― かくして22日、冬山の夜が来た。
酒の酔いと心地よい孤独感が訪れる。無音、ゆっくりと過ぎてゆく時間も酔いを深める。
外に出てみると、冬の星座の中でも一際目をひくオリオン座が主役を張っている。気温はマイナス10度ほど、風もない。
大犬座のシリウス、小犬座のプロキシオンとともに冬の大三角形を構成するベテルギウス、近年その距離が600数十光年に改められただけでなく、すでに爆発しているかもしれないなどという話も聞く。
双眼鏡を取ってきて、オリオン座の三ツ星の下の星雲M43に焦点を合わす。妖しい光は深い闇の中で、宇宙の物語の断片を語ってくれているようだ。
オリオンの三ツ星では思い出すことがある。
もう昔のことだ。日本赤軍という極左の日本人メンバーが、イスラエルのテルアビブの空港において銃器を乱射し、その結果多数の死傷者を出すという事件を起こした。
日本人3人のうち生き残った1人が、死刑判決を覚悟した裁判で「信じているわけではないけれど、この手で殺した人々も自らも、死んだらともにオリオンの三ツ星になれる思うと救われる」、という意味のことを言った。丸刈り頭、朴訥な青年の顔立ち、着ていたストライブ模様のシャツ、事件の凶悪さからは程遠い印象のこの男は、終身刑を打たれた。その後心身を沮喪したとも報じられたが、あの事件からは40年以上にもなるだろう。彼にとっては、死刑よりも重い判決となったのかもしれない。
こんな冬の夜の山奥にいて、異国の地で虜囚となった1人の日本人のことを、しばらく頭の中から追いやることができずにいる。
明日23日には「みろく山の会」の会員13名が来る。懐かしい顔も当然入っている。
2月22日記(つづく)