先月の話だが、現在大ヒットしている「薬屋のひとりごと」でスクエニ社版の漫画化を担当している漫画家のねこクラゲさんが脱税で検察から起訴された。この報道で多額の脱税をした漫画家を賢しげに誹謗する声がずいぶんと上がっていた。
脱税は罪である。そのこと自体に異論はないが、この記事を書いた記者は、間違いなく実情を知らず記者クラブでの役所側の広報を真に受けた垂れ流し記事を書いたのだろうと容易に想像がつく。
一般的に出版社などから漫画家や小説家、イラストレーターなどに報酬が支払われる場合、予め源泉所得税が天引きされている。一回当たりの支払いが100万円以下だと10%が天引きされ、100万を超えた場合、100万以下は10%、100万円を超えた部分は20%の源泉所得税が天引きされる。
そのため、多数の売れない漫画家や小説家は、確定申告をすると税金が還付される場合が少なくない。ただし、これは所得税の話であり、住民税が後から送られてくる。これに驚く人は少なくない。実際、私が業務上受ける相談のうち数回は、この後払いの住民税についてのものが多かった。
まぁ現実問題、圧倒的多数の作家、漫画家、イラストレーターなどは確定申告をすれば還付になるが、なにもしていないケースも多い。なぜなら所得税は納税済みであるからだ。そう認識している若い作家たちは多い。
しかし、大ヒットを出した小説家、漫画家の場合は事情が大きく異なる。まず所得税は累進課税である。また暦年課税(1月から12月まで)でもある。一回当たりの支払金額毎に支払調書をもらっている場合、天引きされた20%の源泉所得税で足りるかもしれない。
でも一月から12月までの集計された支払調書に記載された源泉所得税は上限が20%である。総収入から必要経費を引き、更に社会保険料、扶養控除等を引いた残りが所得であり、この所得が695万円以上ならば税率は23%、900万円以上で33%、1800万以上ならば40%である。
報道などによるとねこクラゲさんへの追徴課税は数千万だというから、おそらく最大税率である45%が適用されたと思われる。報道がいい加減なので詳細は分からないけど、おそらく白色申告で所得率を適用されたとすると、必要経費はほとんど認められないはずだ。
私の知る限り、税理士などがついて当初から適正に申告していれば、おそらく納税額はその半分以下だと思う。事前対策あってこその節税であり、これまで天引きされた源泉所得税で満足していた納税者には非常に辛いと思う。ちなみに小学館版の「薬屋のひとりごと」の漫画化を担当している倉田先生は既に単行本を数冊出しているので、しっかりと申告していたと推測できる。
あくまで私の経験上だが、税金が天引きされているので自分はしっかり納税していると勘違いしている人は少なくない。出版社側から支払われる印税等の情報は、毎年一月に法定調書として税務署に提出されているので、これでバレるケースは多い。まぁ大概の場合、税務署に呼び出されて適正な申告を奨励されて終わる。もちろんこれは非公開である。
しかも検察に起訴されたとなると、これは一罰百戒を狙った政策的公開処刑のようなものだ。これをろくに取材せずに記者クラブ配布の資料垂れ流しで記事にするマスコミ様のやり様には吐き気がする。権力に媚びているだけじゃないか。
そもそも日本の義務教育では、ろくに租税教育をしていない。私ども税理士会に市町村から学校で授業をして欲しいと要望が一部あるくらいである。これでは天引きされる源泉所得税と、確定申告の違い、白色申告と青色申告の違いなど分かるはずもない。
一応書いておくが納税は国民の義務である。それは確かだが、何故だかこの国はその義務を詳細に教えることを避ける。知らなくても脱税は脱税だが、初めてのヒット作であり、初の単行本で巨額の印税収入をどうしたら良いのか分からなかった漫画家に対して、いささか酷に過ぎる。
私に言わせれば、ハリーポッターの翻訳者のように国外に仮の住居をもって納税を免れようとしたり、課税時期の判断時期を利用して大幅な節税をやらかした元財務大臣のT氏のほうが余程悪質である。
まぁ、マスコミ様は叩いても怖くない弱い納税者を利用して正義感ぶっているのでしょうけど、それって役所の手のひらで踊っているだけですから。ホント、滑稽極まりない醜聞ですね。
新聞テレビって、漫画家さんを下に見ているんじゃないでしょうか、そんなところも入ってる気も。
尤も手塚、宮崎、鳥山クラスだと違ってくるのでしょうが。
教示参考になります。
まあ、ええ歳した大人なんで同情の余地はないかな、と思います。
でも、せめて高3くらいで税金については教えるべきだろうとは思います。
会社員でも退職後、年金とか保険料とか自分で申告していない人はたくさんいると思うので。
先日、アラサー女子に「確定申告」って何ですかって聞かれました。
せめて基礎知識くらい学校で教えても良いとは思いますが、教えられる先生もいないような気がします。