リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

引用、転用、クリソツ、盗作

2019年03月06日 23時47分23秒 | 音楽系
昔の和歌では、本歌取りという手法があるようで、有名な昔の歌のフレーズと取り入れて別のを作ることのようです。あんまり取り入れすぎると盗作かなんかわからなくなってしまうので、決まりみたいなのもあるそうです。

音楽の場合は、ポップスの場合は「クリソツ」という手法がありまして、そっくりだけどなんかちょっと違うように作ることらしいです。昔ゲーム音楽の作曲を頼まれたとき、依頼した会社からは、「Whamのラスト・クリスマス」のクリソツを作ってくれ」って頼まれたことがありました。ヘタすると盗作になりますので、似ているけどちょっと違うふうに作りましたけど・・・もう大分前のことで、当時はゲーム音楽はヤマハのFM音源用に作らなければならず、出せる音が三声までなので、こっちの方でも苦労しました。

バロックとかもっと前のルネサンス時代は、カンタータでコラールの引用とか、パロディと呼ばれる自分や他人の曲を別の目的で転用するのはごく一般に行われていました。今ならうるさく言われるかも知れませんが、当時は情報の広がる範囲が限られていて、しかも広がる時間もかかったでしょうから、そんなに問題にはならなかったのでしょう。

今度リサイタルで演奏する予定の、ゴーティエ作曲「メサンジョーのトンボー」の最後6小節は、引用されている部分です。



以前、ホプキンソン・スミスとのレッスンで、「この部分って、ダウランドのファンタジアからの引用ですよね」って私が言ったら、彼は「ああ、そうだ」と答えましたが、どのファンタジアからかは私も深く聞きませんでした。というのも、「種々のリュート曲集」(ロバード・ダウランド)に収められているダウランドのファンタジアと思い込んでいたからです。でもずっとあとで、ふと思い出したのでしらべてみましたら、ダウランドのファンタジアの15、16小節目が似ているので、それをメサンジョーのトンボーの件の部分と同じだと思い込んでいました。確かに似てはいるのですが、ぴったりと同じ風ではありません。

ところがさらにあとになって、思わぬところからこの部分がやはり引用されていたことが分かりました。ディオメデス・カトーという16世紀末のポーランドのリュート奏者が書いたファンタジアの中にほぼぴったり同じ部分がありました。



カトーはルネサンス時代の人ですので、作品もルネサンス・リュートのためのものです。ゴーティエの件の作品はバロック・リュートのためのものです。ですので、カトーがゴーティエの曲の一部を引用したということはありえません。件の部分はこの2人以外の誰かの作品Xがあってそれをこの2人が引用したという可能性もあります。なかなか興味深いです。一度時間をみつけて詳しく調べてみたいと思います。