ヌマンタの書斎

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軍事費の増額 その二

2023-01-20 11:48:10 | 社会・政治・一般
一年前に始まったロシアのウクライナ侵攻は、軍事史に新たな一ページを刻む羽目になっている。

20世紀の米ソの対決、すなわち冷戦時代の軍事戦略が通用しない現実が、世界中の軍隊から驚きの目をもって迎えられている。

現代戦では制空権を握った側に勝利はもたらされる。ヴェトナムでもイラクでも制空権を巡って東西両陣営の戦闘機が死闘を繰り広げた。

しかし、今回のウクライナ侵攻戦では様相が異なる。正直ウクライナ空軍は旧ワルシャワ機構軍の残滓に過ぎない。ミグやスホーイなどの最新型戦闘機を擁するロシア空軍が圧倒的であり、あっさり制空権を握ると思われた。

ところがふたを開けてみると、未だにロシアは制空権を握れない。原因はポーランド上空を飛んでいるアメリカの空中警戒機による早期警戒網と、個人兵が携行する対空ミサイルにあるとされる。

レーダーなどの電子兵装についてロシアの技術水準はアメリカに遠く及ばない。中立であるポーランド上空のアメリカ機には手が出せない。アメリカ側からもたらされるロシア空軍機の情報は素早くウクライナ地上軍に送られて、個人が携行できるような小型の対空ミサイルで迎撃されてしまう。

西側よりも多少安いとはいえ、一機当たり数十億ドルするロシア空軍の戦闘機が、一発数千ドルの小型ミサイルに迎撃されてしまうのだから、ロシアとしてはやってられない。

ただウクライナ側でも完全に制空権を握れている訳ではなく、ロシアから飛来する対地攻撃用ミサイルにより市街地が多大な被害を受けている。またロシア自慢の陸軍も予想以上に活躍できていない。

ロシアの戦車は対戦車との戦いならば決して弱くない。しかし、空中から襲ってくるドローン兵器への対応は不十分であることが分かってしまった。これまた一台当たり億ドル単位である戦車が、一機当たり数万ドルのドローン兵器に撃破されるのだから、たまったものではない。

このような不均衡な戦いを非対称戦と呼ぶ。

アメリカは既に1990年代にはこのような未来の戦場を予測していた。だからこそF22ラプターを当初の3割程度の調達に留めたり、巨大原子力空母の建造ベースを弱めたりしてきた。

その代わりに同盟国との共同製作、供用使用を前提にしたF35を使い出したり、プロペラ攻撃機を新たに開発したりと、非対称戦に備えてきた。このアメリカの動きに不信感をもっていた国々は多いが、今回のウクライナ戦争でアメリカの先見の明に改めて気づかされた。

20世紀に於いては、正しいとされた戦術が、技術の変化に伴い21世紀では適切であるとはいえなくなっている。現在、世界各国の軍事関係者は、この変化にどう対応するのか水面下で熾烈な論争が起きている。

日本における軍事費の倍増とは、この変化に応じたものなのだろうか。

そうでないことは容易に予測できると思う。相も変らぬ正面装備重視の旧態たる軍事予算である。防衛省が愚かだからではない。軍事音痴の日本国民から選ばれた政治家たちが未だに旧態にすがりついていることが愚かさの原因である。

日本が仮想敵国としている国々の多くは、高齢化が進み、子供が減少して社会全体が停滞し、縮小していくことが予測されている。それなのに、20世紀の戦術思想に凝り固まっていて良いのだろうか。

アメリカとの関係もあり、軍事費を一般的な先進国レベルまで上げなければならないのは致し方ない。なれば、その軍事費の中味を精査し、21世紀の日本に相応しいものへと変える決断が必要だ。

実は防衛省内部でも既に議論していることでもある。実際、旧態化した歩兵戦車を従来の国産兵器から、フィンランド製を輸入もしくはライセンス生産することは既に決まっている。実戦経験もない日本の兵器は、値段ばかりが高く、実用性に乏しい。だから比較的重要度の低い歩兵戦車を、安くて高性能な外国製品へと代替することに私は賛成だ。

ただし、この変更は従来歩兵戦車を製作してきたコマツが撤退したことが契機である。最近失敗兵器が目立つ三菱も名乗り出たがフィンランドのパトリアAMVには性能面で遠く及ばなかったが故の結果である。

21世紀の日本に必要な軍隊にはなにが必要か。その議論を十分にしないまま、ただ予算を倍にするなんて本末転倒であろう。まあ軍事産業に天下る予定のエリート官僚様や、軍事予算のおこぼれを狙う政治業者にはどうでも良いのでしょうけどね。
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