春の鹿狩りが終わりに近づき、歌垣がせまってくるころ、とうとう、前からの約束通り、稲植えを決行する日が来た。
アシメックは楽師たちを岸に座らせた。丸太をたたきながら、楽師は新しく作った稲植えの歌を歌う。
新しい沼に
稲を植えろ
若苗を分けて
稲を植えろ
米が増える
米はうれしい
沼の岸には、稲植えに参加する村人が集まっていた。男も女もいる。みなおもしろそうに目を輝かせていた。手には、ヤテクに教えられて、沼からとってきた稲の若苗を持っている。若苗をとるにも方法があった。同じ株から三分の一の苗を分けてとるのだ。そうすれば稲の元気が保てる、とヤテクは言った。ヤテクはずっと稲を見ているから、そういうことがわかるのだ。
「ようし、みんな、沼に入れ!」
楽師の横に立っていたアシメックが右手を高々とあげ、合図した。するとみなが一斉に沼に入っていった。新しい沼は浅い。人が足をつけても、ふくらはぎが濡れる程度だ。底もまだ硬いから歩きやすかった。
「教えたとおりにやれ! 隣と一歩分間を開けて植えるんだ! 根を十分に底に差せ!」
アシメックは声高く言った。それを聞きながら、村人たちは一心に稲を植えた。みな初めての仕事だから、最初はなかなかうまくいかない。苗の根を土に差しても、すぐに倒れてしまう。だが、何度もやり直していくうちに、だんだんとコツがわかってきた。見る間に沼は、新しい苗で埋まっていく。
アシメックは沼で働く皆を見渡した。胸に熱いものがこみあげて来る。これは風が起こす風紋だ。みなおれの気持ちに従って動いてくれる。それは美しい。これをきっと、神は空から見ているだろう。ミコルの風紋占いのように、この見事な風紋を見ているだろう。
もちろん仕事は一日では終わらなかった。日が傾き、みなが疲れを見せるころ、アシメックは仕事を終わらせた。
「よしいいぞ、今日はこれまででいい。続きは明日やろう!」
おお、という言葉がみんなの中から起こった。麗しい声だ。疲れていても、みな喜んでいる。いいことをしているからだ。みんなでいいことをしているからだ。