ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

河童の三平 水木しげる

2015-12-04 12:09:00 | 

漫画家の水木しげるが亡くなった。

「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」などで知られるが、自らが従軍し、片腕を失う羽目にもなった太平洋戦争を扱った漫画なども描いている。この人にしか描けない画風であり、模倣者、追随者のいない孤高の漫画家でもあった。

私にとっても幼少時から馴染みのある漫画家であるのだが、正直あまり漫画の印象は薄い。むしろTVアニメの原作者としての印象が強い。なかでも、一番強く記憶に残っているのが、河童の三平/妖怪大作戦である。

これはアニメではなく、実写でのTVドラマであった。記憶に残っているのは、この作品が好きだからではなく、むしろ嫌な作品であったからだ。

人間の三平少年は、偶然河童の世界に紛れ込んでしまうが、その際、河童のお姫様を助けたことから、妖術を身に着けてしまった。そのことに憤った妖怪のボスに、母親の記憶を奪われてしまい、母親は何処へか消えてしまう。

その母を探す三平たち一行に、妖怪たちが立ちふさがり邪魔をする。そんなストーリーであった。自分が誰かも分からず、子供のことさえ忘れてしまった母親の姿に、私は言い知れぬ恐怖を感じていた。

この番組が放送された頃、既に父は家に寄り付かなくなっていたので、唯一母だけが頼りであった。もし、母が記憶をなくし、私ら子供のことを忘れてしまったら・・・そう想像すると、この番組が怖くて仕方なかった。

数多くの妖怪漫画を描いてきた水木だが、私が怖いと思ったのは、この実写版河童の三平だけであった。もっとも、このシナリオはTV独特のもので、原作者の水木自身は、苦笑いしていたらしい。

実は「河童の三平」という作品は、四種類以上あり、それぞれにストーリーが違う。紙芝居版、貸し本版まで含めると、さらに異なるストーリーがあるらしいが、終いには当の水木本人が分からなくなる始末である。


なんとも、長閑というか、大雑把なものである。

晩年の水木氏は、漫画家としてよりも妖怪研究家としての活躍が多かったと聞いている。私はお化けも妖怪も見た事ないが、お化けや妖怪がいる方が、人間は幸せだろうと思っている。

何故、優しかった母が死なねばならぬのか。悪事と不正で蓄財するような輩が栄え、正義と公正さを体現した人が、世の中で虐げられるのか。なにも悪いことをしなくても、不幸は訪れる。世の中は、納得のいかない、おかしなことばかりではないか。

そんな人智を超えて理解不能で、共感も出来ないことを、無理やり論理や理性で理論づけするよりも、妖怪のせいなのだと割り切ったほうがイイと思う。

なぜかというと、理解できない残酷で容赦のない現実は、人の心を苦しめる。それを人間の論理や道理で納得しようとしても無理がある。ならば、それはお化けの祟りなのだと決めてしまったほうが、生きるのが楽であるからだ。

お化けは、完全ならざる人間が生み出した、解答不可能な問題に対する処方箋なのだと思う。そんな、お化け、妖怪を描き続けた水木氏のご冥福をお祈りしたいと思います。

コメント (2)
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