シンポジウム案内
まちづくり条例から建築基準法改正をイメージする
http://blog.goo.ne.jp/nasrie/e/06ff6f94418550012db4111be5e91a4a
1. はじめに
「都市計画マスタープラン」には、都市計画に関するその自治体の基本的な方針が定められている。
方針は、自治体の将来像が描かれている自治体の憲法とも称される「基本構想」に即した形で市区町村が定めることになっている。
「基本構想」は、自治体の議決事項と定められてきた。2011年の地方自治法改正により、自治体議決を要するか否かは自治体に委ねられたとはいえ、それまでの経緯から、住民が選挙で選ばれた議員が、議決により定めたまちの将来像に基づき策定された「都市計画マスタープラン」が、そのまちの将来のあるべき姿を描いていることは否定し難い。
しかし、現実には、「都市計画マスタープラン」に描かれたまちの姿とは相いれない開発が、「適法」という名のものと、まちを変容させている。
建築紛争に関わった経験のある住民であれば、だれもが一度は耳にする、「法律を守っているので(行政としては)どうすることもできない」が、住環境を守ろうとする住民を絶望に陥れる。
それでは、「都市計画マスタープラン」とは相いれない開発に対し、住民は建築基準法改正を待つしかないのだろうか。
分権時代のまちづくりにおける地方議会の役割について、自治体議員として経験してきた地方自治体に起きている開発に伴う問題と、それに対する行政や議会の対応の現状と課題について述べたい。
2.建築紛争における住民と行政・議会との関わり
近隣にある日突然、中高層のお知らせ看板が出され、ほとんどの住民は、そのとき初めて、そこに開発計画があることを知ることになる。説明会におもむき、それが、予想以上に高かったり、敷地に迫っていたりするなど住環境に影響を及ぼすことがわかる。
そこから、住民はあらゆる方法を駆使して、情報を入手し、開発からの影響を最小限に留めようとするわけだが、簡単にはいかない。
事業者は、法令を守っていて違反建築ではないので計画をつもりは無いと言う。事業者とのやりとりだけでは、何ら打開策を見出せず、議員に頼むと、議員は、行政の相隣担当へつなぐ。
一縷の望みを持って、場合によっては議員とともに赴いた行政からは、開発業者の言葉を繰り返すように、違反建築でない。今の法律では合法であり仕方ないといわれ、振り出しに戻ってしまう。
これが、多くの建築紛争において住民が経験する議会や行政との関わりではないか。
3.住民の意識と行政・議会の認識のギャップ
住民の関心事のほとんどは、「階高を下げられないか」「隣地との距離をとれないか」といった住環境への影響の軽減、或いは、まちなみ、景観を守ることだ。
しかし、行政は、開発計画が、法令の範囲内であることが確認できれば、住環境への影響やまちなみ、景観は行政の範囲外とする。
現在、多くの自治体が行っているのは中高層条例等による紛争の予防だ。
例えば「大田区中高層建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」の目的に、はまず、「良好な近隣関係を保持し」と書かれている。このことからも、またその名前からも中高層条例等が、紛争予防であり、環境の保全でないことがわかる。
議会も、行政と同様の認識と言っていいだろう。
特に、筆者の属する大田区議会では、慣例的に「マンション紛争等『私人』間で解決すべき内容を含む陳情」を審査対象外として区議会HPでも公表している。
その背景には、土地所有者の土地使用権を限りなく広く解釈する現状と開発による経済効果という認識が存在していると言えるだろう。
4.分権時代の議会の役割とは
それでは、まちづくりにおける議会の役割とは一体なんだろう。筆者は、地方議会に必要かつ重要な役割は大きくは「議決機能」とともに「立法機能」であると認識している。果たして、地方議会は、担うべきこうした役割に答えているだろうか。
地方自治法改正により、「基本構想」も「都市計画マスタープラン」も議決事項になりうるが、たとえ議決事項になったとしても、それが「都市計画マスタープラン」を機能させることには直結しないだろう。
地方議会とは執行機関である行政の規範を規定する「条例」を作る機能を持つ機関であるはずが、自治体条例の殆どは、首長からの提案により条例を制定しているのが現状である。行政が提出する議案をチェックし「議決」しているだけでは、行政の認識を超えるまちづくりは不可能で、住民の問題意識に応えることはできない。
例えば、2010年度議会改革白書によれば、2008年に可決された議員提案・議員立法はわずか56議会3.7%に過ぎない。可決されていない議案を含めても議員提案された議会は、121議会でわずか8%である。
しかし、私たちは、ここで、分権社会をめざした目的に立ち返らなければならないのではないだろうか。
東京大学大学院教授 神野直彦氏は「改革で重要なことは、目指した『目的』を見失わないことである。日本国民が分権社会を目指したのは、1993年の国会決議にさかのぼる。その目的は、『ゆとりと豊かさを実感できる社会』を実現することであり、それは、日本社会の目標について『成長優先』から『生活重視』へと転換することを意味していた」といっている。
遅々として進まない、建築基準法改正だが、住民の多様な意見の代弁者である議員で構成する議会が機能することが、今後のまちづくりにおいて、重要ではないだろうか。
議会の本来の機能である「立法権」機能させるため、1999年の地方自治法改正により議員提案要件は1/8から1/12に緩和されているが、議員提案による条例制定はなかなか増えていない。
大田区議会のように、まちづくりの現場で起きている課題について住民の声を公に聞く場である陳情や請願の機会を制限し、経済効果など、開発側の論理だけで政策を見ていれば、現在の法の不備を自治体としてどう補則しようかという力は働かない。
大田区議会の事例は極端な事例だが、まちづくりの現状に対して現行法が機能せず、住民の生活環境を守れなくなっている現状に、なんら対策を講じていないのが現在の地方議会ではないだろうか。
5.機能していない紛争予防から開発調整へ
まちづくりにおける行政の機能は、そのほとんどが、紛争予防に過ぎないが、それを「条例」により機能させるためには、どのような機能が必要だろうか。
建築紛争の当事者である住民から「もっと早く知っていたら」という言葉をよく耳にする。住民の多くは、中高層の看板がでて初めて開発計画を知るからだ。
計画を知ったのちも、説明会が義務付けられていないため、戸別訪問で説明されたり、書面がポストに入っていて説明をうけたことになる。仮に説明会が開催されても説明を聞くだけで、住民からの要望をいうことさえできない。中高層条例は、住民と事業者の協議の場ではなく、条例に基づく義務である説明履行の場にすぎないとは言い過ぎだろうか。
また、住民の関心事は、計画により住環境にどのような影響があるかを具体的に知ることにあるが、情報公開制度に基づき開示請求しても企業のノウハウやプライバシーをたてに非開示となることが少なくない。
現在、多くの自治体では、開発指導要綱に基づき良好な街並みへの誘導を図っているが、その規定の実効力はどうだろうか。条例化が求められるが、いますぐ運用規定を変えることで改善される問題もみられる。
たとえば、大田区で設けている緑化の規定は、高い木ほど多くの面積算入ができる緑化規定がある。3000㎡以上の開発に求めている公園・広場の整備も、できるだけ正方形に近い形でとし、楯横の比1:3と規定しているが、多くは道路に沿ってセットバックする形で細長い土地が提供される例外規定で満たしている。
一方で、紛争を経験した住民が、新たな紛争を予防するため、地区計画策定に取り組むことは珍しいケースではない。しかし、長い時間と手間と費用をかけ策定した計画が行政の手元で放置されるケースも珍しくない。大田区では、住民が行政に提出した地区計画を2年間放置したあげく計画区域を変えるよう住民に働きかけている事例もある。
こうしたことから、
①情報公開
②行政手続と住民の権利の明確化
③例外規定よる運用の形骸化の排除
などが課題と言える。
これら自治体での課題に対して、真鶴市、練馬区、京都市、狛江市など、条例で解決しようとする先進的な自治体も出てきている。
6.立法機能をもった議会になるために
議員提案による条例制定が増えない理由として、専門知識やサポート体制の不足が上げられる。
そのためには、当然のことながら、議会自ら、住民の声に耳を傾けるとともに、現状のまちづくりの現場における問題を制度としてどう解決できるかアドバイスできる専門家のサポート体制を構築することが必要である。
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