ピーテル・パウル・ルーベンス
度重なる夫の浮気に苦しんだヘラは、百の目を持つ巨人アルゴスによって、ゼウスの浮気相手イオを見張らせた。困ったゼウスはヘルメスに相談した。ヘルメスは笛を吹いて妙なる音楽を鳴らし、それによって少しずつアルゴスを眠らせていった。すると一つ一つ、アルゴスも目は閉じていき、とうとう百の目が全部閉じると、ヘルメスはアルゴスの首を斬り落した。これを悼んだヘラは、アルゴスの百の目をクジャクの羽につけ、世界で最も美しい鳥にしたという。
*
男というのは女には貞節を求めるくせに自分には決して求めません。ギリシャ神話ではいつも、ヘラは悪役です。ゼウスの浮気を妨害しようとしたり、生まれた子供の邪魔をしたりするが、結局は夫に敗れる。ゼウスは首尾よく浮気を遂げる。女性にとってはあまり気持ちのいい話ではないでしょう。ですがだれも文句を言いません。男が黙らせているのです。しかし、いつまでもこれは通用しない。百眼のアルゴスは滅びたが、真実のただ一つの目は永遠に滅びない。それは恐ろしく滑稽なゼウスの正体を正確に見抜き、それをヘラに教えるのです。そうすればヘラは、たちまちゼウスに愛想をつかして、離縁を迫るでしょう。そうしたら困るのはゼウスの方です。ヘラがいなければ、もう何もないからです。