「読んでおきたいベスト集！『太宰治』」のその5は、私の大好きな『斜陽』からの抜き書きです。なお、画像の腕時計は私の母の形見です。農作業などの時のため、丈夫な男物のセイコーの時計を身に付けていました。
『斜陽』
〈326ページ〉
あくる朝、直治は寝床に腹這いになって、煙草を吸いながら、遠く海のほうを眺めて、
「舌が痛いんだって？」
と、はじめてお母さまのお加減の悪いのに気づいたみたいなふうの口のきき方をした。
〈341ページ〉
上原さんは、お酒を飲み、煙草を吸い、そうしていつまでも黙っていた。私も、黙っていた。私はこんなところへ来たのは、生まれてはじめての事であったけれども、とても落ちつき、気分がよかった。
「お酒でも飲むといいんだけど」
「え？」
「いいえ、弟さん。アルコールのほうに転換するといいんですよ。僕も昔、麻薬中毒になった事があってね、あれは人が薄気味わるがってね、アルコールだって同じ様なものなんだが、アルコールのほうは、人は案外ゆるすんだ。弟さんを、酒飲みにしちゃいましょう。いいでしょう？」
〈409ページ〉
土間があって、それからすぐ六畳間くらいの部屋があって、たばこの煙で濛々として、十人ばかりの人間が、部屋の大きな卓をかこんで、わあっわあっとひどく騒がしいお酒盛りをしていた。私より若いくらいのお嬢さんも三人まじって、たばこを吸い、お酒を飲んでいた。
『斜陽』
〈326ページ〉
あくる朝、直治は寝床に腹這いになって、煙草を吸いながら、遠く海のほうを眺めて、
「舌が痛いんだって？」
と、はじめてお母さまのお加減の悪いのに気づいたみたいなふうの口のきき方をした。
〈341ページ〉
上原さんは、お酒を飲み、煙草を吸い、そうしていつまでも黙っていた。私も、黙っていた。私はこんなところへ来たのは、生まれてはじめての事であったけれども、とても落ちつき、気分がよかった。
「お酒でも飲むといいんだけど」
「え？」
「いいえ、弟さん。アルコールのほうに転換するといいんですよ。僕も昔、麻薬中毒になった事があってね、あれは人が薄気味わるがってね、アルコールだって同じ様なものなんだが、アルコールのほうは、人は案外ゆるすんだ。弟さんを、酒飲みにしちゃいましょう。いいでしょう？」
〈409ページ〉
土間があって、それからすぐ六畳間くらいの部屋があって、たばこの煙で濛々として、十人ばかりの人間が、部屋の大きな卓をかこんで、わあっわあっとひどく騒がしいお酒盛りをしていた。私より若いくらいのお嬢さんも三人まじって、たばこを吸い、お酒を飲んでいた。
The fifth part of "Best of Dazai Osamu's Must-Reads!" is an excerpt from my favorite novel, Shayo.
The watch in the picture is a keepsake from my mother. I wore a sturdy Seiko watch for men when I was doing farm work.
Shayo
Page 326
The next morning, Naoji was lying on his stomach in bed, smoking a cigarette and looking out at the sea in the distance.
"Your tongue hurts, I hear?" he asked, as if he had just noticed for the first time that his mother was not feeling well.
Page 341
Uehara drank, smoked, and remained silent for a long time. I also remained silent. It was the first time I had ever come to such a place, but I felt very calm and good.
"Why don't you have a drink?"
"Huh?"
"No, little brother. I think it would be better if you switched to alcohol. I was addicted to drugs in the past, and it was because people found it creepy. It's the same with alcohol, but people tend to be more forgiving of it. Let's turn you into a drinker, little brother. Isn't that great?"
Page 409
There was a dirt floor, and immediately next to it was a room of about six tatami mats. The room was filled with cigarette smoke, and about ten people were gathered around a large table, drinking noisily and loudly. Three young ladies, about younger than me, were also there, smoking and drinking.
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