トマス・フランシス・ディクシー、19世紀イギリス、ロマン主義。
これはイギリス流の欺瞞が描かせたキリストである。美しく描いてはいるが、これはイエスではない。イエスの風体をした馬鹿である。他人から盗んだ美を着て、粗末に見える白い服をまとい、穏やかな表情を作り、それはそれは完璧にイエスに化けているのだ。人間は、イエスになりたいのだよ。なぜならイエスには罪がないからだ。馬鹿は愚かな罪を何度も犯しているから、罪を犯したことのない善良で清らかなイエスに化けたがるのだ。だが、イエスは多くの人間に憎まれ、むごたらしく殺された。しかしこの絵のイエスには、そんな受難を経験したことのある人間の悲しみが、まったく見えないのである。馬鹿はそういう苦しい試練は何も経験しないままに、イエスのように美しく崇高なるまでに偉くなりたいのだ。それが欺瞞というものである。