いったい何を継承するのか?観るまでは同性愛と継承が全く結びつかなった。
世界ではまだまだ宗教的に禁止している国もあるが、先進国のほとんどは同性婚が認められている。一部ではあるが世界中が同性愛に対して寛容になってきている時代だからこそ、伝えなくてはいけないことがある。継承していかなくとはいけないことがある。
それは、広島と長崎に原爆が投下されたことを風化させないよう継承することと同じように、
1980年代同性による性交渉が原因でAIDSにより多くの命が奪われたこと。
戦時中は、「Firebird」のように法律で同性愛が禁じられ、宗教においても未だに禁じられていおり、日本でも同様に、明治維新以降は、男は男らしく、女は女らしくと教育においてま厳しくしつけらた時代があるように(今も残っている)、そういう世間の厳しい目線に晒されながらも自分のセクシュアリティを主張してきた人たちの命と存在と犠牲の歴史を後世にも伝え継承していかないといけないというメッセージが描かれている。もちろん、物語においてはもっと具体的なことが継承されるわけだが…。
ということで、熊林さんの渾身の演出による、第一部第二部トータル6時間半の超大作作品を観てきました。大阪公演を観たかったのですが、なんせ3月は予定が詰まっているので泣く泣く諦め東京まできました。
まるで、新国立の「エンジェルス・イン・アメリカ」に対抗するような内容でもあり作品でもありましたね。どちらも政治絡みだったし。大きく政治に絡んでないけどね。日本ではまず考えられない設定。
結局のところ、支持率や投票数のため、お金儲けのために、同性愛が利用されているようにしか思えなかった。事実そうだと思うけど。ヒラリー女史はゲイに支持されてたんやね。トランプは名前すら出てこなかったね。
それはさておき、
まるで小説をそのまま舞台化したような、ト書きも台詞になった朗読劇のようでそうでないような、なんせ、ひとつひとつの台詞が長い!
ト書きも台詞になっているから状況説明が多いが、人物描写がめちゃくちゃ細かい。
同性愛者の方って、普段は毒舌キャラでとてもユーモアがありサービス精神旺盛なイメージがあるけど、実はめちゃくちゃナイーヴでガラスのハートの持ち主の方が多いような気がする。
この「インヘリタンス」に登場する人物は、まさにガラスのハートの持ち主ばかり。
強がっているように見せて実は繊細であったり、同性愛者であろうとなかろうと不器用な生き方しか出来ない、ま、それが人間らしさではあるけど、そんな登場人物たちの物語。
6時間半だけあって、物語の展開より、人物描写がきめ細かいと思った。
私も若い頃は自暴自棄になっていた時代があったから、田中俊介君演じるトビーの気持ちがめちゃくちゃよく分かる。永遠の中二病。トビーみたいに性には溺れてませんけどね。ま、愛には飢えてたか…汗
ただ、小さい頃の傷付いた心や闇を抱えたまま成人になって放蕩三昧の日々、愛を知らないのに愛されたいと思っていた20代。10代の時にイジメられた経験の反動で、たくさんの人を傷付けたり、生意気なことを言って怒らしたり、結果引きこもりで一切他者との関わりを遮断したり、結局何をやっても思い通りにいかないからまた自暴自棄になったりの繰り返し。
引きこもりの時にカラマーゾフの兄弟の本に出会い改心しようとしたけど、結局また欲が出て繰り返し。あの頃は学ぶことをしなかったね。
トビーを見ていたら、小さい頃に抱えた闇と怒りをバネにして、偉そうな態度を取ったり、自意識過剰や自信過剰になったり、簡単に人を傷つけたりとか、自分の都合しか考えてなかったり、プライドだけは一人前で自分の否を認めないとか、若い頃の自分をみているようでホント恥ずかしくなってきたよ。
眼の前にトビーがいたら言ってやりたい。ちゃんと自分の闇と向き合わなアカンで!と。
たとえその闇の原因が自分自身でなくても、なぜ闇を抱えなくてはいくなくなったのか?根本的原因をみつけないと前進できないよと。自分だけが闇を抱えているんじゃないことを知る必要がある。私の場合は、父親の存在ではあったが、親父もまた闇を抱えて生きてきたことを理解するだけでも、人生の見え方は大きく異なる。
闇にばっかり執着して、闇の反対側の明るい面を見ようとしなかったことも自分を苦しめる要因だったと思うんよね。自分だけ悲劇のヒロイン的な…。
ものごとは、一側面だけで判断するのではなく、別の角度や視点、多面的に客観視しないと、自分勝手に誤解しているケースが多々ある。妄想の虜になって、脳内ストーリーを作り上げているケースもある。
愛に飢えてるなら余計、他人の愛に気づけるようにならないとアカンで!とトビーに言ってやりたい。っていうか、若い頃の自分に言ってやりたい。
だから余計、ラストのトビーの選択もよく分かる。あそこまできたら、自分の否を認められなくなるんよね。だって、怒りが生きる原動力でもあったわけだから、真実は怒りに値しないと気づいたら、今までの俺はなんやってん!?ってなるからね。そこを受け入れることをできたら、新たな視点で生きていけたはずなんだけどね。
福士誠治君演じるエリックは、根本的には愛を与える人だけど、やはり日本の大和撫子じゃないからご主人様に従順にはなれないんよね。ついつい余計なことを言ってしまって相手を怒らせることもある。相手がトビーだけに仕方ない結果ではあるんだけどね。エリックは、好きになる男に振り回されっぱなしで可哀想な役柄だけど、彼がヘンリーから、いや、ウォルターから相続したものは、目に見える形だけでなく魂の愛(相思相愛の意味ではない)でもあるので、ラストはまるでマザーテレサみたいな存在だったね。
山路和弘さん演じるヘンリーは、一見寛大で紳士な人間風にみせておいて、実はめちゃくちゃ自分勝手。エリックを大事にしているように見せかけておいて、裏では男娼をおもちゃのように扱っている。ヘンリーもまた闇を抱えているが故にそういう風にしか人を愛せなくなっているんだけどね。でもね、エリックにしたら溜まったもんじゃない。俺とはセックスせずに、男娼とはセックスするんだから。それがヘンリーなりのエリックを愛し方だから仕方ないが、理解に苦しむ。だが、リアルな人物描写。
篠井英介さん演じるウォルターが最も慈悲深く神様に近い存在かもしれない。早死するが故に周りに与える影響や喪失感は大きかった。
新原泰佑君演じるアダムは、したたかな男の子。金持ちのボンボンなので世間知らずと思わせておいて(トビーが勝手にそう思い込んでいる)、実は彼もまた苦労人。それを見せないようにしているだけ。トビーは恋人だったエリックを捨てアダムにはしる。結局は、トビーはアダムに捨てられる。
新原君演じるもう一人の男娼レオは、アダムに似ているが故にトビーの性の相手になる。レオはそうとは知らず、トビーに愛されていると思い込んでいる。事実を知ったレオは、トビーとの関係を断ち切る。実は、レオもまた闇があり、ヘンリーの性の相手になっている。そこには愛はなく、奴隷みたいな関係性。レオは、HIVに感染し、エリックの力添えで難を乗り越える。
今書いた登場人物が、一見接点がそれぞれ一箇所だけとみせかけておいて、実は複雑に絡みあっている。これは、「エンジェルス〜」にも当てはまる。
同性愛者の物語であるが、私には人間の物語としか思えない。各人が抱えている問題や闇に同性愛も異性愛も関係ない。だが、同性愛が故にリアルな問題は、HIV感染やAIDS発症による死者数の増加、大統領選挙の投票率と同性愛者支持層との関係性。
ただの恋愛モノなら、同性愛者である必要はない。それこそ、同性愛が見世物化しているのはいかがなものかと思う。ま、「きのう何食べた?」や「おっさんずラブリターンズ」は例外だけど…。ウッチーと吉田鋼太郎さんの演技が素晴らしい!おっさんずラブは、脚本が前回よりめちゃくちゃ良くなってる!
それもさておき、
「インヘリタンス」で描かれている人物描写は、ただの恋愛モノではない。選挙の支持率やAIDS問題だけでなく、同性愛の歴史、各人が抱えた闇が大きなテーマとうねりになっている。
そして、同性愛に関係なく、他者に対する愛をしっかり描いた作品でもある。決して表面的な恋愛モノではない。重いメッセージが埋め込まれている。
それが、ラストのウォルターの家で、ターコさん演じるマーガレットが語る長い台詞の中に、エリックやレオ、亡くなったウォルターの台詞の中にたくさんの愛が込められている。
頑張っている人間に、頑張れ!という励ましが残酷であるように、
自殺したい人間に、生きろ!との勇気づけが逆に逃げ場を閉ざすように、
双方の気持ちが交わらない場合、どういう声掛けが相応しいのかは正直分からない。
今までは、どんなに辛くても生き抜け!と言ってきたけど、それが追い詰められた人には逆効果だということを最近学んだ。私はまだそこまで追い詰められていなかったと反省した。でも、生きて欲しい気持ちは理解してもらいたい。
文字は一方通行で残酷だから役に立ちにくいけど、会話には必ず道が見えてくると思うんよね。特に舞台って想いや気持ち、メッセージが強い言葉の世界だと思うから、舞台の力を信じて最終決断する前に、どんな舞台でもいいから観て欲しいと思った。
ヨイショするわけじゃないけど、「インヘリタンス」には、生きる力がみなぎってる。
特に、ターコさんの存在や台詞には凄い力があった。ある意味反則だと思った。
たった10分程度の登場シーンで、めちゃくちゃ泣かせるねんもん!
やはり、生きて欲しいと望む人の気持ちを汲み取って欲しい。
どんな手を使っても生き抜いて欲しい。
と思う作品でした。
ターコさんの存在はほんと反則だと思った。去年の雪組100周年プレイベントでの圧倒的な大御所感と貫禄を振りまいていたターコさんと同じ人物だとは思えない、素晴らしいマーガレットでした!やはり凄い方だと思った。
福士君も減量の成果もあって、もう役の本人にしか思えない素晴らしい存在感でした。私なら男優賞にノミネートさせる。めちゃくちゃ素晴らしい役作りとアプローチでした。
田中君は、「ミッドナイトスワン」ではリアルニューハーフさんの演技でしたが、トビー役はガチ男だったね。中二病感な感じがめちゃくちゃ良かった!
新原君の二役の演じ分けもお見事でした。同じ顔だけど、声も仕草も別人でした。リアル小池徹平君だと思ったよ。最近の小池君もドラマでは見事に二面性を発揮してるからね。
篠井さんのアプローチに意表を突かれた。今まで観てきた役のイメージを想像していたから、良い意味で裏切られました。めちゃくちゃ良かった!この役でも賞取れます!
そうそう、篠井さんが演じた、二役のうちのもう一役のE.M.フォスターって、同性愛映画の金字塔的作品「モーリス」の原作者なんや!10代の頃に観て衝撃だったことを思い出した。
そうそう、誰の台詞か忘れたけど、「イングリッシュ・ペイシェント」が台詞出てきて、いつものごとく、導かれてる!と思った。不倫するならこれぐらい命懸けで愛せよ!と思った。藁
山路さんも意表を突くアプローチでしたね!甘えてる山路さんってめちゃくちゃ新鮮!私が言うとキモいですが、母性本能くすぐるね!藁藁
全員の出演者の方の感想は書けませんが、皆さん素晴らしい存在感でした!
そして、熊林さんの演出は、シンプルな舞台セットで映像を多用しているけども、言葉の力を全面に届けようとした演出だと思った。6時間半の作品上演、熊林さんの本気を感じました。っていうか、日本語訳が素晴らしかった。
ぶっちゃけ、R15感はなかったけどね!藁
m(__)m