初公開年以来の「マンダレイ」と初鑑賞の「イディオッツ」を観てきました。
正直、「マンダレイ」は、初公開当時DVDも買わなかったくらいイマイチだったので、今回は見送ろうかと思ってました。
ですが、早く特典のポストカード欲しいさで、途中寝てもいいや~気分で観たら、
めちゃくちゃ面白かった!
オチを知ってても、やはりラースのアイロニーが随所に散りばめられていて、コレ!コレ!この皮肉さが好きやねん!と半ば興奮状態で観てました。
そう、これ、ダブルオチだったことを完全に失念していて、もう一つのオチにマジ痺れた!
と同時に、ラース日本嫌いなんや~というのも伝わってきて、日本人ファンですがゴメンナサイという気持ちで最後まで観てました。
当初は、ビョーク主演の「ダンサー〜」でアメリカに行ったことがないのに製作したラースに対する批判によって、その反抗心で制作されたアメリカ3部作の1作目「ドッグヴィル」に続く2作目として制作された。本来はニコールが続投でグレースを演じる予定でしたが、スケジュールの都合で降板し、3作目は「ワシントン」というタイトルで3部作が完結する予定だったのも頓挫してしまったという曰く付きの作品。
ニコールのグレース降板は良しとしても(ブライス・ダラス・ハワードのグレースは文句なし!素晴らしかった!ぶっちゃけ、色んな意味でニコール降板して正解だったかも…)やはり、せめて3部作完結してしてほしかった。
ここからは、たくさん黒人という言葉を使っています。差別用語と分かっていますが、最初に謝ります。すみません。
ここで描かれているのは、既に70年前に黒人奴隷制度が廃止されたにも関わらず、今もなお(映画上ね)根強く残る奴隷制度に対して、ギャングの娘という立場を利用したグレースが、白人と黒人の奴隷関係を撤廃し黒人に自由を与えようと一緒に生活しながら、いい意味で奮闘する、悪い意味でお節介を焼き、最後に現実を目の当たりにするという皮肉たっぷりの物語です。
グレースがギャングの娘という立場を利用して善行為を行うこと自体が既にアイロニーがあり、そこに加えて、善き行いと思って振舞ったことが次々裏目に出る。
この物語で重要になってくるのが、女主人が書いた「ママの法律」というノート。
ここに書かれているのは、女主人の綿花農場で雇われている使用人達を性格ごとで分類し、農場での役割やルールが記載されている。どこからどう見ても自由の欠片すらみえない、奴隷制度そのものが書かれたノートである。
グレースは黒人に自由を与えるべく、開放すべく白人にも平等に働くことを命じる。
女主人所有の緑地帯の生い茂った木々で黒人達に個々の家を建てることを提案したり、多数決という民主主義の精神を教え、一緒に滞在しているギャングや白人を追い出す。
そして、黒人達に本当の意味での自由を与えた時に悲劇が起こり、現実を目の当たりする。
砂嵐によって綿花や作物、食料の被害が起こる。緑地帯が砂嵐の防波堤の役割を担っていたが、木々を伐採したことで被害が拡大した。
それはまだ始まりに過ぎない。
砂嵐で肺を患った女の子のために置いていた食糧を別の黒人女性が食べてしまったがために女の子は死んでしまった。
多数決という民主主義精神を植え付けたことによって、その食糧を食べた女性を銃殺することになる。グレースは生かそうとするが、それだと多数決で決まったことを反故することになり、嘘の民主主義を伝えることになるので銃殺は免れない。そして、復讐心を植え付けないために銃殺を実行するのはグレース本人であった。
グレースは、この黒人たちと衣食住を共にするうちに、ママの法律ノートに記載された、性格ごとに分類された中で優秀の部類1に入る男性を好きになっていた。
白人とギャングがいなくなったとき、2人は初めて交わる。その行為は愛の片鱗すらない儀式的な目合いであった。
目合いの翌日、綿花で得たお金が盗まれたことが判明する。黒人たちは、ギャングが持ち去ったと疑うが、盗んだのはグレースと目合った男だった。
ママの法律では、その男は酒も飲まない優秀の部類1に入っていたと思っていたが、最下位の最も質が悪くズル賢い部類7の人間だった。グレースは1と7を読み間違えていた。というか、頭もキレるし男としても魅力的だったから1だと思い込みたかったのだ。
これが1つ目のオチ。
2つ目のオチは、ママの法律ノートは、実は女主人が書いたのではなく、ママの直属の使用人だった男が書いたものだった。
70年前に奴隷制度が撤廃され、黒人に自由が与えられたが、どうやって生きていけばいいのかその指針、そのやり方は教えられていない。野放し状態だった。だから黒人たちが生きていくために、生きやすくするためにあえて法律を作り実行してきたのだ。
性格ごとに分類することによって役割と役目があり、そのことで秩序が保たれていた。緑地帯も伐採しない、綿花の種を埋める時期も決まっており、全てにルールと意味があった。
グレースはそうとも知らず、ただただ自分の善を行うために民主主義という名の自由を与えようとしていたが、実は余計なお世話に過ぎなかった。また、自分がいかに傲慢な人間だったかを証明することになった。
グレースは、この農場から立ち去る意思を伝えるも、新しい女主人になることを多数決で決められたため立ち去れない。運良く父親が迎えにくることになっていたが、時間に正確な父親は、定刻には去って行ってしまっていた。グレースが、騙した男を鞭で打っていたから。
なんとかその農場から逃げ出し、ワシントンに向かって終わり。
ぶっちゃけ、脚本としてはめちゃくちゃ捻りがあって、キーワードやキーフレーズ、キーアイテム効果が抜群で、計算しつくされていて伏線の敷き方がめちゃくちゃ素晴らしかった。全てが皮肉だらけ。
最初の黒人が鞭を打たれるシーンから既に計算が始まっていた。
善き行いが裏目に出ることは多々ある。ここでは、裏目に出ることが問題ではない。
自分の身勝手な思い込みと傲慢さが、秩序を乱し、結局は自分の首を締める結果となる。
民主主義とは何か?自由とは何か?を問う素晴らしい作品だった。
ギャングの娘の立場を利用し、その立場を放棄し父親と決別する日が来たと思ったら、父親にすがらないといけない状況に陥り…。
めちゃくちゃキレッキレの脚本にマジ唸る!時間も「ドッグヴィル」より短くて見やすかったし、どのシーンも伏線になっていて見応えがあった!
いやー、観て正解だったよ!
「イディオッツ」は、黄金の心3部作の2作目。
1作目が「奇跡の海」。3作目がビョークの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」。
ラースの作品として初めて「ダンサー〜」を観て、めちゃくちゃ心が落とされたけど同じくらい感動して、レンタルで「奇跡〜」を観たら1週間無気力状態に陥った。だから、「イディオッツ」は今日まで観てこなかった、というか観る機会がなかった。存在を忘れてたというのもあるし。
今回、映画館で観させてもらって、これが「奇跡の海」より後だったことを疑うくらい手作り感があって、これがドグマ95のルールに基づいて作られことをパンフレットを読んで理解した。
「奇跡の海」のエミリー・ワトソンと「ダンサー〜」のビョークの演技が、あまりにも魂を売っかと思わすくらい深い闇がある演技に圧倒されたから、「イディオッツ」も覚悟していたけど、全然マシだった。
むしろ、テーマが明確だったから、とても考えさせられる内容だったし、描写的には確かに生々しさはあってそっちに気持ちが囚われてしまうことはあったけども、ラストに全てのメッセージやテーマが集約されていてぶっちゃけウルッときた。
知的障害者を演じながら、健常者からお金を恵んでもらったり、タダ飯を食べたり、プールを利用したりしてグループで共同生活をし、と同時に、健常者の障害者への偏見を探ったり窺ったりして、時には自分たちも試しつつ、本当のイディオッツ(愚者)は誰なのかを問う作品でした。
元々俳優さんが演じているのもあるが、知的障害者の演技がめちゃくちゃリアル。こっちとしては、リアル俳優さんがリアル俳優役でリアル知的障害者役を演じているようにしか見えなくて、現実との境い目が完全に消えてしまっていて映画であることを忘れてしまうくらいリアルだった。
ラース作品は、チャプター分けしているのが特徴的だけど、この作品はインタビュー形式で回想するという見せ方(ウディの「ギター弾きの恋」と同じ。実在の人物だと思って観てたらまんまと騙された…)だったということもあり更にリアルな世界として目に入ってきた。
主人公の女性は、明らかに闇をが抱えているが、どんな過去があるのかは全く分からない。ラストに片鱗を窺わせる、匂わせる設定にはなっているけども結局のとこは分からない。インタビューの意図も、犯罪?なのかも分からない。何か問題があったのだけは分かる。って感じ。
ラストに主人公の女性が愚者行為を演じたときのあの空気感こそが作品のテーマだと思った。
愚者を演じるという行為自体が愚者なのか?
社会不適合者が愚者なのか?
知的・身体障害者に対する偏見を持つことが愚者なのか?
親の言いなりになることが愚者なのか?
大好きな彼女が父親に連れ去られそうになるのを止めることが出来ないことが愚者なのか?
家族の前で堂々と愚者を演じることが愚者なのか?
ま、それも一理あるけど、
本当の愚者は、思い遣りがない人だと思う。
ちなみに、愚者とは知的・身体障害者のことを指しているのではないので誤解なきようにお願いします。
2週間も失踪していたのに、戻ってきた時に「生きていてよかった!」と言える気持ちが大事なんじゃないの!?
あの空気感が1番ゾッとした。と同じくらい救いがあって良かった。
人生には、乗り越えなくてはいけない壁があるが、どうしても乗り越えることができない壁もある。
環境に馴染めないなら、逃げるという選択肢は間違ってないと思う。戦ったところで何が生まれる。優越感か敗北感しかないやん。
優越感って大事か?自己満足と違うの?
敗北感は辛いで。負の感情が積み重なると人格崩壊するで。
自分の心を大事にしようや。と同じくらい相手の心もな。
ま、人のことは言えませんが…。
と思う作品だった。
「奇跡〜」も「ダンサー〜」も主人公が救われないのは悲しいけど、「イディオッツ」はまだ救われている方だと思った。
あんな環境出ていけ!って素直に思ったよ。
命より大切な学校も会社も、そして家庭もない。