時には偶然もありがたい。
この時期は外回りが多く、しかも年に一回しか会うことのない顧客の元を訪れることが中心となる。その日も、久々に訪れた某地方都市に行き、午前中で用事を終えたはいいが、帰京の電車の時刻にはまだ一時間以上ある。
時間を無駄にするのも嫌なので、目についた中華料理店に飛び込み、少し早めの昼食を頂くことにした。とりあえず定番の定食のうち、ジャージャー麺と半チャーハンを注文した。
ところが数分後、私の目の前に置かれたのは、なぜか麻婆豆腐定食であった。しかも、四川風というか、真っ赤にグツグツ湯気が立つ如何にも辛そうな麻婆豆腐である。
私は甘党である以上に、辛い物が苦手。好きなカレーだって、せいぜい中辛が限度。だから、この真っ赤な麻婆豆腐に驚くと同時に、店員に文句を言おうかと思った。
しかし、私の鼻がなにかを嗅ぎつけた。なんだ、この香り・・・・よくよく麻婆豆腐を見ると、青緑色の葉っぱが覗いている。おやや・・!これ香菜ではないか。これだけ香り立つパクチーだと、採取して日が浅いものだろう。
興味が湧いた私は、そのまま食べちゃうことにした。たしかに辛い麻婆豆腐なのだが、パクチーの爽やかな香りが心地よく、気持ちよく食べられた。
途中、オーダーのミスに気が付いた店員がやってきたが、もう食べちゃったからと追い返す。値段も同じだしね。
実を言えば、私はそれほどパクチーが好きな訳ではない。嫌いでもないが、積極的に食べたいものではなかった。でも、新鮮なパクチーは別である。おそらく、このパクチーは輸入ものではなく、日本国内で栽培されたものだろう。
そうでなければ、これほど香り立つことはないと思う。やはり鮮度は重要だと思う。葉物は痛み易いから、なおさらだろう。
まったくの偶然で食した麻婆豆腐なのだが、実に気持ちのイイ味であった。惜しむらくは、私が次にこの店に来るのは一年後であろうことだ。これは致しい方ない。
でも、楽しみが増えたことが嬉しい。やっぱり私は食いしん坊ですね。