リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

フェルメールの誤解(2)

2019年03月02日 12時25分25秒 | ウソゆうたらアカンやろ!他【毒入注意反論無用】
以前ある新聞(経済関連の記事で著名な新聞ですが、トシなので名前が出て来ません)の連載コラムで、フェルメールの「ギターを弾く女」に関する記事がありました。執筆者は女性の音楽学者の方だったと思いますが、どうも名前が思い出せません。

コラムは女性と音楽がテーマで(だったような気がします)、10回の連載のうちのひとつでした。そこに出ていたのが件の「ギターを弾く女」の絵でしたが、執筆者曰く、女性はルネサンス・ギターと思われる楽器を弾いている・・・



ウソゆうたらアカンやろ!

フェルメールは17世紀第2、第3四半期の人で、この絵が描かれたのが1670年頃、この頃はバロック・ギターの全盛期。オランダの裕福な商人はたっぷりお金を払って流行りの装飾的なバロック・ギターをこぞって購入したことでしょう。もしこの絵の楽器がルネサンス・ギターだとしたら、それは100年以上前に製作された楽器ということになり、それをわざわざ絵の小道具にはしないでしょう。エレキギターをかっこよく弾いてる風に決めて、(エアギターでいいんです)写真を撮ってもらうことはあっても、誰が明治時代の楽器を弾いている写真をわざわざ撮ってもらうもんですか。でも、いちいちそんなこと言わなくても、この絵の楽器自体を見れば、ルネサンス・ギターという判断は排除されます。時代、地域、絵そのものからみて、別に古楽の専門家でなくとも、深い議論をするまでもなく判断できるレベルのことです。

私は、その新聞社に、記事の内容に誤りがある旨のメイルを書き、それを執筆者の先生に見て頂くようお願いをいたしました。その回答は以下のようでした。


お問い合わせありがとうございます。筆者にお伝え致しましたが、絵画に書かれたギターをどう解釈するかの問題とのことです。筆者によれば、フェルメールの生没年を考えればバロック期ですからバロック・ギターとも考えられますが、当時はルネサンス・ギターも併存しておりました。また拡大画でみると5弦のようにも見えますが、4弦で最低音弦が弾かれた直後のような揺れ方をしているようにもみえます。いずれせによ絵画を見ても断定はできないので本文中に「ルネサンス・ギターのようだ」と書いており、断定はしておりません。以上、ご理解のほどよろしくお願い致します。



件の先生があまりに不勉強なのでいちいち指摘するのも気がひけますが、一応書いてみますと;

「・・・バロック・ギターとも考えられますが・・・」
→「とも」というのはありえません。ごく普通に時代背景を考えたら、まずバロック・ギターかな、と思うべきです。


こちらがバロック・ギター。一般的に現代のギターより弦長は長いです。(現代のギターは弦長65cmくらい)17世紀後半に製作された楽器。

「当時はルネサンス・ギターも併存していました」
→併存はしていません。17世紀後半に書かれた、出版された、あるいは筆写されたルネサンス・ギター用タブは見たことはありません。逆にバロック・ギター用のタブは山ほどあります。


こちらがルネサンス・ギター。16世紀後半の楽器をもとに製作。弦長は52cmなので、どっちかというと大型のウクレレという感じです。

「また拡大画でみると5弦のようにも見えますが、4弦で最低音弦が弾かれた直後のような揺れ方をしているようにもみえます」
→あのー私はシロウトではありません。編集部にはちゃんと名乗り経歴も書いておいたのですが、こんな書き方をされるとなんかアホにされているような感じが。(笑)この楽器に必要な弦の数はペグ(弦巻き)またはペグ穴を数えればわかります。ペグは10本、5コースのバロック・ギターです。

「「ルネサンス・ギターのようだ」と書いており、断定はしておりません」
→ここで逃げを打っているわけですけど、正直に適当に書いたといってくれればまだよかったのに。

「ご理解のほどよろしくお願いします。」
→理解不能でしたので、再度もう少し詳しく説明したメイルを書きましたら、「ご指摘誠にありがとうございます。貴重なご意見を再度頂き感謝申し上げます。ご意見は担当部にお伝え致します。今後もご愛読をよろしくお願い致します」という返事で、それ以降何も連絡はありませんでした。件の新聞はまだとっていますが。


以上誠にオソマツでした。いえ、私のことじゃないですよ。


※写真は、Die Laute in Europa 2 / Andreas Schlegel & Joachim Luedtke / The Lute Corner 2011 より引用させていただきました。