
先手必勝。
私は子供の頃、米軍基地の隣町に住んでいた。舶来品かぶれの気がある父の意向で、米軍払い下げの住宅に住まっていた。いわゆるトイレとお風呂が並び、巨大冷蔵庫があり、カウンター形式の台所とダイニングがある平屋であった。
下級兵士向けだったせいか、さほど広くは感じなかったが、3LDKはあり十分な広さであったと思う。庭もあり、犬を飼っていたし、ビワの生る木があったことは覚えている。
でも一番良く覚えているのは、斜め向かいにあった米軍勤務の家庭の白人の子供たちであった。二人兄弟であったが、その悪戯っぷりが半端なかった。干してある洗濯物に、犬の糞を投げつけるわ、日本人の子供たちに小石を投げつけてくるわと近所でも嫌われ者であった。
日本の警察は及び腰なので、多少英語の出来る人たちが基地のMPに直接苦情を言ったせいで、多少は大人しくなったが、それは表面上のこと。近所の森や原っぱで日本人の子供を見つけると、いきなりタックルをかまして来たりして、より陰湿になった。
斜め向かいの私は格好の獲物であったから、よく狙われた。おかげで身に染みて覚えましたよ、喧嘩は先手必勝だってね。ちなみにこの白人兄弟、なぜか家の妹たちには手を出さなかった。まあ十代になっていたら分かりませんけどね。
先手必勝といいつつ、身体の大きな白人の子供に勝つのは大変。私がよく使った手は、足音をひそめて背後をとって、いきなり首を絞めること。連中はよく広場の砂場にいたので、上手く壁伝いに隠れていけば、3回に2回は成功した。
首絞めのコツは、数を数えて、断続的にやることだと教えてくれたのは近所の中学生のアンチャンだった。最初は5秒、次は3秒、その次は4秒と断続的に締めるので、決して死ぬことはないが、やられると絶望的に体力を削られる。
これは身を持って覚えた技なので、私は臆することなく使っていた。ただ、その街を引っ越して、閑静な住宅街に移り、そこの小学校でやったら卑怯者扱いされたのには参った。どうも喧嘩の作法も地域性があるようだ。
こんなこと、誰も教えてくれない。私は身を持って覚え、それを活用し、そして痛い目に遇っている。
ところで表題の作品は、週刊ヤングマガジン誌で連載中である。新選組を中心に幕末の剣士たちの戦いぶりを描いていて、非常に楽しみに読んでいる。一巻では沖田総司と芹沢鴨の一騎打ちであり、二巻目冒頭で決着をみている。
沖田の必殺技、三段突きの新解釈は非常に興味深い。たしかに他に使用者がいないので、沖田だけが使える必殺技であったことは納得だ。で、第二戦が藤堂平助と田中新兵衛である。
幕末四大人斬りの一人である田中は、薩摩の剣士であり、その使う剣は薬丸自顕流だ。新選組が一番嫌ったとされるのが、この示現流である。その凄まじさは、明治時代の西南戦争において広く知られることとなった。
必殺の一撃は、防御が意味をなさない。受けた剣や銃を叩き折り、兜ごと頭蓋骨を壊す威力である。これは幾多の政府側の兵士の死体を検証した結果なので、改めてその恐ろしさが分る。
だが幕末に於いてはまだ未知の流派であり、その得意技である蜻蛉の恐ろしさは、実戦剣法を謳う天然理心流の使い手が多い新選組をして最警戒させたのも当然の描写である。
私は連載を読んでいるので結末を知っているが、それは次回発売の第三巻で描写されるはずだ。発売が待ち遠しい。こんな作品、久しぶりなので、たいへん楽しみにしています。
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