときに、
自動走行の車型ロボットが工場内で作業しているとすると、
爆破を止めるボタンを押すためには何人かの人間を轢き殺してでも、
その目標を遂行しなければいけないとしていた。
大多数の救助のための少数の犠牲はやむを得ない、と。
カントの道徳論では否定される考えらしいです、ちょっとググってみた。
たとえば、地球が爆発するときにそれをとめるためには、
少数のあるいは半数の人類の犠牲が必要で、
それは人類の種の存続としても大多数の幸福としても必要という功利主義の考えがでてきたら、
それはしょうがない気がするんです。
危険度の高さだとかどれだけを助けるためだとかで、
やっぱり少数派は犠牲になる。
この本ではアシモフのロボット三原則も否定されていました。
ロボットを人間のようにする、
つまり利己的な生存優先の考え方を植えつけてから、
三原則でしばりあげて奴隷化するのはおかしい、という主張。
合理的にというか、本質的に考えると、それはそうかもしれない。
人間に似せる必要はない。
理系というか工学系というかそういう人って、
こういうところがドライなのかもなぁと思いました。
マイノリティは犠牲になってしょうがないとして、
例えばそう言っている工学系の人が少数派や弱者になって、
犠牲を強いられた場合どうする?と問うたとしても、
犠牲になるよって普通に答えそうですし。
東北の復興にはお金がかかるので、GDPの低い東北の復興は本当に必要か、
なんて言っているブログかツイートかに出くわしたことがあるけれど、
そういう切りすてこそ深みのない功利主義なんだと思う。
原発事故が起こった時に、
政府が情報を小出しにするようにしておきながら
避難範囲の半径10kmとか20kmとかありましたけど、
あれだって政府はパニックを恐れての功利主義的な動きをしているんじゃないか
と疑ぐった人って多かったと思うな。
福島は犠牲になれみたいに考えてないかという疑い。
こんへんでも、功利主義一辺倒だとかにならず道徳論だとかとせめぎ合わせて、
絶えず揺れているような姿勢でいるのが、悩ましいけれど本当なのかもしれない。
考え方でも、一色に染まっていると安泰な気分になるけど、
そもそもそんな真理を突いている考え方ってないんだろうから、揺れているのが良さげ。
それが、まぁ、一つの僕の結論となりました。
本書はこんな僕のような社会学よりの読み手からしてみても、
ロボットそのものの駆動系や制御系なりの記述は、
難しくて理解しがたいところが多いながらも新鮮ですし、
やっぱりこれからの人工知能を考えた時の、
倫理観を考えるというのも、人間そのものを振り返る意味でも
面白かったです。
10代だとか、若い人でね、これから工学系を中心にやっていきたい
とする人は、本書は夢が広がる本の一つになるでしょう。
原発事故が起こって、その廃炉への作業にはロボット技術の革新が必須だ、
などとも言われています。
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