イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技 」読了

2018年08月26日 | 2018読書
和田 美代子/著 高橋 俊成/監修 「日本酒の科学 水・米・麹の伝統の技 」読了

ついこの前にちょっと世間で話題になった日本酒を手に入れることができた。そこで少しだけでも日本酒についての知識を深めてみようではないかとこんな本を読んでみた。

しかし、さすが科学が発展している現代だ。日本酒が出来上がるまでのメカニズムは完全に丸裸にされてしまっているのだ。
お酒というのはどんな種類のものでも、目に見えない何かの作用によって穀物や果物がお酒に変身する。その神秘さがあるからこそ普通の食物とは一線を画しているような気がしていたけれどもそこまで知られてしまっては逆に残念な気がする。せめてパンティだけでも穿いていてくれないと想像力というものがなくなってしまうではないかみたいな・・・。

そしてその日本酒の醸造技術はすさまじく発展しているらしく、その年の米の出来具合や仕込み水の質にほとんど関係なく思いのままに味わいをコントロールできてしまうらしい。
それをよしとするか、いやいやはやり伝統的なそれこそその蔵に住む酵母菌で醗酵したしたお酒でなければ日本酒と呼べないと思うかは人それぞれでいいとは思うのだが、そんな先端技術がなければこんなに安くお酒を飲めないというのも事実であるからぼくはよしとするとしておこう。
今までは、せめてもの矜持として糖類とアミノ酸が添加された日本酒は飲みたくないものだと思っていたけれども、それさえも含めて味わいをコントロールできているのであればそれでもよいのではないかと思える。多分、いくらなんでもそんな三倍醸造酒は酒とは呼べないなどと思って飲むからあまり美味しく思えないのであって、いやいやこれは科学の粋を集めて醸されたお酒だと思って飲むとそれはそれで美味しく思えてくるのではないだろうか。

同じように、「アルコール添加」についてであるが、イメージとしてはなんだか出来上がったお酒にアルコールを追加して水増しをしているのだという悪い感じがするのであるが、これは大きな間違いだそうだ。まず、アルコールを添加するタイミングであるが、醪を作るときに添加される、多少は水増しという意味合いもあろうが、許可されている分量は醸造に使われる白米の総重量の10%までというごくわずかな分量で、それよりも醪の中に入っている香気成分を酒かすから分離した日本酒の中に引き出す効果があるそうで、それをしない日本酒よりも風味が増すのだそうだ。また、酸味が抑えられ、すっきりした味わいになるそうだ。ああ、これはなんとなくわかる気がする。江戸時代にはすでに酒かすを蒸留したアルコールを添加する製法がおこなわれていて、300年も前からの製法となるとこれはもう十分伝統的な製法であると言えるのではないだろうか。

アミノ酸とか糖類を添加した日本酒が出回っているからアルコール添加した日本酒も同じように見られてしまうのだから、いっそのこと、ドイツのビールみたいに、これ以外混ぜちゃダメっていう法律と製法を決めてしまえばもっと日本酒の地位は上がるのではないかと思う。もったいない。

「マッサン」が再放送されているけれども、マッサンが実家で元摺り歌を歌って酒母造りをしているシーンがあったが、それが「山卸し」という工程だというのをこの本を読んで初めて知った。ちなみに「山廃」というのはこの工程を省いた造りかただそうだ。
この、酒母(酛)を作る工程では雑菌を寄せ付けないように乳酸醗酵を利用して酸性の環境を作り出すのだが、それさえも省いて乳酸を添加してしまう速醸酛という醸造法まで開発されている。それを良しとするかどうかは別にしてお酒のラベルを見てもそこまでわからないのだから添加物がどうのこうのという前にすでに古来から続く醸し方からは相当変わってしまっているのである。もちろん、古来からの製法を守っている酒蔵もたくさんあるけれども、やはり僕の手の届く値段ではなさそうであるのでここでは考えないことにしよう。


そしてもうひとつ、なぜ日本酒にはワインのようなヴィンテージが存在しないか。それは日本酒が長期の貯蔵に適したお酒ではないのではなく、ただ、税務上の制約であったというところはなんだかもったいない。昭和28年までは日本酒を生産するとその石高に応じて酒税がかけられていたそうだ(造石税)。酒蔵も払った税金はすぐにでも回収したいからその年に造ったお酒はできるだけ早く出荷する。だから古酒は残りにくいとなる。今では出荷時点で酒税がかかるようになっているのでこれからは長く寝かされたヴィンテージが出てくることになるそうだ。まあ、そんな高級なお酒を口にすることはないであろうが・・。
独立法人酒類総合研究所という団体は「日本酒百年貯蔵プロジェクト」という、日本酒を百年寝かしてその品質の変化を分析しようとするプロジェクトをおこなっている。その中には、和歌山県で見つかった、コルク栓をして筵に包まれた日本酒も保存されているそうだ。どこの酒蔵に眠っていたのだろうか?こんなお酒なんて、ぜひとも味わってみたいものである。


そして僕が手に入れた件のお酒であるが、あれ以来魚が釣れなくなり、いまだ冷蔵庫の中に眠ったままである。ああ、早く飲みたい・・・。


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