遠山の金さんと、鬼平はどちらが強いか。あるいは、銭形平治と必殺仕事人はどちらが強いか。
私にとって最強のプロレスラーは誰かとは、これと似ている。そもそも比較すること自体が無意味なのだ。
でも、そうは言っても気になるのは確かである。私も子供の頃から、随分と最強のプロレスラーは誰かを子供同士で議論したものである。白状すれば、非常に楽しい議論であった。
現実問題として、プロレスは格闘演劇であり、主役を張るべきは、観客を喜ばせる演技のできる選手である。金を払ってくれるお客様あってのビジネスである以上、最強かどうかは必ずしも重要ではない。
実際、私が見てきたなかで、強いと云われるようなプロレスラーは、案外と名勝負からは遠かった。本当はあまり強くないけれど、観客を喜ばす演技が達者なプロレスラーのほうが楽しかった。
そうはいっても、やはり最強伝説に酔いたいのが、一プロレスファンの願いでもある。
一例をあげてみたい。最強といえば、どうしても避けて通れないのがアンドレ・ザ・ジャイアントである。あの異様な巨大さは、見た目だけで最強を名乗る資格がある。
しかし、アンドレ自身は最強なんて望んでいなかった。あまりに大き過ぎる体躯は、むしろ彼の悩みの種であった。そんなアンドレが日本で見せた一番面白かった試合が、ハンセンとの田園コロシアムでの一騎打ちである。
ブレーキの壊れたダンプカーとの異名をとるハンセンが、アンドレと全力でぶつかり合う迫力は、私のプロレス観戦歴の第一位を占めている。でもハンセン自身は自ら語っている「もし、アンドレが本気で俺を倒す気なら、俺の頭頂部に頭突きを一発、それでお終いだね」と。
それを承知の上で、二人は全力を出してプロレスを演じることが出来た試合だと、引退後も懐かしく語っている。アンドレと飲むたびに、あの試合を酒の肴にして楽しく過ごしたそうだ。
これを八百長ととるのは、あまりに無粋である。あの試合が観客に与えた感動を超える試合は、他のスポーツを含めてもなかったと断言できる。
それでも私は言わねばならぬ。アンドレは最強ではないよ、と。何故ならアンドレには、最強になる気がないから、そのための技も練習もしていないから。またアンドレは、その外見が化け物じみているが故に、彼に喧嘩を売る様な奴は滅多にいない。
身長や体重でアンドレを上回る巨漢プロレスラーは数名しましたが、アンドレ以上の存在感があった人はいませんでした。体格、容貌、運動能力、すべての面で突出したモンスター、それがアンドレでした。
子供の頃、あるプロレス会場での前座の試合中、通路に座って観戦していた私が、ふと圧力を感じて振り返ったら巨大な足があった。見上げるとアンドレ(当時はモンスターロシモフ)でした。触れてないのに、私が押されたかのように感じた存在感の圧倒さ。こんなレスラー、他にはいませんでした。
デカすぎです。あんな怪物に喧嘩を売る馬鹿はいないでしょう。
いわば戦わずして最強の地位にいたのがアンドレであったと私は考えています。でも、実際はいたんですよね、喧嘩を売った奴が。でも、それはプロレスの試合ではない。長くなるので、次回以降、ゆっくりと書いていこうと思います。
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