グレッグ・スティーヴンス
太古には大地も空も海もなく、ただギンヌンガ・ガップという裂け目があるだけだった。北のニヴルハイムの冷気と南のムスペルハイムの熱気がこの裂け目でぶつかり、そこから巨人イミールが生まれた。イミールはアウドウムプラという牛の乳を飲んで育った。イミールの体からは巨人たちが生まれた。アウドウムプラが塩味のする岩をなめると、そこからブリという神が生まれ、ブリと巨人の種族からオーディン、ヴィリ、ヴェーの神々が生まれた。神々はイミールを殺し、その死体から世界を創った。イミールの血は海や川となり、肉は土に、歯や骨は岩や砂礫になった。髪は草花となり、頭蓋骨は天になった。
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創世神話における死体化生の話はほかに中国の盤古の神話などがありますが、それには死して腐敗したものがまた新たな生命の養分になっていくという自然界の再生のシステムが反映したものと考えられます。ですがこの神話は少し違うことを感じますね。おそらく、オーディンを主神とする種族は、何らかの先住民族を襲い滅ぼしたことがあるのでしょう。イミールはその先住民族の記憶ではないかと思われます。その戦いは陰惨だったのに違いない。ゆえに北欧神話はラグナロクという破滅に流れていくのではないか。自分たちもまた、なんらかの神々を滅ぼしたことがあるからです。