入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’19年「冬」 (8)

2019年11月15日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

山室川第2堰堤

「極度にいい天気だ。お前、昨日の呟きは『最後の役割』とかなんと、分からんことを言っていたな」
「あっ、先輩さま、それでござる。現在のような古い取水方法は、これから先のことを考えれば早晩、もっと新しいやり方にしなければならないと、それは間違いござらぬ。しかしそうなれば、先人の残してくれた尊い努力を知る者は、某(それがし)が最期の人間になるかも知れないと思い、あんなことを呟いたのでござる」
「なるほどな。いろいろな設備が古く、給水管というのはゴム製らしいな」
「いかにもでござる。劣化したからといって総取り換えをするなどということは、最早とても望めませぬ」
「ならばどうするのだ」
「某などには分かりませぬ。補修は続けますが、最終的には行政も含め、後に続く人たちに任せる他ないでござろうと」
「心細いことを言うではないか」
「いやいや、自分なりにやるべきことはやったし、これからもやりますが、某もここまで来るといろいろと・・・」
「年下のお前にそれを言われるのか」
「先輩さまは『不死身』だと常々仰っているではござらぬか」

 などなどと、他愛もない会話があって、きょうと明日は上にいかず、里の用事が続く。牧場の仕事も、契約上は残すところ5日しかない。このごろは好天が続いてくれたお蔭で存分に秋を味わいながら仕事ができたし、その後夕暮れや星空を眺めながら帰る日が多かった。今年は林道沿いのコナシの枝打ちや、実生から生えた落葉松の処理などはやらないから、牧を閉じるまでにやり残したことはもうあまりない。せいぜい、冬に向かう穏やかな周囲の自然を思いっきり目の奥にまで留めておきたいと思っている。
「誰にも気兼ねなく」と言っていた旅には、今年も行けそうもない。

 冬の営業に関する問い合わせが来るようになりました。近々に営業案内を用意するつもりでいます。
 そろそろ快適な小屋の方をお勧めします。
 営業案内 「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」およびその(2)です。下線部をクリックしてご覧の上、どうぞご利用ください。
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     ’19年「冬」 (7)

2019年11月14日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 霧は深く、晴れようとしない。と、呟いたら、それを待っていたかのように一瞬だが青空が顔を覗かせ、そしてまたすぐに消えた。午後には天気は回復するという予報だったから、あれはその兆しででもあったのか。
 霧が薄れ、周囲が少し明るくなると、茶系の渋い色合いが基調となり、初冬の風景が拡がる。さすがに、目の前に見えている囲い罠の中の牧草も、いつの間にか枯れて黄色に変わった。晴れたら別だが、落葉松も黒味を帯びた樹幹の方が目立ち、本数では及ばないがこれも白い幹が目を惹く白樺が、相変わらず自己主張でもするように見えている。


           山室川の第2堰堤から

 空腹ではなかったので昼飯を食べずに、昨日から予定していた初の沢の奥にある水源地まで行ってみた。管理棟から水源地までは1.5㌔くらいあるが、大曲からまだ先500メートルくらいの距離を、沢にに沿うようにしてさらに水道管が埋設されている。牧を閉じる前にその状況を見ておきたかった。
 沢に入るのは春先以来のことで、案じていた通り先日の台風や大水の影響があちらこちらにあり、水流が変わってしまった所もあった。気になっていた場所が二か所あって、その一つが自分で掘って埋めた100メートルほどの距離の水道管だった。素人のやることだから、とても不凍深度までなど掘削できてはいない。急な斜面に埋めた場所では管の露出している所もあったが、今の水量があれば何とかこの冬も凍結せずに、貴重な水を流し続けてくれそうだった。
 そしてもう一か所というのが、凍結防止用に籾殻を運び込んだ例の場所だが、有難いことに、土中の水脈に変化があったのかここはもう枯れてしまって、湧水によって露出していた水道管は土砂に埋もれて見えなかった。
 
 シラビソとダケカンバの混生している急な斜面を横切り、自分で残したケルンを頼って落ち葉に埋もれた微かな踏み跡を歩き、流木や土砂の流れ込んだ沢を渡る・・・、ずっとその間、会ったこともない先人と対話していた。「よくもまあ、こんなことを」などと称賛し、時には「これはおかしい、違う」などと反発をしてみたりして。もしかすればそういう役割も最後になるかも知れないと思うと、その"大役"に巡り会えたことを喜び、満足した。
 一度パラパラと霰が降ってきた。あれでも初雪なら、今年は例年並みということになる。

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     ’19年「冬」 (6)

2019年11月13日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 朝方に重機を下へ運ぶために大型トラックが来た以外は終日、人も、車も通らない。静かな初冬の山に戻り、きょうも小屋や周辺の冬支度に追われた。洗濯、露天風呂の養生、そして迷っていた水道の水を落として取水場の本管を開ける、といった作業に「済み」の印を入れた。これで、牧を閉ざす前にやるべきことはほぼ終わったことになる。
 その中でも、特に水回りについては、水道を落としてしまえば不便この上ないことになるからと、ぎりぎりまで延ばしに延ばしてきた。しかし、明日あたりから一段と寒くなるようなので、ついに水道を止める決断をした。これで来春まで不便を覚悟しなければならない。因みに、ここには水道栓だけでも15か所、その他本管と繋がるバルブが8か所もある。行ったり来たり、上ったり下りたりを、幾度となく繰り返したから、きょうでも8千歩以上歩いている。
 冬季でも本管の水を流して取水できるようにしたのはそれほど古いことではない。恐らく3年前、2016年だったと思う。当てずっぽうに取り出したその年の作業日誌には11月、しきりに「初の沢」の文字が出てくる。前任者の時代に崩落で管が露出し、垂れさがってしまった部分を新しくして、埋設し直すというかなりの大仕事をした。それ以来、厳冬期でも、取水場へ行けばこんこんと流れ出る水を利用することができるようになった。
 その日誌には「籾殻」という文字も出てくるが、これには笑う。1本の棒を天秤棒にして、前後に大きなビニール袋に入れた籾殻を担いで初の沢の奥まで運んだことをよく覚えている。籾殻は、凍結を防止するために保温材にしたのだが、明日はそこへも行ってみるつもりでいる。
 牧を閉じるに際し、毎年やっていたことを参考にする。そのために、忘れていたことはないかと過去の作業日誌を開き確認するわけだが、あんなことや、こんなこともあったかと、つい、切りのない思い出に更けることにもなる。
 
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     ’19年「秋」 (5)

2019年11月12日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 きょうは昨日と打って変わって、初冬を思わせる穏やかな晴天が戻ってきた。今朝上がって来るときに目にした北アはもちろんのこと中ア、八ヶ岳も冠雪していたし、逆光のため確認することはできなかった南アも、多分北部は雪だっただろう。

 きょうでようやく、今年は牛を出さなかった第3牧区にある電牧の冬対策を終えた。写真はその帰りに写したものだが、すでに落葉したダケカンバの箒立ちした姿や、その手前の金色の葉を残した落葉松が写っている。西に面した入笠山の山腹の一部を、左斜めから見て撮ったのだが、登山口に通ずる林道も分かるだろうか。牧場には、好きな草地や林がそこら中にあるが、この場所もその一つで、鹿までも好むから頭が痛い。
 そういう山の中を久しぶりに歩けば、過ぎ去った年月を嫌でも感じてしまう。いくら見知った場所ではあっても年齢の影響は隠せずに行動、動作も変わってきたことに気付かされた。10年を超える月日が過ぎたのだから仕方ないが、かつては直線に登った斜面を、ゆっくり右へ左へと斜上を繰り返し、1歩で下れる段差を2歩にして、歩く速度も自然に抑えるようになった。
 どこを歩いていても一つや二つ苦労した記憶が蘇ってくるもので、この第3牧区ではよく水源の確保に苦労した。きょう古い水源地へも行ってみたが、小さな水溜まりのような水場を幾つも作った跡がまだ残っていた。思案を重ねた末の策だったが、もしも知らない人が見たら、堰にするための細い丸太やそれを固定した鉄の杭で、何をしようとしたのかと思うだろう。その後、改良された水場へたくさんの牛たちが来て、水をズウズウと音を立てながら飲んでいたものだ。
 先人の苦労の跡も、古い木製の牧柵が腐って消えてしまったように跡形もなく消えてしまったものもあるだろう。自分の13年もそれと変わらぬだろうと思いながら、初冬の少し寂し気な美しい夕暮れに満足して帰ってきた。

 F枝さん、詳しいことは分かりませんが、災難でしたね。かんとさんの天体写真で、ここを懐かしんでくれたのは何よりです。本人も知ったら喜ぶでしょう。伝えます。いつでも、と言いたいのですが、できれば今度の週末は例の入寺式がありますので、それ以外でしたら有難いです。K山君には、今夜TELします。

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     ’19年「冬」 (4)

2019年11月11日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 昨日は上に行かなかった。市内一斉に行われる河川の清掃があり、さらに菩提寺に入る新住職の「入寺式」を来週に控え、そのための準備作業があった。河川の清掃は出不足金を払って、という方法もあるが、これもいつもいつもだと顰蹙を買う。もう一方の入寺式については打ち合わせなどを人任せにして、不真面目だと見做されている。そのため、昨日の墓掃除のような人力を当てにする作業ぐらいは参加しようとしたのだが、それも本人だけがそう思っているだけで、他の人がどう見ているかは分からない。牧を開けている7か月間は、里での不評は甘受するしかない、諦めている。



 燃えるような夕焼けもいいが、こういう穏やかな夕暮れにも、一日が終わる安堵感が湧いてくる。一昨日の帰りに目にした光景。

 野生のクマに対して、今の対処方法でいいのかという疑問はあるが、有害動物にしてしまえ、というような強い主張をしたいわけではない。ただ、事故が増えているということは、どう考えたらよいのだろうか。生息頭数が増えているということもあるかも知れないが、もしかすれば段々にクマが人を怖れなくなったということだって、考えられないわけではない。毎日のように出会う鹿を見ていれば分かるが、人への対応に慣れを感ずるようになったことは否定できない。両者の"間合い"が狭まっている。猟期が迫っているというのに、人間はやたらに攻撃をしてこないと思い違いをしている。
 クマにもいろいろと性格の違いはあるだろう。今までに何度か遭遇したが、幸い相手の方がいつも逃げてくれただけで、もし向かってこられたらどうしようもない。そういう危険なクマも少なくないから、事故の件数が増えているという理由にはならないだろうか。犬でも、犬種にもよるが、狂暴なのもいれば大人しいのもいて、同じ川上犬でもHALとキクは全く違った性格だった。牛でも、大方は体に触れさせないが、平気で触れさせる牛もいる。
 特殊な訓練をうけた犬を使うなどは、これ以上人間とクマとの関係が悪くならないようにするための策だと思うが、クマにそういった人間のやさしさが伝わればいいのだが・・・。

 雨が激しく降ってきた。高い山は恐らく雪になるだろう。雷鳴もしている。あと1日だけあれば、それでほぼ冬支度は終わったというのに、ついていない。

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