古代日本史ほど厄介な分野はない。
なにせ文献が非常に少ない。その上、その文献が政治的な理由からかなり歪められている。特に厄介なのは、日本書紀絡みの歴史だ。実は近代以前から日本書紀については、国学者を始めとして異論を唱える人は少なくない。驚くべきは明治政府になってからも、津田博士とか本格的な歴史学者が疑問を呈している。
戦前の教育を否定する戦後になってからしばらくの間、日本書紀に対する議論は活発になった。しかし、教科書に影響を及ぼすことはなかった。この原因は戦後に日本の教育界にマルクス主義が広まってしまったからだと思う。
マルクスは自説に科学的考証を加えんがために、歴史さえも科学に化粧直しさせてしまった。予め書いておくが、歴史は科学ではない。人の生き方、家族の生き方、民族の在り方、そして国家としての在り方を書き並べた記憶である。
当然にそこには自己の民族優越を織り交ぜながらも、今ある自分たちがどのような経緯を辿ってきたのかを子孫に伝えていく大事な物語である。断じて科学ではない。科学的正確さよりも、人として、民族として、国家としての根源を伝えていくものである。
そう考えると歴史教育は真実の歴史を教えることではなく、日本人としての誇りを自覚させるような教育こそ歴史の授業で求められる。それは分かるが、それにしたって日本書紀は問題が多すぎる。
その代表例が聖徳太子だろう。私が子供の頃の一万円札に描かれた古代日本史の有名人である。しかし、現在ではその実在すら否定されることが多い。いや、厩戸皇子は実在の人物だろうが、推古天皇を補佐した聖徳太子は虚構の存在であり、実際は蘇我氏のことらしい。
厩戸皇子は蘇我系ではあるが、何故に聖徳太子は虚構なのか、何故、誰が何の為に?
おそらく正解が判明する可能性は低いと思うが、反面想像の翼をはためかせる楽しみはある。そんな一助になりそうなのが表題の書です。古代日本史を良く知らないが、興味はある方には良きテキストになりそうです。
まぁ私程度の歴史好きだと、後数回読まねば物にならないとも思っていますけどね。