何時の時代、どの国にあっても覇権国は我儘で傲慢だ。
もっとも覇権国自身は自らの振る舞いを傲慢だと自覚することは稀である。むしろ当然の権利だと思っている。
だがその傲慢な振る舞いで迷惑を被る国は、それを当然だと認める訳がない。どの国だって、自国ファーストである。相手が覇権国であろうと、その言い分に無条件に従う義務はない。
トランプ大統領から25%の関税を掛られたシナが反発するのも当然である。でも、どれほど反発しても、アメリカに戦いを挑むことはない。北京政府はそれほど愚かではない。シナは軍事的にも大国だが、超大国アメリカの軍事力には遠く及ばない。
だから現在進行中の米中貿易戦争は、必然的にアメリカの勝ちとならざるを得ない。ただし、アメリカの貿易赤字の解消には、たいして役に立たないだろうと思う。
元を質せば、アメリカにあった生産工場が廃止されて、シナに移転させたのはアメリカの投資家たちの決定である。投資家=株主であり、株主への配当を増やすために、人件費の高いアメリカの労働者を首にして、安いシナへ工場を移し、多額の配当を貪った。
首になったアメリカの労働者たちこそ、トランプ大統領誕生の土壌である。その事を誰よりも分かっている以上、トランプは彼らに職を与えねばならないと自覚している。
アメリカの抱える貿易赤字の大きな原因である日本との交渉は簡単だった。金持ち育ちの安倍首相とはプライベートで気があうだけでなく、トランプの抱える悩みも理解していた。トヨタを始め日本の大企業がアメリカに生産工場を増やす決定は速かった。
だが問題は、近年の貿易赤字の最大の原因であるシナである。元々シナにアメリカ企業の生産拠点を移したのは、他ならぬアメリカの投資家=富裕層である。アメリカの労働者を首にして利益を貪った投資家たちこそ、アメリカの貿易赤字の最大の戦犯である。
如何にアメリカ最高の権力者である大統領トランプの力をもってしても、投資家たち富裕層に対して、工場をアメリカに戻せとは命令できない。その苛立ちが、貿易戦争といった形で火を噴いた。
アメリカの投資家たちが見捨てたアメリカの労働者たちを救済する方法は他にもあると思う。アメリカの道路や橋、上下水道設備の大半は、1920年代の黄金時代に作られたものが多い。
ところがこれらの公共財は老朽化が進んでいる。アメリカでSUV車が人気なのも、デコボコで走りづらい道路を走るためである。そのくらい、アメリカの公共財は朽ちている。
この公共財の再生事業を大々的にやれば、アメリカの建設業は再び復活する。経済の基盤は製造業である。建設と製造は大量の労働者を必要とするため、景気浮揚効果が非常に高い。
問題はその財源である。レーガン、ブッシュ、クリントン、オバマと歴代大統領が下げ続けた富裕層への課税を、再び強化すればその財源は得られると思う。しかし、さすがにそこまでは踏み切れずにいる。元を質せば、トランプ自身が超富裕層の出身である。
そこで、トランプ大統領は一番手が出しやすい外国との貿易赤字を口実にシナを叩いた。シナの経済開放と躍進は、アメリカの産業界の要望を受けてのものである。シナとしては、アメリカの我儘、傲慢ぶりは我慢しがたいものであろう。
特にシナ寄りではない私でも、今のシナの立場にはいささか同情せざるを得ない。でも、アメリカを追い越せ追い抜けと、次なる覇権国を目指しているのは、他ならぬシナである。
シナ自体、非常に傲慢な覇権国家であることは歴史が証明している。実際、近年の海洋進出のやりようも、それを裏付けている。とはいえ、冷静に現実を直視する判断力を持つのがシナの怖いところ。
今はまだ戦争では勝てない。である以上、シナは当面、なんらかの妥協を強いられるはずだ。だが、シナの怨念は深く濃く刻まれる。21世紀の中盤以降、この二つの大国は、いずれぶつかる可能性が高いと私はみています。
なお、日本はアメリカの前線基地ですから無関係ではいられません。日本本土を攻撃する力がなかった北ベトナムとは違い、シナにはその力がある。その際、日本の平和憲法は、まったく役に立たないでしょう。
平和を愛する一国民としては、自分の死後に、日本列島が戦場になる悲劇を視ずに済むのは幸せだと、無責任に安堵しております。