リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ラウテンヴェルク

2013年03月19日 14時57分32秒 | 音楽系
リサイタルで演奏するバッハのリュートのための組曲BWV995。以前ト短調版で何度か演奏したことがあり、前回のリサイタルでも取り上げようかなと思っていた曲です。結局前回では演奏を見送り、組曲4番変ロ長調(無伴奏チェロ組曲第4番のリュート編曲)を演奏しました。その流れでCD第1集に入ってしまいました。

今回はいままで使っていた版を全て破棄して新たに書き直しました。この曲はバッハの「公式」リュート曲の中で唯一の間違いなくリュートを前提として書かれた曲です。なにせ自筆で「リュートのための組曲」ってちゃんと書いてありますから。他の独奏曲は実はどこにもリュートのためのということばはありません。BWV996から999まではリュート曲のような感じではありますが、リュートを演奏する人間から見るとものすごく鍵盤楽器的です。でも鍵盤楽器奏者から見るとものすごくリュート的のようです。

音の数が少ないし、音域も低いし。音型も独特。実はこれらの曲はバッハが好んで演奏していたという「ラウテンヴェルク(ラウテンクラヴィーアとかリュートチェンバロとも)」という楽器のために書かれたというのが定説です。ラウテンベクというのはチェンバロにガット弦を張ってあたかもリュートのような感じの演奏ができるという楽器のようですが、現物が残っていないので実際にはどのようなものだったははっきりしていないと言われていました。でも後述するように最近現物が発見されて修復されたそうです。

ラウテンヴェルクの研究をされている方でよく知られているのはチェンバロ奏者の山田貢氏です。ラウテンヴェルク研究の著書もおありです。(バッハとラウテンクラヴィーア(シンフォニア))CDの録音もあります。最近出たラウテンヴェルク(ラウテンクラヴィーア)のCDでは渡邉順生のものがあります。氏のCDに最近発見されたラウテンヴェルクのことが書いてありました。それによりますと、実はラウテンヴェルクは以前はバッハとの関連だけで語られていたのが、実際はそれ以前から他の地域でも使われていたようで、「リュートチェンバロと言えば、バッハとのみ関連づけてきた時代は、もやは完全に過去のものとなった」そうです。



渡邉氏のCD解説で、組曲ホ短調BWV996について次のようなくだりがあります。「・・・テクスチャーの単純さや演奏技術の容易さから来るのであろう、いぶし銀のような渋い輝きを持った作品に仕上がっている・・・」うーむ、やっぱりねぇ、この曲は演奏技術的には容易なんですねぇ。想像はつきますけど。でもリュートで弾こうとするととてつもなく難しい部分があります。ホ短調というのがそもそもリュートには鬼門ともいうべき調で、鬼門を避けるべく移調してヘ短調やト短調に移調して演奏するわけですが、どの調に移調してもめちゃくちゃ弾きにくいところが出てきます。あと可能性がある方法としては、まだだれもやってないと思うんですけど、ロイスナーが使っているホ短調用のスコルダトゥーラを使うという手があります。試しに「難所」をこの調弦で弾いてみましたが、なかなか見込みがありそうです。このスコルダトゥーラは1コースをミに、2コースをドに下げます。全曲さらってみないとなんともわかりませんが、この勢いで1006aも原調のホ長調で行けるのではという感じがします。一杯調弦をし直さなければならないので面倒ですがやってみる価値はありそうです。でもまぁそれはリサイタルが終わってからですね。(笑)

さてこの996番の組曲の第5曲目ブーレという曲は、ポール・マッカートニーの「ブラック・バード」のインスピレーションを得るきっかけになった曲だということはご存じですか?以前このブログでも書いたような気がしますが。何かのライブDVDでポールが自分で語っていました。別の映像でも同じ事を言っていました。これって一般に知られていることなんでしょうかね?

話が飛びまくってきましたが、新たに書き直した995番についてはまた次回。