もうおうちへかえりましょう (小学館文庫) | |
穂村 弘 | |
小学館 |
☆☆
穂村弘さんの、「世界音痴」に続く二冊目のエッセイ。(初出、2004年)
短歌が存分に散りばめられていて、その分野に疎い私には、好都合の短歌入門書である。
ユニクロのフリースはよく燃えるってたしか誰かが言っていたような・・・天道なお
したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ・・・・・・・・・・・・・岡崎裕美子
起きぬけで曇る視界のはしっこに焦げた東京タワーが見えた・・・・・・・・・・・天道なお
北風にわらべはみたり月光患側団団員募集のポスター・・・・・・・・・・・・・・・・・山崎郁子
初雪発見係目覚めて呆然とみつめるいちめんのゆきのはら・・・・・・・・・・・・・穂村 弘
木枯しも今は絶えたる寒空よりきのふも今日も月の照りくる・・・・・・・・・・・斉藤茂吉
手応えでだめだとわかるクロ―ゼットの扉のレールのわずかな歪み・・・・・兵庫ユカ
ラジカセの音量をMAXにしたことがない 秋風の最中に・・・・・・・・・・・・・五島 論
おきぬさんおくらさんとておを付けて名を呼びあひしとほき母の世・・・・・佐藤正枝
若い人がつくる短歌、ささいな日常の中に、絶望であったり、希望であったりが
見えかくれする。日によって、茂吉などが良かったり、心に響く歌が違うのは、
受けての自分自身の心のおきどころか。
おまけ・・・
「妖怪になりたい」では、これからの時代には、もうこんな人は出てこないだろうな、
と思わせる人がいると、宮沢賢治であったり、そして、存命の方では、水木しげるは大物だと
最近のゲゲゲ・ブームを予言するような一文が載っている。
戦場で片腕を失い、「会って家族がびっくりしてはいけないと思い、腕のない私の姿を
はがきに描いて送っておいた」というエピソードなど、不屈の浮世離れとでも云うべきかと。
「妖怪になりたい」という水木のエッセイ集を一読して、充分妖怪だと思えると・・・。
小心者の怪しさの漂う歌人、穂村弘は、世間離れしている点では十分、妖怪への登竜門は
既にくぐっているのか。・・・エッセイのちょっとしたフレーズと言葉に、
不思議と心温まる、一冊である。
11-04
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