大腸ポリープ切除に続き、
院長とすったもんだあった、白内障の手術も完了した。
最初にやった右目は、
院長ではなく、Y医師が執刀した。
「何だよ。保険診療に対して、
サービス(インフォームドコンセント)しないのは分かったけど、
手術もしてくれないのかよ。」
執刀医が、院長1人だと思って、
選んだクリニックだったので、がっかり。
(しかし後から、Y医師は院長から、
「あの人は天才だ!」と言われていると聞いた。)
手術直前に待たされる部屋は、アロマの匂いがした。
手術室の椅子が倒されると、
腹の上に、黄色いテディベアが載せられた。
患者のリラックスの為だと言う。
顔にカバー、目の周りをテープで固定。
下半身の手術とは違い、緊張して、
しゃべるどころか、固まっていた。
かと言って、尖った物が、
目の前に迫ってくるとかではない。
ただ、ライトの影が変化したり、
ピンクや緑の輪が、濡れるように動いているだけだ。
まるで、UFOに連れ去られ、
人造人間にされているようだった。
10分くらいかかると聞かされていたが、
本当に長いと感じた。
Y医師は、落ち着いて執刀していた。
翌朝、自分で、ガーゼを取るのが恐かった。
ちゃんと見えるのか、不安だった。
術前の血圧が高かったので、
精神安定剤を注射されていた。
寝る時に、息が浅くなり、
このまま死ぬんじゃないかと思うほど眠かった。
左目はまだ、真っ白な視界で、ド近眼なので、
ちぐはぐな感じはしたが、
単焦点とはいえ、右目に透明感があると、
室内も屋外も、ある程度は見えた。
想定していた見え方だったので、皆が言うように、
「世界が変わった。」というほどの感動は無かった。
決められた順番・回数で目薬をさし、
普段は保護メガネをかけ、寝る時は保護カバーをつける。
しばらくは、洗顔も洗髪もできない。
だから、夏を避けたのだ。
一週間後、左目の手術の直前に、
準備室で初めて、院長が執刀すると知った。
何だか、気まずかった。
アロマの部屋にいた時、「手を動かさないで!」と、
術中の患者を注意する声がしたので、
院長は、今日もピリピリしているなと思った。
呼ばれて、サッサと椅子にもたれると、
院長は、私の左まぶたを、ガシガシと思いきり消毒し、
カバーで鼻を押さえつけたので、一瞬、息ができなくなり、
目を開く為のテープを、ベリッと勢いよく張り付けた。
「やばい! 院長って雑!」
私は、技術よりも、その扱いに恐怖を覚えた。(笑)
前回、何なのか分からなかった英語の音声が、
南国系の歌だと、この時はっきり分かった。
院長は、自分の方に顔を傾けて動かすな、と指示した。
Y医師の時とは違い、看護師がやたら、私のデータを読み上げ、
「○○先生の紹介です。」と、手術に関係ない情報まで言う。
院長も、今やっている事を、しゃべりながら執刀した。
「痛くないですか?」と聞くので、
「圧痛が…。」と言うと、それに対する回答は無し。
じゃあ、聞くなよ。(笑)
「注射するから、チクッとします。」くらいならいいが、
「今、レンズを吸い出してます。」は、
気持ち悪いから、言わないでくれ。
よけい恐くなる。
看護師が、「○○、狙います。」と言ったが、何の事だろう。
レンズを入れる時の、要領でもあるのだろうか。
院長が、最後に珍しく、
「よく我慢しましたね。
痛かったところは無かったですか?」と気遣うので、
もはや、どうでもよかったが、
「注射が痛かった。」と答えると、
それは感染を防ぐ為だと、ピシャリと説明された。
院長の手術は、早かった気がしたが、
後で、看護師に聞いたら、
Y医師も院長も、同じ5分で終わっていたと言う。
右目を手術した4日後に、診察した女医が、
洗顔、洗髪してもかまわないと言うので、
シャワーで流してしまったのだが、
注意書には、1週間は保護メガネ、とある。
ああ、もっと慎重にするんだった!
そのせいか、後からやった左目より、右目の透明感が劣る。
禁止期間を過ぎても、ノーメイクでいたが、
久しぶりに、裸眼で見た自分の顔は、
改めてブサイクだと思った。
精神安定剤の注射による筋肉痛が、長引くので恐い。
調べたら、もむと組織が壊死すると書いてある。
もんではいないが、効き目がキツかったので不安。
白内障ロス
何だかんだ言って、
院長が執刀した左目の方が、予後が良かった。
事務的な部分もあったが、
色々話してくれる看護師もいて、面白かった。
続けてクリニックに通ったり、
検査するのは、面倒だったが、
無料サーバーのアップルティーは、美味しかった。
クリニックを去る時、なぜか寂しくなった。
「月曜から夜ふかし」で、
中国人のおばあさんが、長寿の秘訣を聞かれ、
「生きてるってより、死んでないだけだ。」と、
答えたのには爆笑したが、哲学だと思った。
金が無かろうと、不安が残ろうと、
四の五の言わずに、クリアな視界を取り戻す。
1つのミッションに向かって集中していると、
日々の嫌な事は、考えずにいられた。
こうやって、パーツを取り換え、
アンドロイド化しながら、生きていく。
小さな何かを、クリアしていく事で、
毎日をやり過ごす。
本当に、死んでないだけだ。
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