高遠へ行く少し手前の笠原の桜
まだ30歳ごろのことだった。オフィスを出るとすぐに桜の並木道が続いていて、圧倒されるような花のトンネルをKさんと歩いていた。Kさんは、会社の顧問のような立場の人で、歳のころは70歳にはなっていたかもしれない。
「きれいですね」ぐらいのことを、こっちから言ったのだろう。花を見上げながら、「わたくしはこの季節、この桜並木の下を通るたびに思うんですよね」、Kさんはそこでちょっと間を置いて「あと何回こんな美しい花を見ることができるだろうかって」と、言った。
牧場の、咲き始めるにはまだ1っか月ばかり先の山桜の木のそばで、根気の要る電気牧柵の立ち上げの仕事をしていて、ふとそんな昔のことを思い出した。
この牧場とて、先行きはまったくはっきりしない。来春はもう誰もいないこんな山の中で、こんな仕事なぞはしていないかもしれない。Kさんの心境が、今なら分かる。
雲の間から雪を被った中アの空木岳が、今日はまた息をのむような美しさを見せている。もうすぐよい季節が始まるというのに。
山室川の桜
花に埋もれた山寺
白い色のリボンワイヤーの1メートル内側に通常の牧柵がある
雪の圧力でグラスファイバーの支柱が幾本も折れていて、掘り出すのにひと苦労する。このリボンワイヤーに9000ボルトの電気を流すのだ。とりあえず、1日かけて半分終わり、すでに通電している。鹿奴!
天気予報ははずれたようだ。日は射さず、気温は7度Cを上がることはなかった。グリルが壊れてしまったのでサバをムニエルにしたら、美味しい昼飯になった。カレー粉を使うのが、ワザ。アレ、みんな知ってる?