王様の耳はロバの耳。
いい加減誰か教えてやれよと言いたくなる。元来、日本人の清潔好きは過剰なほど。決して悪いことではないが、少々行き過ぎの感もある。
昨今流行りのリサイクルだって江戸時代からやっている。いや、おそらく古代から綿織物の縫い直しなど、時代に合わせたリサイクルをやっていたのだろうと思う。だがその一方で過剰包装なども容認するから不思議である。その包装用紙もしっかりとしまい込む人が多い。多分、貧乏性なのかと思わないでもない。
でも決して嫌いではない。私自身、包装用紙や紙の箱などを溜め込む性向はあるからだ。もちろんゴミの分別だってしっかりとやっている。ただ、ペットボトルの分別に関しては、冒頭のイソップ童話を思い出さずにはいられない。
実はペットボトルのリサイクル事業は、ほぼ失敗していると断じて良い。
最大の問題は臭いである。飲料水とりわけジュース類のペットボトルのリサイクルには、中を洗浄することが必要不可欠だ。この洗浄を十分にやらないと、リサイクルしてプラスチックペレットに再生させても臭いが消えない。
自動車の内部に使うプラスチック製品に、このペットボトルのリサイクルペレットを使ってみたが、どうしてもこの臭いの問題を解決できず、製品化を諦めている。かなり丁寧に、しかも徹底的に洗浄しないと、どうしても臭いの成分が残り、それがプラスチックペレットとして再製品化しても悪臭が漂う。
徹底した洗浄化には、水しかも不純物のない水を大量に使うため、企業としては採算性がとれないと判断している。私は某自動車メーカーに納入するはずだったペットボトルのリサイクル製品を実際に見たことがある。その時は臭いは感じなかったので首を傾げたが、真夏に路上に駐車された車を想定した実地テストで、その悪臭に驚いた。研究室では分からなかったペットボトルの不純物が、炎天下の車内では耐えきれぬ悪臭を放つのである。これでは製品として出荷できない。
既に多くの関係者、企業が周知の悪臭問題なのだが、未だ解決の目途はたっていない。コスト的に不可能だと断じるエンジニアが大半である。ところが、この惨状を知りながらも、ペットボトルのリサイクル事業は止まらない。これは政府からの補助金や日本人のリサイクル好きというかリサイクル幻想に囚われた結果であるらしい。
しかし、まったくの無駄ではない。実は解決策が一つある。それはペットボトルを洗浄切断、そして融解して作られるプラスチックペレットを発電所の燃焼剤として利用することだ。既にご存じのとおり原油の値上げは、円安と相まって貿易赤字の大きな要因となっている。日本では輸入した重油を燃やして電気を発電している。
その燃焼用の原油に替えて、ペットボトルのリサイクルで作られたプラスチックペレットを燃やして発電すれば良い。貿易赤字の減少にも役立つはずだ。
しかし、ここで大きな壁が立ち塞がる。日本は東日本大震災以来、原子力発電をほぼ止めている。そのため火力発電所がフル稼働して電気を供給している。本当は旧式化していたり、定期的なメンテナンスをしなければならない火力発電所は多い。しかし、電力の供給が綱渡りになるため、メンテナンスさえ十分に出来ていない。
困ったことにペットボトルのリサイクルから作られたプラスチックペレットを燃やすにはかなり高温の燃焼炉が必要となる。旧型の火力発電所はそれに対応できない。無理に燃やせばダイオキシンが発生しかねないのだ。
だからこそ原子力発電所の再稼働が必要なのだが、これが難しいのは原子力拒否症の日本人が非常に多いからだ。この状況を変えるには、政治家のリーダーシップと適切な報道が必要となる。しかし、政治家への不信感は高く、マスコミは反原発を正義の看板に抱えて黙り込む。
しかたなく高い原油を海外から輸入して発電しているのが、今の日本である。日本人の賢さなんて、所詮この程度なのかもしれません。