女同士の争いって、なんか怖いぞ。
土曜日の昼間のことだ。午前中、家事を済ませて昼食を食べてから、いつものように仕事をするために事務所に出かけた。
渋谷駅発の銀座線に乗り込む。さすがに休日だけに、この時間は空いている。以下、なんか怖いので、登場人物をヤギさんに置き換えてみます。
全体的に黒いファッションで統一した若い女性、いや黒ヤギさんが乗り込んできた。私の対面に座ったのはともかく、中型の黒い鞄を椅子の上に置いたのは、いただけないと思った。
まァ、黒ヤギさんは、電車も空いているので、いいじゃないと思ったのだろう。
電車が発車して、次の駅に着くと、ドッと乗客が乗り込んできた。でも黒ヤギさんは席から鞄を退かすつもりはないようだ。そこへ白い服装でムクムクのコートを羽織った女性がやってきた。以下、白ヤギさんと呼ぶ。
白ヤギさんは、黒ヤギさんのとなりに唐突に座り込んだ。でも黒ヤギさんの鞄が邪魔だ。すると白ヤギさん、いきなりその鞄を取り上げて、黒ヤギさんの膝の上に置いた。
驚いた黒ヤギさんは、その鞄を抱え込もうとしたが、少し大きめの鞄なので居心地が悪そうだ。隣でスマホを注視している白ヤギさんを睨みつけるのだが、白ヤギさんは知らん顔。
黒ヤギさんは怒ったように、鞄を通路に投げ出した。お!宣戦布告かな。でも白ヤギさんは見向きもしない。
対面にいた私は、これから何が起きるのか、ちょっとワクワクしながら注視していた。断言するが、男同志ならば、もう怒鳴りあっていてもおかしくない。
ところが驚いたことに、黒ヤギさんは立ち上がると、鞄を拾ってそのまま立ち去ってしまった。そして、相変わらず白ヤギさんはスマホを抱え込むように見ているだけである。
最初から最後まで黒ヤギさんも、白ヤギさんも一言も発することはなかったが、周囲の空気は緊迫感で満ちていたのは確かだ。一番間近で見ていた私なんて、喧嘩に巻き込まれたら、どうしようかと思案していてほどである。
だから両者とも、一言も発せず、片方がその場を無言で立ち去るなんて結末は、予想にだしていなかった。断言するが、男同志ならば、電車を止めかねないもめ事に発展していたことだろう。
っつうか、「この鞄、動かしてもらえますか」くらいの科白を穏やかに語りかければ、何事もなく済んだ話ではないかと思う。
車内が空いている状態で、鞄を席の上に置いただけでなく、混んできても放置した黒ヤギさんは非常識だと思う。しかし、無言でその鞄を取り上げて、黒ヤギさんの膝の上に置いた白ヤギさんも、どうかと思う。
男同志ならば、喧嘩の前ふりだと断言できるほどである。でも、女同士では違うらしい。
立ち去る黒ヤギさんを見やりながら、私の脳裏に浮かんだのは、ヤギさんの歌。
「白ヤギさんからお手紙ついた。黒ヤギさんたら読まずに食べた~♪」
人間って、ヤギよりも賢いはずですよねぇ~ そうは見えませんでしたけどね。