それでは、現状において大田区が採るべき待機児対策とは何でしょうか?
大田区が行っている待機児対策の問題点はどこになるでしょうか?
時間軸からみた待機児対策のポイントについて考えます。
【2】大田区が行っているの待機児対策と4つの問題点
*1.時間軸からみた待機児対策のポイント
①女性の就労需要の高まりと少子化
②幼稚園など他の子育て支援施設との関係
2.保育環境の確保と優先順位
①国基準緩和は最優先されるべきか
3.保育園のフレキシブルな運営と設計
①年齢別保育による硬直した保育所運営
4.長期的・戦略的視点にたった子育て支援計画
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そこで、大田区の待機児対策です。
大田区は、待機児対策として、2010年度予算に
1.私立認可保育園(①用語説明は最後に)2施設の新設に伴う建築費用
2.グループ保育室(②)の設置費用
3.認証保育所(③)運営費補助
4.保育ママ(④)経費
5.認可保育園改築費用
を計上しています。
はたしてこれらは、現時点で深刻な、そして、その後、子どもの数が著しく減少していく待機児問題の対策として、適切といえるでしょうか。
第一に、時間軸の問題があります。近い将来一層進む少子化を見越した税金投入になっているのでしょうか。
そこで、よく議論になるのが子どもを持つ女性の就労需要の高まりが今後どのようになっていくのかという問題です。
依然残るM字カーブと変わらない乳幼児を抱えながら働く女性をめぐる環境
日本の女性の「年齢別労働力率」のグラフはM字カーブが特徴であると言われています。 この切れ込みは、女性が結婚・出産・育児を機に働かなくなることを意味していますが、子育て支援策の充実している欧米では、このM字カーブは見られません。
日本において近年このM字の谷の深さがゆるやかになっていますが、女性が出産・育児にかかわらず就業を続けるようになっているのではなく、「独身、子ども無し」で働いている女性が増えているからです。末子年齢3歳未満の既婚者の数は増えておらず、特に乳幼児を抱えながら働く女性をめぐる環境は依然として改善されていないのです。
女性の労働力率が10%高まった場合の保育需要
現在働いていなくても就労を希望する子育て中の母は年々増えています。2008年現在、末子が6歳未満の世帯における母の就業率約42%を欧米並みの60%以上までどのように引き上げていくのかが今後の課題と言えます。
そこで、就業率が10%上がるとした場合を試算してみると、2022年に保育需要は約10200人になり、今年度の定員増を加えた1182人とほぼ同じになります。現在の計画数のままであっても、10年余で過剰になってしまう計算です。
保育需要を保育園だけで担えば幼稚園が定員割れに!?
また、今後高まる保育需要を保育園だけで担えば、こどもの数が減っていますので、幼稚園が定員割れをおこす可能性があります。
おおよその試算ですが、女性の就業率が10%上がると仮定すると2022年の保育需要は約10200人。保育園でこの保育需要をすべて担えば、残りの、保育園にいかない区内の3歳から5歳のこどもが全て区内幼稚園に通ったとしても現区内幼稚園園児数を1000人以上下回る計算になります。
近い将来、こどもが減ることが明らかであるにも関わらず、区が税金を投入して用地を取得し、施設を建設して新規民間事業者に参入させるのが今回予算計上されている待機児対策です。しかも、保育園に入所できるのは2年後以降と、比較的遠い将来であり、今、仕事を始めたい、就労を継続したいと願う区民の需要にはこたえられません。
区立幼稚園を廃園した目的はどこに!?
区立幼稚園を廃止し、幼児教育を充実させると言いながら、保育園が子どもを抱え込むのであれば、区が説明した区立幼稚園廃園の効果は全くありません。区長の公約でもある認定子ども園の設置は遅々として進まず、結果として幼稚園経営を圧迫しかねません。園庭など施設も充実しており、幼児教育の長い実績を持つ幼稚園を子育て支援施設として活用することを検討もせず、保育園定員増一辺倒で進むことが、長期的視野に立った待機児対策と言えるでしょうか。
■用語説明■
①認可保育園
国が定める基準(こども一人当たり面積・保育士配置またその就労形態・給食設備など)により運営。
②グループ保育室
大田区が新たに設置しようとしている認可外保育施設(国基準でも東京都基準でもない保育施設)。大田区はまだ設置基準すら定めていない。今後要綱にて定める予定。面積は認証保育所に準じると区は説明するが、保育士配置基準や就労形態は不明)
③認証保育所
東京都が定めた基準に基づき設置。国からの補助金はない。
面積は国基準と同様だが、非常勤保育士を認める割合が高い。また、近隣に公園があれば園庭にかえることができる。
④保育ママ(家庭保育福祉員の通称)
要件を満たした自宅の一室を使い0歳1歳児を保育。
保育を行うものの資格は、自治体により異なる。大田区は、保育士、教員、助産師、保健師、看護師の資格をもっているか、育児経験のある25歳以上70歳未満の健康な方。