ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「I・餓男」 池上遼一

2008-01-09 09:37:51 | 
アイウエオボーイと読みます。

知ってはならぬスキャンダルを知ったが故に恋人を奪われ、喪失した主人公の復讐劇です。到底勝ち目のない敵と戦うために、アメリカへ渡り、壮絶な逃避行の末戦うための武器を入手せんとする主人公暮海。その過程で愛を失い、干からびた心に溶鉱炉のような復讐心を押し込める。池上遼一の流麗な絵柄が、壮絶な光景に暗い旋風を巻き起こす。

売れっ子の漫画原作者である小池一夫の原点とも言うべき作品。始まりは週刊現代でしたが、雑誌GOROに移行して人気作品となったものの、途中で連載が止まり長く消えていた謎の漫画でした。

作画者である池上遼一の手を離れ、松久鷹人(やはり小池劇画村塾出身)の手で完成をみたいわくつきの劇画でした。長く未完のままであったので、完結したことは私も最近まで知らずにいたぐらいです。本音を言えば、池上氏の作画で終わって欲しかった。松久氏の絵柄は、池上氏に似てないこともないが、やはり松久氏の絵であることがわかるだけに、画竜点睛を欠くことになったのは残念です。

ヴェトナム戦争末期に描かれた漫画だけに、この漫画で描かれたアメリカの姿にショックを受けたことは、未だに鮮烈に覚えています。金銭的貧しさが心を蝕み、一人ひとりの荒廃した精神が、社会全体を食い荒らしていくような壮絶な描写は、まさに漫画ならではの表現力でした。

この時代のアメリカの荒廃ぶりを伝える映画に「イージーライダー」がありますが、衝撃度の深さと、絶望度の濃さで表題の漫画のほうが遥かに勝ると私は感じていました。凄まじく荒んだ凶暴な現代社会の枠をはみ出して、復讐の怨念を燃やす主人公暮海のその後を知りたくて、長く再開を求めていた作品でもあります。

いかなる理由で中断したのか不明ですが、なぜか小池・池上のコンビは似たようなテーマの漫画「傷追い人」を生み出し、こちらは見事に完結しています。私は表題の作のリニューアルとして捉えていていたので、再開された作品の最後も似たようなものとなったことに安堵と失望を覚える妙な感慨を受けたものです。

作品としての完成度は、後発の「傷追い人」のほうが遥かに上ですが、その原点でもある表題の作ほどの荒々しさに欠けています。復讐ものに優れた作品を多く生み出している小池・池上ペアですが、その当初の意気込みを知る意味で、わざわざ欠点の多いこの作品を取り上げた次第です。
コメント (2)
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