入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     「冬ごもり」 (2)

2019年11月23日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 暗い、確かに車の灯を消すと何も見えない。以前に芝平に住むT氏から聞いた話だが、ある人が夜間に峠から下る途中に車の不調で、氏の家の灯を目にするまで、2㌔以上も這ってきたという。今夜、山室川に沿った狭い谷を上ってきてそのことを思い出し、試しにと前照灯を消してみた。それまでは大袈裟だと思っていたが、そうではなかった。
 この時季になれば帰りはいつでも暗い。それでも、仕事を終えた後の夜道は一日の中で最も深い安堵の思いを感じ、月や冬の星々にどれほど一日の労をねぎらってもらったか分からない。しかし、同じ夜の山道でも今夜は、家路を急ぐ解放感とは全く違う思いを、荷物のように感じながら上ってきた。夜間に上がって来る時はいつもそうで、きょうに限ったことではない。(11月22日記)



 見慣れた風景だが、きょうはいつもよりかまた一段と渋い冬ざれた趣を周囲に漂わせている。霧が流れ、風も強い。権兵衛山の山頂辺りから白い靄のような霧が降りてきて、それだけで風景が変わっていく。もう、すっかりと落葉松の葉は落ちてしまい、ここからは茶に黒を混ぜたような色の木立ばかりが目立つ。森は冬の眠りに入ったようだ。
 そういえば、囲いに入っていた1頭の雄鹿の姿が消えている。一昨日来た時に下には連絡しておいたから、誰かが来て始末していったのかとも思ったが、それなら銃声ぐらいは聞えただろうに。網を破って逃げたかもしれない。
 秋、1頭の雄鹿が何頭ぐらいの雌鹿と交尾し、それが翌春の繁殖にどれほどつながるのかは分からない。だがアイツは、4尖の角を持った大型の鹿だった。囲い罠の中にさらに鹿の通りそうな場所を選んでくくり罠を仕掛け、自由を奪うという方法もないではない。しかし、銃を使わずにナイフで止め刺しをするとなったら、多分、半日仕事になったはずだ。

 昨夜遅く着いた赤羽氏とK池氏は8時過ぎ、出掛けていった。本家・御所平峠から高座岩、そしてテイ沢、ヒルデエラを通り入笠の山頂へいくと話していた。雪でも降り出しそうな曇り空だが、初冬の山歩きには却って相応しいだろう。
 
 Ume氏も立ち寄った。きょうの氏の傑作、明日には取り込める。
 
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     「冬ごもり」 (1)

2019年11月22日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 きょうから冬ごもり。これから5か月、時には牧場以外のことにも触れて、古来稀なる年齢を過ぎた者の冬ごもりの心境や、心象を呟いていきたい。
 
 朝5時起床、そんなに早く起きる必要は全くないのに目が覚めて、布団の中にいるのが鬱陶しくなって起き出す。ストーブだけでまだ炬燵を用意してないため、寒さが身にこたえた。朝風呂を立て、朝飯の支度をして、少しづつ里の生活に身を慣らすべく努力することに。午後用事で街に出たが、信号機や、運転の下手な車の多さに血圧を上げた。街は暮らしにくい。(11月20日記)



 冬ごもり二日目、早朝一番で入浴。いや、ビールを飲んだのはその前か後か。多分その後だと思うがはっきりしない。その後もう1本を追加したせいもあるが、これは入浴後とはっきりしている。こんな一日の始め方は例外、念のため。
 上に行かないようになって一番の仕事は3回の食事だろうか。今までは、大分コンビニの世話にもなったが、これからはそういうことはしたくない。できたら2食にして、夜は米を食べないようにすることを考えている。炬燵は用意した。7か月、放ったらかしの陋屋やその周囲、少しづつできることから始めるしかない。(11月21日記)

 実は昨日、夕暮れの入笠に上がった。どころか、きょうも行く。これではとても冬ごもりとは言えないかも知れないが、冬季の自主営業を自ら買って出ている身、こういうこともある。
 本当の山好きには初冬のいまこそ、落葉した後の雑木林の静けさを味わってほしい。人気のない山の中の孤独感とともに、ひんやりとした大気を吸い込むように、深い山気を識るだろう。入笠が一番いいのはこの時季だと言ってもいいくらいで、だから早く山支度を済ませ、酒と美味い物を忘れずにやってこい(これは重要)、と言いたいくらいだ。
 それを串田孫一的世界、と言ってもいいかも知れないが、例えば先日のK君のように、二つある法華道を下りと登りに使って歩いてみるのもいい。彼はその後、本家御所平峠から高座岩、そしてテイ沢を往復して帰ってきた。このくらいはぜひ、"歌う心"でやってもらいたい。
 なお、付言すれば、若いころはお洒落な串田的山に抵抗を感じて彼の本は読まなかった。歳を取った今も、まだその気持ちを引きづっている。
 
 アラスカの荒野を長旅していた「オヤジ」も、無事帰ってきた。いずれ時代遅れの山小屋で、土産話を聞くことになっている。楽しみだ。

 冬季営業の案内はもう少しお待ちください。
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     ’19年「冬」 (11)

2019年11月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 きょうで7か月の契約が終わり、牧を閉ざす日が来た。大晦日よりか、きょうの方が一年の終わりを感ずるし、人を待たない歳月の経過を重く感じている。
 
 今春初日、春の雪に阻まれてド日陰の手前で車を捨てて歩いた。思いがけない雪掻きが仕事始めとなった。6月、今年は待ち望んでいたコナシの花が一斉開花せず、クリンソウも鹿にやられた。牛は50頭ばかりが上がってきたが、雄牛にはかなり手を焼くことに。CMや映画の撮影などが入り、牧場の経営を助けた。夏、秋と悪天には泣かされ、キノコが駄目だったのもそのせいだっただろう。そして台風、今年は牛を早めに下したから良かったが、牧場外の被害も甚大だった。

 キャンプ場と山小屋、今年も懐かしい顔、新しい顔、いろいろな人たちが来てくれた。待っていたが来なかった人もいれば、逆に幾人もの新しい出会いもあった。時には野生化と加齢を忘れて、一緒に楽しんだ。
 近年、野外生活の快適さを求め、便利な道具が次々と現れて、街の暮らしと変わらないような過ごし方が可能になった。しかしここは標高2千メートル近い山の中の牧場、鹿もいればタヌキもいる。クマだって姿を見せることもある。そういう森の先住者がいる自然の中だということを、忘れないでいて欲しいと思う。
 まだまだキャンプ場にも小屋にも課題はある。できる範囲のことはそれなりに努力しているが、ただそれでも、ここにしかない広大な自然や、深い平安が足りない分を補って余りあると思っている。

 同じような一日いちにちが過ぎていく間に春、夏、秋と季節が巡り、きょうが来た。この一年を振り返り、悔いはない。山室川、牧場、テイ沢、大きな空、遥かな山並み、そして夕暮れの山路と、どれを取り上げても帰らぬ時を委ねるに値した。粗末に過ごした日など一日もなかったと、去っていった日々に言ってやりたい、感謝をこめて。

 T口さん、返信が遅れてすみません。人数に関係なく、年末年始の営業は間違いなくやります。愉快にやりましょう。湘南UBSさま、11月30日からの1泊2日の小屋での忘年会、しかと承りました。似たような計画、できるだけお受けします。
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     ’19年「冬」 (10)

2019年11月18日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 きょうも穏やかな日が続き、日曜だというのに人影はない。午後になって空の色はさらに青色を深め、逆に真綿のような白い雲は引き延ばされて薄れ、南に傾いた黄色い太陽が冬空の一画に滲んだように見えている。

 朝ここにきて間もなく、4人ほどの猟師が乗った静岡ナンバーの車が通過していくのに出くわした。「鹿の数が減ったなあ」開口一番、一人の猟師が言った。北門を過ぎた所で、大沢山の西の斜面に20頭以上の鹿の群れを目にした後だっただけに、返す言葉が見付からなかった。彼らは狩猟を楽しむ人たちで、その上"よそ者"、どう思うと勝手だが、ここらの鹿の実態など分かるはずもない。1頭か2頭の獲物があれば、足りるだろう。(11月17日記)

 昨日上に来る途中で、約1年ばかり袂を分かつ関係だった山奥氏と言葉を交わした。正確に言えば、それより10日ほど前にも、オオダオ(芝平峠)までの道路状況を身に行った時、上から下りてきた彼と短いやり取りをしたが、その時は互いに素っ気なく別れた。
 ところが昨日、昨年の越年営業以来になるK山君が来ると知らせておいたら午後、なんと山奥氏現るで、しかも鍋料理でもしようとその具材まで持ってきた。彼言うに「しばし休戦」だと。
 さあそうなると、何もしないわけにはいかない。急いで冷凍庫を漁り、ホタテと餃子を加えて、特製の鍋を用意した。その間、山奥氏の酒は砂地に沁み込む水のごと、進みにすすみ止まず、舌は一年分の久闊を取り戻さんと回るまわる絶好調のプロペラ。何しろ「百姓山奥いつもいる」の人だから、山の中の隠れ家で無言の日々の多く、あれは堰を切った山室川の濁流とでも言いたくなるほどだった。もちろん、鍋料理には満悦至極、残りを持ち帰るとまで言ったくらいだ。
 先程、大ご機嫌で帰っていったが、彼は親切な人物で、頼りにもなる。取り敢えずは旧に復せて良かったと思っている。K山君のお蔭でもあるが、きょう彼は法華道を赤坂口に下り、さらに諏訪神社口からもう一つの法華道を登ってくる予定で出掛けっていった。初冬の法華道、古道は彼に多くを語ってくれるだろう。

 昨日は山奥氏、K山君の他にもふた組の夫婦が小屋に立ち寄ってくれた。愛知から来た夫婦は星の写真にも興味があるということで、このブログのカテゴリー別「入笠牧場からの星空」を紹介しておいた。神奈川のAさん夫婦、旦那さんではなくて奥方がスキーの指導員の資格を持っていて、二人とも入笠程度の冬山ならカンラカラカラらしい。この冬の間に是非来ると言っていた。来なはれ!
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     ’19年「冬」 (9)

2019年11月16日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

山室川第2堰堤

 もう、1ヶ月にもなる。19号台風の翌日の13日、大水の荒れ狂う山室川を眺めながら上ってきたのは。あれほどの流量を目にしたことは13年間この山道を通勤路に決めてから初めてだったので、土木工学など縁もゆかりもない身ながら、3年ばかり前に新しくできたこの堰堤が、あの多量の水に対してどんなふうにその役目を果たしているのか、是非とも見ておきたかった。
 ところが、あの構造からすれば分かるが、水量は増えていたが濁流はあの鉄の柵を素通りに近い状態で流れていた。1本流木が引っ掛かっていただけでが殆どいつもとかわらず、あの堰堤というのは一体川がどういう状態になればその真価を発揮してくれるのかと思ったものだ。というよりか、もっと別の目的で建設されたものだったのだろうか。
 下流の芝平の集落内を流れる山室川は、今だ濁流に持って行かれ崩れた石積みの堤防や、深くえぐられてしまった川床など大水の爪痕が残り、そんな状況をきょうも目にして抱いた間の抜けた疑問だが。



 きょうは上に来る予定ではなかった。菩提寺の新住職の入寺式が行われることになっていたからだが、与えられた交通係の役目も終わったので、その後の入寺式や祝宴などはご無礼して、注文してあった小屋に敷く6畳用のカーペット3枚を持って上ってきた。世話人の身でこれではさぞかし大顰蹙を買ってしまったと思うが、後のことはいてもいなくてもいい程度の檀徒に過ぎず、全てのことが予定通りに進むことを遠くから祈ることにした。
 
 また、実は昨日から猟期が始まり、そのことも気になっていた。すでに銃声や、犬を怖れたのか、いつもなら管理棟の背後、第2牧区には決まって目にする鹿の姿がなかった。鹿を捕ってくれるのは有難いが、牧場が抱える問題もある。そのことを気にする者はここには一人しかいない。

 冬の営業に関する問い合わせが来るようになりました。近々に営業案内を用意するつもりでいます。
 そろそろ快適な小屋の方をお勧めします。
 営業案内 「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」およびその(2)です。下線部をクリックしてご覧の上、どうぞご利用ください。

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