
朝ここへ着いた時の気温は10度、昼になってもようやく13度ほどになっただけだ。細かい雨に雨具を着るのが面倒で、傘をさしながら牧区の巡回に出た。雨脚はそれほどではなく、それでも充分だった。
こんな天気の日に一体上で何をするのかと聞かれることがあるが、それに対しては「牛がいる間は、カラスの鳴かぬ日はあっても、牛守が牧場を見回らない日はない」と、どこかで聞いたようなセリフを真似ることにしている。午後は、第5に移りながら第4に戻ってしまった18頭の牛を確認するため、霧の立ち込めた小入笠の頭まで登るつもりでいる。幸い、一時のことだろうが、雨は止んでいる。マッキーは囲いの中で不貞腐れているだけだから、奴のことを気にする必要がない。好きなように歩ける。

そのマッキー奴だが、よそ者によって自分の愛妾の大半を連れ去られてしまった王様のような気分でいるらしい。入牧以来、種牛としての仕事に対する熱心さはいいとしても、ますます独占欲ばかりが旺盛になって、人にまで猜疑の目を向けて威嚇してくる。ついには囲いの中に幽閉されてしまう羽目になったが、よそ者である管理人をいくら怒っても、仕方ない。自分で招いたことだ。
その点、先代の種牛は違った。口の悪い人からは、先代の種で生まれた仔牛はヤギの子のようだなどと言われて、まあ種牛としての質はそれほどではなかったにしても、とにかく扱いやすかった。今の種牛と違い、いくら近くに来ても脅威を感じさせるようなことはなかった。それどころか、こっちの言うことが分かるのかとさえ思ったこともある。可哀想なことに4,5年も前になるか、流行り病で殺処分されてしまった。
また雨が降り出した。視界はよくないがこれから小入笠まで登る。今度は雨具を着て。
キノコは駄目、ツタウルシの色付くのも遅い。この秋の山はいつもと比べ、少しおかしいかも知れない。
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