ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ホルモン美味し

2013-07-19 11:58:00 | 健康・病気・薬・食事

嬉しいことに、幾つになっても知らないことは数多あり、知る喜びは溢れている。

若い頃から肉は好きだったが、経済事情から肉といえば鶏肉か豚肉で牛肉は偶のごちそうであった。もっとも85年のプラザ合意以降急速に進んだ円高と、牛肉の輸入規制の緩和のおかげで、安い牛肉が出回るようになった。

おかげで社会人になってからは、美味しい牛肉を満喫できるようになった。まァ、これは肉といえば牛の関西や、沖縄などとは大きく事情が異なる関東圏ならではなのかもしれない。

現実問題、日本では肉食の習慣は比較的新しい。鳥や豚はまだしも、牛肉が庶民に普及したのは明治時代以降なのは確かだ。率直に言わせてもらうと、まだまだ肉を美味しく食べる知識が慣習の域にまで達しているとは言い難い。

一例を挙げれば、やはり問題になったレバ刺しだろう。食中毒が頻発して現在は生のレバーを店で食べることは出来なくなってしまった。これはレバ刺し発祥の国である朝鮮半島ではありえない。

もちろん生のレバーには危険はある。だが、昔からレバ刺しを食べてきたコリアの人たちは、生の肝臓の扱いを熟知しているから、食中毒は起こらない。これは鮮魚の扱いに不慣れな東南アジアの国々で刺身を食べて起きる食中毒や、寄生虫感染と同じ理屈なのだろう。

それでも食文化の発達した日本は、学習能力も高い。実のところ、正肉(赤身の肉)の扱いに関しては、既に世界標準だと云ってイイ。ただ、熟成の仕方が、ドライエイジングではなく、ウェットエイジングに偏っているところが特徴でもある。

高温多湿な日本ではドライウェイジングが向かないが、それ以上に日本人が好む脂身が適度に混じった所謂差しの入った赤肉には、ドライ法よりもウェット法の熟成の方が合っているのだろう。また捨てる部位の多いドライ法を厭う精肉業者が多いことも関係あるのだと思う。

私は長い事、ヒレ肉よりもロース肉を好んでいた。肉の旨味とは、脂身の旨味だと思い込んでいたぐらいだ。しかし、年齢を重ねると、脂身の多い肉は胃にもたれる気がして、哀しいことに量が食べられない。

やもすると、好きだったカルビ肉でさえ、時として紙を食むような感触さえ感じる有様だ。そのせいか、最近はロースよりもヒレを好むようにさえなってきた。同時に関心が湧いてきたのが、通称ホルモンと呼ばれる内臓肉だ。

美味しいホルモンは、大きな貝を食すような独特の味わいがあり、決して嫌いではなかった。ただ、よく食べかたが分からなかった。だいたい種類が多すぎて、肉の名称でさえ怪しい始末である。当然、焼き加減も分からず、自然と箸が遠のいた。

ところが最近、機会がありホルモン肉を美味しく頂くことが出来た。その際、いろいろと教わったのだが、何が驚いたって流通経路が違うことだ。牛は解体され正肉(いわゆる赤身)は食肉卸業者のもとへ行く。

ところが内臓系の肉(いわゆるホルモン)は、畜産副産物卸業者のもとへ行く。つまり流通経路が違っている。つまり仕入れが二系統となる。ここに問題がある。はっきり言えば、正肉は金を出せばいい肉が入手できる。ところがホルモンは金だけでは、良い肉は手に入らないからだ。

正肉は熟成が命だが、ホルモンは鮮度が命だ。内臓は解体してみないと、その出来不出来は分からない。それゆえホルモンはどうしても品質にばらつきがある。正肉は熟成ぐあいが肉の獅ンを決める。しかし、ホルモンは素早く正確な下処理が必要となる。ここが難しい。

例えばホルモンの代表とされる大腸(関西だとテッチャン)は、便の通り道だけに丁寧な下処理をしないと臭みが残る。ところが卸業者に任せてしまうと、獅ンがある脂肪の部分をごっそりと剥ぎ取られてしまい味が落ちる。

だから腕のいい料理人は自ら大腸の下処理をやる。冬場でも冷たい真水で丁寧に大腸を洗い、臭みをとると同時に旨味の脂肪の部位を適度に残す。これはけっこう大変な作業となる。だからこそ、このような丁寧な下処理をする料理人は、当然に目利きであり、仕入れにもうるさい。

納品されたホルモンの質が悪いとすぐに卸業者に突っ返す。私も偶然立ち会ったことがあるが、それは険悪な場面となるが料理人は絶対に引かない。後で聞いたら、ここで下手に出ると卸業者に嘗められて、質の悪いホルモンを押し付けられるという。だからこそ、ホルモンの仕入れは難しい。

ところでホルモンは景気が悪くなると流行る料理の代表格だ。特に鍋料理としてホルモンを売りにしたお店が、不況の時には雨後の竹の子の如く新規開店される。あくまで私の経験上だが、この手のホルモン鍋のお店で、質のいいホルモンを仕入れることが出来るところは多くないと思う。

ホルモンは仕入れ原価が安いので、お店にとって不況時に仕入れ原価を抑制できる魅力がある。また鍋にしてしまえば、スープの出来次第でホルモンの質の悪さも誤魔化せる。「そんないい加減な仕事をするから、卸業者に騙されるんだ!」と件の料理人さんは怒っていたが、その人自らホルモンの出来不出来を判別できるようにるには十年でも足りないと言っている。若い料理人には難しいのは当然なのだ。

しかし、面白いもので、若い料理人だって自分が質の悪いホルモンを卸業者から押し付けられていることに気が付いている。そのホルモンを如何に美味しく料理するか、ここに料理人の遣り甲斐があるのだと広言する料理人だっている。

目利きに自信があるベテランの料理人だって、ホルモンの出来には波があることを認めている。正肉と異なり均質な仕入れが不可能な食材がホルモンであるらしい。だからこそ料理人の創意工夫の腕が問われる。食べる側からすると、実に面白いではないか。

今まであまり食べる機会が少なかった内臓系の肉だが、今後はいろいろ勉強しながら楽しんで食べていこうと思います。

コメント (4)
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