誰が言ったのか忘れたが、古代の王が国家が独占すべきものを三つ挙げている。
軍隊(警察含む)、裁判所、通貨の鋳造権。この三つを押さえておくことが肝要だと、その王様は述べていた。ただし、他の書では、通貨の鋳造権の代わりに徴税となっていたものを読んだこともある。
いずれにせよ、通貨というものは、その財産価値、流通性、利便性などの観点からも政府による管理が必要なのだと思う。
だからこそ、数年前に仮想通貨なるものを知った時は驚いた。
国家以外の存在が発行している通貨は、本質的に国家を危うくするものだとの認識があったからだ。しかし、現在、国家の規制を受けにくいインターネットの存在がある。
ネット上で限定的に使われる仮想通貨は、国家の裏付けがないが故に、極めて信頼性が低い。しかし、その利便性ゆえに広く普及しつつある。
なぜ、仮想通貨は許されたのだろうか?
この数年、私はこの問題にずっと悩んできた。現在も万全の解答を得ている訳ではない。だから、以下の文はかなりあやふやなものだ。
現在、世界で流通している通貨のうち、最も広く普及しているのは、間違いなくアメリカ・ドルである。EUのユーロも相当な流通量だが、ドルには及ばない。
これは随分と前から心配されてきたことなのだが、いったいアメリカ・ドルは何時まで信用されるのか、である。かつては金と交換できたドルだが、現在は不兌換通貨となって久しい。
つまりドルの裏付けは、アメリカに対する信用だけである。そのアメリカだが、政府は慢性的な赤字を抱え、公務員の給与や公共サービスでさえ一時的に止まることもある。まァ、これは議会の交渉戦術の一環でもあるが、アメリカ財政が危機的な状況であることには変わりはない。
もっともドル紙幣に対する信頼は、その世界一の軍事力を背景にした政治力に裏付けされているのが実相であろう。アメリカ経済が大不況に陥っても、その政治力、軍事力が機能する以上、ドルに対する信頼は揺らぐまい。
だが、歴史を学んでいるのならば、永遠に続く覇権国家なんて存在しないことは当然に理であろう。アメリカが覇権国として、その地位を確立したのは、ほんの100年前のことに過ぎない。次の100年後も同じであると、誰が保証できようか。
何度か書いてきたが、21世紀は枯渇する原油と、増大する人口、不足する水と食料を巡って争う世紀になると予想される。世界一の軍事力を持つアメリカの覇権は、当面は維持されると予測できる。
だが何時までか?
市場経済の宿命は、常に市場は動き続けなければいけないことだ。停滞こそ経済の死であり、そのためにも経済は動き続けねばならない。市場にとって、戦争は大儲けの機会であると同時に、市場を危うくする時限爆弾でもある。
大きな戦争には、好景気と大不況がセットのように付いて回る。世界一の戦争商人国家でもあるアメリカは、まさに戦争で市場を拡大し、繁栄を得てきた国家でもある。
だが永遠に勝ち続ける国家なんぞ存在しない。まだアメリカは勝ち続けるだろうが、それに伴い拡大する市場を十分に維持できるだけのドルを維持できるだろうか。不兌換紙幣であるドルを、永遠に刷り続けるつもりなのだろうか。
そんな想いに至る時、仮想通貨の役割が見えてきたような気がする。(ちと危ない発想ですけどね)
金貨や銀貨と異なり、不兌換紙幣は信用によってのみ成り立つ価値観である。その信用さえ得られれば、政府が保証しない仮想通貨でも十分だと云えるかもしれない。
ただし、現時点で私は仮想通貨に手を出す気はない。必要がないし、現時点では不安定すぎる。あれほど値上がりと値下がりを繰り返す仮想通貨なんて、危なくて手が出せない。
ドルの不安性ばかり書いてきたが、我が日本・円にしたところで不安定なのは同様である。なにせ現時点では、アメリカ・ドルを買い支えている補助通貨だと云えるくらいドルとのつながりが深い。日本財政の巨額負債の問題も看過しえない要素である。
私としては余裕があれば、金の現物が一番だと考えているが、リスクヘッジの一環として仮想通貨も考えるべきかもしれない。今、そんなことを考えています。