イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「カタストロフ・マニア」読了

2017年09月01日 | 2017読書
島田雅彦 「カタストロフ・マニア」読了

主人公は新薬の治験の最中に冬眠状態にさせられ、目覚めてみるとそこはコロナ質量放出による原発からの放射能汚染、何者かの陰謀による新型ウイルスのパンデミックの世界であった。そんな世界を生き抜く物語である。
まあ、流れはよくあるように、何の取り柄もないひとりの男がいくつかの偶然に導かれながら生き抜くような形だが、大概の物語のように何者かに対して勝利するというのもではない。
そこが多分この作家の世界観なのだと思う。世界がどうであれ、自分らしく生きるということの大切さみたいなものを考えろと言っているようだ。

電力がダウンし、通信が途絶え、パンデミックのために物流、人の交流ができなくなる。人々は小さな閉ざされた世界で共同生活を送る。老人たちが知恵を出し合い、昔々の生活を再現する。
その対極として人工知能が作り出した仮想?の世界がある。そこでは選ばれた人間だけが人工知能に支配されながらも快楽に満ちた生き方ができる。

主人公はどちらの世界を選ぶのか・・・。この世界は意外と脆いガラス細工のような世界なのかもしれない。確かに電気や通信が止まれば何もかもできなくなり、ひとたび未知のウイルスが蔓延したらどうなってしまうのだろうか。
この物語ではわずか2週間の冬眠中に世界は一変する。震災、水害のニュースを見ているとたしかに世界が変わり果ててしまうにはそれほどの時間を要しないのかもしれない。
そういう意味ではこの物語もあながち全くのSFということでもないように思う。その時、僕はどういう生き方を選ぶのが人生を生きたと思えることになるのだろうか・・・。

生きるということはナイフのエッジの上をなんとかバランスを取りながら渡っているようなものである。
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