しかし、土地の時価は算定が難しい。ゆえに、その算定のための指標として路線価が設定されている。これは税務署の職員が、売買事例等をもとに算定して毎年夏に公表している。
この路線価を用いて不動産評価をするが、標準的でない形状をした土地には、評価を減額する扱いがある。ただし、その減額は3割が限界となっている。
これは実際の不動産実務からは、大きくかけ離れている。道路に接していない土地や、著しく形状が歪んだ土地などの場合、同じ場所の整った形状の土地の半値以下となることも珍しくない。3割減では、まるで足りない。
昭和40年代ぐらいまでは、路線価の算定は非常にゆるく、実際の売買相場の半値以下であったので、こんな非現実的な減額措置でも、大きく問題とはならなかった。
しかし、高度成長に伴う不動産価格の上昇が、この3減額措置が現実離れしていることを明らかにした。相続税では金銭納付が原則だが、お金が足りない場合、不動産そのものをもって納税(物納)も認めている。
バブルの崩壊で、不動産の時価が大幅に下落したが、路線価の評価は一年後であり、またお役所仕事の常で、急激な変化を嫌がったせいか路線価は、それほど大きく下落しなかった。
おかげで、時価よりも路線価評価額のほうが高い逆転現象が生じてしまった。とんでもない話だが、これを逆手にとった納税者が少なからずいた。
実勢価額5千万の土地を、路線価評価では1億円だという。ならば、土地で物納してしまえばいいではないか。そう考えた納税者が多数出てきた。おかげで、従来滅多になかったはずの物納申請が大幅に増えた。
税務署はてんてこ舞いしたが、さらに困った事態が生じた。物納された土地は、国税局ではなく、財務局が管理することになる。その財務局から、物納を拒否する連絡が来るようになってしまったからだ。
国税局は相続税法の財産基本通達に基づいて財産を評価する。しかし、財務局は国有財産法で評価する。路線価評価で1億円でも、実際の売買価額が5000万円では国家が大損だ。
実際問題、財務局では競売に出せば出すほど大損する羽目に陥り、競売に出せない含み損をかかえた土地が未だに大量に保管されたままとなっている。
だから物納を拒否してきたため、慌てて税務署は物納を受け付けなくなった。そして、従来認めなかった不動産鑑定士による時価評価による申告を認めるようになった。ただし、これは後で再び否定する方向に向かったが、その件は後日書きます。
問題の根本は、路線価の設定が実勢からかけ離れ過ぎたことなのだが、この見直しには時間がかかった。不満はあるが、ずいぶんと改善されたことは私も認めている。
現在、路線価は実勢価額の8割だとされている。ただし、相変わらず減額措置は3割で頭打ち。それゆえ、形状が悪い建築に向かない土地の評価は高いままとなっている。
路線価が、実勢価額よりも大幅に安かった時代は、あんないい加減な減額措置でも我慢できた。しかし、路線価と売買価額が近づいた今日、これでは困る。
路線価評価で1億円の土地が、一年後に5000万円でしか売れないのならば、それは明らかに路線価評価額がおかしい。財産評価通達の減額措置を見直さねばならないと思うが、その気配はない。
いや、ちまちました改正はあるのだが、まるで意味がないというか、根本問題から逃げている。
私は財産評価通達は8割がた妥当だと認めている。だが、現場には特殊な事例が数多く存在して、それらを一律に評価すること自体、無理があるのが本当だと思う。
だからこそ、不動産鑑定士による評価に期待を抱いたのだが・・・