Fish On The Boat

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『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』

2015-08-18 23:14:57 | 読書。
読書。
『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』 加藤陽子
を読んだ。

日清戦争から太平洋戦争までの近現代史を扱った、
第9回小林秀雄賞受賞作の、中高生向けに行われた講義録。

たいへん勉強になりました。
歴史、とくに近現代史はよく知らなかったですから。
そして、考えながら読むという感覚の歴史の本です。
内容が濃いので、何回か読まないと、アタマに定着しなそうではあります、
が、読みごたえはすごくありました。

まず、日清戦争も日露戦争も、朝鮮半島がかなり深く関係しているんだなというのを、
はじめて認識しました。だからこそ、1910年に朝鮮半島を日本は占領したんですね。
また、あの時代、力で示さないと欧米列強に認められないという時代だったようだから、
一等国を目指すには避けられなかったかのようでした。
時代の流れっていうのがありますよね。
すべて自律的、独善的に歴史を切り拓いていったわけじゃなくて、
他律的とまでいわなくても、他国や時代の空気、その当時の考え方などによって
誘発される行動ってあるもので、こういった日清・日露の戦争なぞは、
そういったものとの絡み合いで起こっている感じがしました。

そして、第一次世界大戦をへて、
満州事変、日中戦争、太平洋戦争へと転がっていきます。
勢いがついてそうなったように見えてしまう。
というか、明治維新が起こったそのスタートからして、
太平洋戦争の敗北へのゴールは決まっていたかのようにすら思えてしまいました。

そしてそんな坂道を転がるように戦争の道へと突き進んでいった日本の、
その勢いに拍車をかけた軍部の影響力増大の理由のひとつに、
当時の政党が実現できなかった、農村部などの大多数の庶民を保護する
政策を、軍部が掲げてそれを実現してしまい人気を得たというのが印象に残りました。
戦争になってしまえば、そんな政策は吹き飛ぶのですが、それでも
民衆は彼らを保護する政策を掲げた軍部を支持してしまった。
そして勢いづいていく。
2・26事件に代表される血なまぐさい粛清事件や暗殺事件も多いし、
憲兵による厳しい検閲など、民衆や知識人らの取り締まりが厳しい時代になっていき、
本当に軍部が主権を握って、果てしのないアジア制覇の侵略戦争が起こっていきます。
要は、経済で日独伊の三国で世界の覇権を握ろうというものですよねえ。
日本の場合は欧米へのコンプレックスも関係しているように読めました。

さらに驚いたのは、勉強不足ゆえの、戦争に関する死傷者の数値について。
日中戦争から太平洋戦争で死傷された中国人の数は、
兵士で300万人、民間人で800万人、あわせて1100万人だそうです。すごい数です。
また、広島への原爆投下後の1945年8月7日にソ連が日本へ宣戦布告して攻めてくるのですが、
当時満州にいた200万人のうち、24万人が死んでいる、そして64万人がシベリアへ抑留され、
その1割強の人が、過酷な環境のために亡くなっているそうです。
ソ連の南下もバカにできないどころか、大きな戦禍だったのだなあと知りました。

また、朝鮮半島からは朝鮮人の16%が日本の炭鉱などに連行されていたようです。
ぼくの住む街にも炭鉱がたくさんあって、朝鮮人労働者慰霊碑っていうのを
子どもの頃に見学して見たことがあるんですよね。
先生からはそのことに関しては触れられなかったような気がする。
日本人として卑屈にならないようにだとか、そういう消極的な判断があったのかなと
今になって推測するところですが、そういうところにこそ、
時間を使って議論をしていくべきだったのではないのか。
大人になっても難しいことではありますが。
まあ悪いことは悪いと、占領下の人びとを統治する仕方が悪いとか、
差別が本当によくないだとか、
そういうことをできるだけクリアにしたほうがいいのではと思ったり。

それにしても、こういう歴史の授業なら、食い入るように聞いたでしょう。
それでも、難しいしペースが早くて落ちこぼれたかもしれないですが、
興味は残ったと思うんです。
こういう近現代史を題材にしてレポートを書いてみるという自由研究だって
あっていいよなぁと思います。
もう夏休みが終わるころですので、中学生の人なんかは来年の自由研究の
素材のひとつとして読んでみたらいかがでしょう。
大きなお世話かな・・・。


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