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暗い、確かに車の灯を消すと何も見えない。以前に芝平に住むT氏から聞いた話だが、ある人が夜間に峠から下る途中に車の不調で、氏の家の灯を目にするまで、2㌔以上も這ってきたという。今夜、山室川に沿った狭い谷を上ってきてそのことを思い出し、試しにと前照灯を消してみた。それまでは大袈裟だと思っていたが、そうではなかった。
この時季になれば帰りはいつでも暗い。それでも、仕事を終えた後の夜道は一日の中で最も深い安堵の思いを感じ、月や冬の星々にどれほど一日の労をねぎらってもらったか分からない。しかし、同じ夜の山道でも今夜は、家路を急ぐ解放感とは全く違う思いを、荷物のように感じながら上ってきた。夜間に上がって来る時はいつもそうで、きょうに限ったことではない。(11月22日記)
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見慣れた風景だが、きょうはいつもよりかまた一段と渋い冬ざれた趣を周囲に漂わせている。霧が流れ、風も強い。権兵衛山の山頂辺りから白い靄のような霧が降りてきて、それだけで風景が変わっていく。もう、すっかりと落葉松の葉は落ちてしまい、ここからは茶に黒を混ぜたような色の木立ばかりが目立つ。森は冬の眠りに入ったようだ。
そういえば、囲いに入っていた1頭の雄鹿の姿が消えている。一昨日来た時に下には連絡しておいたから、誰かが来て始末していったのかとも思ったが、それなら銃声ぐらいは聞えただろうに。網を破って逃げたかもしれない。
秋、1頭の雄鹿が何頭ぐらいの雌鹿と交尾し、それが翌春の繁殖にどれほどつながるのかは分からない。だがアイツは、4尖の角を持った大型の鹿だった。囲い罠の中にさらに鹿の通りそうな場所を選んでくくり罠を仕掛け、自由を奪うという方法もないではない。しかし、銃を使わずにナイフで止め刺しをするとなったら、多分、半日仕事になったはずだ。
昨夜遅く着いた赤羽氏とK池氏は8時過ぎ、出掛けていった。本家・御所平峠から高座岩、そしてテイ沢、ヒルデエラを通り入笠の山頂へいくと話していた。雪でも降り出しそうな曇り空だが、初冬の山歩きには却って相応しいだろう。
Ume氏も立ち寄った。きょうの氏の傑作、明日には取り込める。