帰宅すると、留守番電話の赤いスイッチが点滅している。
そのほとんどが営業電話である。分かっちゃいるが、一応確認しておく。すると妙な連絡があった。総務省からで、この電話は二時間後に停止するので①を押して連絡して欲しいとのこと。で、なんで非通知の電話なのだ?
ネットで調べると、要は個人情報を引き出そうとする詐欺師グループらしい。総務省以外にも東西のNTTを名乗ったり、カスタマーセンターからだと詐称するケースもあるらしい。そういえば、私のスマホにも妙な時間(早朝とか深夜)に非通知の着歴があったが、多分同じ穴の狢であろう。
近年、私は家にいるのは夜から朝までだし、スマホもカバンの奥にしまいっぱなし。履歴をみてから折り返すだけの使い方なので、非通知の詐欺電話に引っかかることはない。
しかし、以前税理士会の支部研修で消費者センターの方を講師にお呼びして詐欺商法の講義を受けたことがある。その時、講師の方から言われて苦笑せざる得なかった。曰く「弁護士や税理士の先生はあんがいとプロの詐欺師に騙されやすいです」と。
彼らプロの詐欺師は会社経営者や弁護士、医師など教養が高く、知識も豊富な方はプライドも高いので騙されたと口外することがないと知っています。だから実際にはかなりの方が引っ掛かっていますと続けられた。苦笑を通り越して、在り得る話だと納得せざるを得なかった。プロの詐欺師は物凄い勉強家で、いつも時代の最先端の知識を武器に暗躍しているので、騙しのプロなのだと認識して下さいとまで言われた。
講演を聴きながら、自分自身も危うい部分があると思った。税務におけるグレーゾーンを活用した節税プランは、私自身業務で活用している。詐欺ではないが、結果的に顧客を騙すようなことになったことも実はある。
一例を挙げると、不動産売却損を活用した節税プランだ。これはバブル崩壊後、当たり前のように活用されていたのだが、忘れもしない平成16年3月の閣議決定で、不動産を売却したことにより生じた損失は、経常所得とは通算できないとされた。しかも、平成16年1月1日に遡って適用されるという悪質な改正であった。
法令改正を過去に遡及させて適用させるという明らかに節税封じに抗議の声が上がったが、国会を通過しての法令改正であったため、現在まで是正されることはない。ただし居住用不動産に関しては、いくつかの制約付きで認めているが、この適用を受けられる人は多くないと思う。
実を言えば、平成15年の12月に発表された税制改正大綱には小さく触れられていた。私も軽く目を通していたのだが、まさか国会を通るとは思っていなかった。実際、過去にも議題に上がっていたが、バブル崩壊後の混乱を収束させる目的で、先送りされていただけだった。
実際、不動産業務に詳しい税理士には、不動産売却損の通算不可が今度は実現するかもとの情報を得ていた方もいた。残念なことに当時、S先生は高齢と病気から自宅にこもりがちで、事務所には週一回出るだけで、以前のような情報収集をしていなかった。私は実務に追われて、情報収集を怠っていた。
だから不動産売却を行う予定であった顧客に連絡して、平成15年中の売却契約書を作成可能かを尋ね、出来るならそのように契約書を変更。それがダメならば、先送りを打診する羽目に陥った。一件はなんとかなったが、もう一件は無理で顧客から苦情を云われる始末であった。
意図した訳ではないが、私も政府の悪質な改正に手を貸したことになった。痛恨の極みであった。以来、不動産関連のコンサルティングには臆病になってしまい、慎重過ぎると窘められたこともある。でも、顧客を騙すようなコンサルティングはしたくない。それが本音だ。
まったく嫌なことを思い出させてくれる詐欺電話でしたよ。