おけらという昆虫をご存じだろうか。
正式には、ケラと呼ぶべきではあるが、私は子供の頃から「おけら」と呼んでいた。コオロギの仲間で、地中生活に特化した昆虫である。
正直言って、かなり地味な昆虫である。外見も薄茶色のコオロギではあるが、地面を掘るための前足が凶暴なイメージがある他、どうしても土にまみれているので、好かれる虫ではない。
そんなオケラを主人公にした短編漫画を描いたのが、若き日の松本零士であった。地味でむさくるしいオケラの青年アムが、ほのかに恋心を抱いてしまったのが、夕焼けの空を華麗に舞うウスバカゲロウの女性であった。
決して実らぬ恋ではあるが、短命なウスバカゲロウと、逞しいオケラを見事に描き出した佳作だと思っている。
「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」などの大ヒットで知られる松本零士だが、私はあまり売れなかった頃の短編漫画が好き。漫画家には案外と昆虫好きが多く、手塚治虫と並ぶ昆虫漫画の名人であった。
ところで表題の作品は、その松本の若き日の短編なのだが、現在本棚を捜索している最中。たしか「四次元世界」という短編集にオケラ君の話は載っていたはず。もしかしたら他の短編集かも。
実は松本零士の短編漫画は、零細な出版社での刊行が多く、失われた作品もあると噂されている。松本自身は漫画のコレクターとして著名なのだが、自身の作品に関しては、案外とルーズであったようだ。
余談だけれど、オケラって実は短距離ならば空を飛ぶことが出来るらしい。私は一度も見た事、ないのですけどね。