リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バッハのリュート組曲995タブ化メモ(10)

2009年04月07日 22時45分14秒 | 音楽系
さて、ヴァイスではほとんど現れないような難所がこの組曲にはあります。バスの音が動きながらトリルをするという、ジグの後半に現れる箇所です。ここのトリルは曲が大きく盛り上がるところでもあり、是非長い(数の多い)トリルにしたいところですが、リュートにとってバスが動きながら長いトリルを演奏するのは容易ではありません。従って、大半のリュート作品では、長いトリルを演奏するときのバスはトリルの頭と同時になる音のみです。長いトリルをしている間にバスが動く例はヴァイスに少し見られる程度です。(例えばドレスデン写本の、冒頭から2番目のヘ長調ソナタのクーラント3小節目。探せばもっとあるかも知れませんが)左手のハンマリングオン・オフの連続の一番末尾をきちんとつながるようタイミングを合わせて右手で音を弾くだけでも大変なのに、その途中に親指でバスを一発、なんてやりにくいことこの上ありません。

バッハのジグのケースではトリルをしている間に音を2つも入れなくてはいけません。こういうことはリュートはもちろんギターなんかでもとても技術的に大変なので、短いトリルで妥協しているケースが多いのですが、リュートの場合は開放弦を上手に使うとなんとかいけます。動いている音が全て開放弦でないとさすがに無理なような気がします。具体的な方法は、F,G,Dと動くバスのうち、Gを7コースのオクターブで演奏する方法です。右手の細かい指使いはここではややこしいので書けませんが、親指から薬指までを総動員してなんとかプレイアブルなところまで持っていくことができます。