おれ、穴を掘ろう。なんで今まで、掘らなかったんだろう。墓穴とか、囲炉裏の穴とか、みんな掘りに行こう。村中の穴、全部掘ろう。
涙を汗でごまかしながら、トカムは穴を掘り続けた。深いところまで掘った。地面が硬くなって難しいところも、一心に掘った。トカムの掘ったところは、ほかの奴が掘ったところと微妙に違っていた。なんとなく凸凹が少なく、形が整っている気がする。そこに何かを感じている者もいた。
男というものは、他の誰かに違うものに気が付くときは、痛いと感じる。穴を掘っているトカムは、みなにそれを感じさせるものがあったのだ。
「ようし、今日はもういい」
ひとしきり掘っていくと、やがてまたアシメックが言った。みなはほっと溜息をついて、作業をやめた。
「だいぶ掘れたな。七日かかると言ったが、もっと短くていいようだ」
イタカの野に現れた大きな溝を見て、アシメックは言った。
「この調子なら、あと二日でできる」言ったのはシュコックだった。
「このまま掘って行って、最後に沼の岸の土を掘りぬくんだ。そうすると、溝に一気に水が流れる。ここらへんの低いところに水が広がるだろう」
アシメックが手を広げながら指し示すと、みなはあたりを見回した。アシメックの予想では、この野の湿った土のある一帯はみな沼になるというのだ。
「浅い沼になるな」とシュコックは熱い感動を感じながら言った。
「ああ、そして来年の春には、ここらへんに稲の苗を植える。そうすれば、採れる米の量がずっと増える」
「でかい夢だ」
「やってみるさ」
アシメックは堂々と言った。