■未来塾側は、原告代理人として弁護士法人東京パブリック法律事務所弁護士山下敏雅ほか12名を起用していますが、3月8日付けで原告最終準備書面を裁判所に提出しました。安中市には、代理人の渡辺明男弁護士を通じて、3月18日付けで届けられました。
それでは、これまでの本件裁判の集大成とも言える、原告未来塾が地裁高崎支部に提出した129ページにおよぶ最終準備書面を見てみましょう。
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【原告最終準備書面】
平成20年(ワ)第492号 損害賠償等請求事件
原告 松本立家 外1名
被告 岡田義弘 外1名
原告最終準備書面
平成22年3月8日
前橋地方裁判所高崎支部合議2係 御中
原告ら訴訟代理人 弁護士 山下敏雅
同 中城重光
同 釜井英法
同 登坂真人
同 寺町東子
同 後藤真紀子
同 青本知己
同 古田隆宏
同 大伴慎吾
同 船崎まみ
同 寺田明弘
同 高城智子
同 山口裕未
<目 次>(略)
I はじめに
第1 事案の概要
本件は,原告らが長年にわたって開催してきたフリーマーケットに関して,平成19年9月10日に原告らと,被告安中市の市長である被告岡田義弘を含む市関係者とて「意見交換会」が行われたところ,被告岡田義弘が,その「意見交換会」の内官等に関する虚偽の記事を,被告安中市の編集・発行する広報紙に掲載して安中市全戸に配布し,原告らの社会的評価を低下させたことから,原告らが被告らに対し,損害賠償及び謝罪記事の掲載を求めた事案である。
なお,訴え提起時には記事が被告安中市のインターネットウェブサイト上に掲載され続けた状態であったことから,当該データの削除も請求の趣旨に含めていたが,その後被告らが削除したため,同請求部分は取下げている。
第2 本書面の骨子
本訴訟で現れた被告らの反論や,双方の提出した書証,そして尋問の結果から,原告らの請求に理由のあることはより一層明確となった。本書面の骨子は,以下の通りである。
1 事実関係
(1) 原告らの開催していた地域づくり活動である北関東最大級のフリーマーケットについて「第3」及び「第4」で述べる。
(2) ①第31回のフリーマーケットの前に「真のボランティア活動にて運営下さるよう」との文言(甲22)が突然郵送されてきたこと,②慣例となっていた原告らによる寄付金の受け渡しが突然被告らから拒否されたこと,③第32回のフリーマーケットの会場使用許可申請が受理されなかっとこと,の各経緯について,「第5」で述べる。特に,本件の一番の契機となっている甲22号証の文書については,被告岡田に条例・規則を遵守する態度のないことを端的に示している(「第5」「2」「(2)」で述べる)。
(3) 前項の3点について平成19年9月10日にもたれた「意見交換会」の概要について「第6」で述べ,その結果,原告らが第32回のフリーマーケットの開催を断念せざるを得なかったことにつき「第7」で述べる。特に意見交換会の開催日が9月10日となった経緯や,意見交換会の開始時間が予定よりも遅れた理由について,被告らの主張が事実に反することを,「第6」「2」及びF4Jで述べる。
(4) 「談話」は,原告らが冒頭から怒鳴ったなどの記載を始めとする真実に反した記述が多数に及び,また,意見交換会の話し合いの内容や関係資料を恣意的にとりまとめられ,さらにはフリーマーケットと無関係かつ誤った内容が掲載されている。この詳細については,「第8」及び「第9」において詳述する。
(5) 原告らが怒鳴っていないこと等,意見交換会のやりとりの内容については,ICレコーダーの記録(甲39)から明らかであり,同記録には編集加工は一切なされていない。録音記録が編集されていると結論づける鑑定書(丙22)は,論理的に重大な誤りがあり,信用性はないうえ,むしろ編集加工していないとの原告らの主張を裏付けるものとなっている。他方で,被告岡田が提出した「要点筆記」(丙17)は,後目作成された虚偽のものである。これらの詳細については,「第10」において詳述する。
(6) 被告岡田は,平成20年2月19日付文書(甲27)で,米山公園周辺住民への配慮が肝要などと記載したが,かかる論点は意見交換台でも「談話」でも触れられていない論点てあるうえ,当の周辺住民からかような苦情は出ていなかった。むしろ,翌20日に同文書を持参した長澤建設部長は,原告らに対し,「談話」の記載が事実と反していることや,事実に反していることを市長たる被告岡田には指摘できないことを述べたうえ,さらには原告松本と長澤建設部長が一番の被害者だと述べていたのである。
これらの詳細については,「第11」において詳述する。
(7) 被告岡田は,「談話」掲戦後も地区懇談会で名誉毀損行為を反復継続し,さらに本件に関する原告らとの和解に関して,地区懇談会での発言や本訴訟で証言した意見と異なる陳述害(乙17)を本訴訟に提出していた。この点について「第12」で述べる。
(8) 被告らの主張する,フリーマーケットにおいて募金を行うための条例上の許可や,転貸禁止条項該当性については,そもそも本訴訟で初めて被告らが出した論点であり,意見交換会や「談話jにおいては触れられていない。この点について「第13」において述べる。
2 法的主張
(1) 本件「談話」は,一般読者の普通の注意と読み方を基準としてみれば,原告らの社会的評価を低下させるものであること,すなわち,名誉毀損に該当することは明らかである。冒頭から怒鳴ったり,市長を罵るような団体・個人であったり,その他,不正な活動に従事し,不自然な弁解を行い,開催準備期間が十分にあるのにやる気がないのに行わないような団体・個人であれば,地域づくりに関して信頼性の高い機関・団体から多数受賞するに値しないこととなろう。そして,一般市民も同様に受け止める。このことは岡田自身も法廷で認めている。そして,実際に原告らの社会的評価は低下させられている。これらの諸点について,「第14」及び「第15」で詳述する。
そして,名誉毀損は,原告未来塾だけでなく,実名が記されていない原告松本個人に関しても同様に成立している。この点について,「第16」で述べる。
(2) 本件「談話」の記載内容は,真実でない。のみならず,被告らにおいて,「真実と信ずるについての相当の理由」も欠く。被告岡田は,自らの私的満足等の目的のために,故意に虚偽の内容を「談話」に記載したのであり,また,被告岡田・被告安中市共に,少なくとも重過失の存することは明らかである。これらについて,「第17」で詳述する。
また,「談話」の掲載が「専ら公益を図る目的」を欠いていることにつき「第18」で,「言論の応酬」の免責の法理についての被告らの主張が失当であることにつき「第19」で,それぞれ述べる。
(3) 本件「談話」は,名誉毀損を構成するのみならず,名誉感情及び人格権をも侵害するものであることにつき,「第20」及び「第21」で述べる。
(4) 被告岡田が不法行為責任を負い,被告安中市に国家賠償法上の責任が認められる場合でも被告岡田が免責されないことにつき「第22」で,また,被告安中市について,被告岡田の行為につき国家賠償法上の責任及び使用者責任を負うこと,のみならず,「談話」の編集・発行・配布・掲載した担当職員の行為についても国家賠償法上の責任を負うことにつき「第23」で,それぞれ述べる。
また,「談話」掲載によって発生した損害及びその回復のために慰謝料の支払いのみならず謝罪記事の掲載が必要であることにつき,「第24」で述べる。
(5) そして,本件訴訟の意義につき,「第25」で述べる。
Ⅱ 事実関係
第3 当事者
1 原告ら
(1) 原告松本立家
原告松本立家(以下「原告松本」という)は,安中市の市民であり,家庭電化製品類販売等の有限会社の代表取締役を務めながら,下記の「地域づくり団体未来塾」代表として,地域のために長年にわたってボランティア活動を続けている者である(甲26,甲50:4頁)。
平成16年5月3日には,群馬県から,群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞している(甲26,甲50:5頁/原告松本:1頁)。
(2) 原告地域づくり団体未来塾
ア 設立・目的・活動内容
原告地域づくり団体未来塾(以下「原告未来塾」 という)は,平成元年10月1日に設立された団体である。
原告未来塾は,会の目的として,会則第3条において,「この今は,塾生による自由な発想のもと『より良いまちづくり・人づくり・環境づくり』を目指すとともに,個々にある可能性や夢などをさまざまな活動を通じて引き出し自らの向上を目指す」と定めており(甲29),下記に詳述するフリーマーケットの開催,バザー(「もったいない市」)の収益金から被告安中市や社会福祉協議会への寄付,里山の自然を取り戻す環境保護活動,小学校のビオガーデン整備,各種文化事業等を実施している(甲28,原告松本:1頁)。
メンバーの構成は,現時点において,10歳から70歳まで約80名である。
イ 原告未来塾の活動に対する社会的評価
未来塾の活動は外部から高い評価を受けており,主な受賞歴だけでも,上毛新聞社・上毛新聞厚生福祉事業団「上毛社会賞」(平成8年),群馬県新生活運動椎進協議会「群馬ふるさとづくり奨励賞」(平成8年),群馬県「緑の大地ぐんま180選『山根ホダルの里』」(平成10年),群馬銀行環境財団「群馬銀行環境財団賞」(平成13年),安中市「安中市地方自治功労賞」(平成18年,甲31の1),群馬県社会福祉協議会会長感謝状(平成18年),群馬県地域づくり協議会外「群馬ふるさとづくり賞」(平成19年,甲31の4),財団法人あしたの日本を創る協会「あしたのまち・くらしづくり活動賞・振興奨励賞」(平成19年,甲31の5)等がある(甲28,原告松本:1頁)。
ウ 権利能力なき社団
原告未来塾は,法人格を有していないものの,会則(甲29)において,目的,名称,意思決定方法,業務執行機関など,団体としての組織性を備えており,多数決の原則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,代表の方法,総会(甲30)の運営,財産の管理等団体としての主要な点が確定している,いわゆる「権利能力なき社団」である(最判昭和39年10月1日民集18巻8号1671頁参照)。
2 被告ら
(1) 被告岡田義弘
被告岡田義弘(以下「被告岡田」という)は,平成18年4月より被告安中市の市長を務めている者である。
(2) 被告安中市
被告安中市は,群馬県西部に位置し,平成20年4月時点で6万4000人余りの人口,2万3000戸余りの世帯を抱える,地方自治法の定める普通地方公共団体である。
被告安中市は,平成18年3月18日に,旧安中市及び松井田町が新設合併して,現在の市となった。
第4 原告らが長年開催してきたフリーマーケット
1 概要
(1) 原告未来塾は,安中市青年団連合会(その後の「地域創造集団楽舎」)と共催で,平成4年5月31日から,年に2回,「フリーマーケットinあんなか」を開催してきた(甲50:5頁)。
(2) 当初,西毛運動公園広場を会場とし,区画数70で始まった同フリーマーケットは,市民らからの人気の高まりを受けで徐々に規模が拡大し,平成16年5月30日の第25回からは,会場として米山公園(甲4:2枚目の一番上の写真)と安中市のスポーツセンター(甲4:2枚目の真ん中の写真)の2つを利用し,区画数も400に増え,毎回,当日の来場者数が1万5000人以上に及ぶ規模にまで成長し(甲6),「北関東最大級のフリーマーケット」と称されるようになっていた(フリーマーケットの様子につき,甲4及び甲5の各写真。原告松本:2頁,証人長澤1頁)。
(3) 原告らがフリーマーケットを始めた当初は,「フリーマーケット」という言葉自体が群馬県内に認知されておらず,出店者や来場者を集めることにも苦労したが,原告らの活動が浸透していった。また,以前はゴミだらけて非行少年らのたまり場となっていた米山公園も,フリーマーケット会場として使用されるようになってから,綺麗に整備されるようになっていった(原告松本:2頁)。
(4) 大規模なフリーマーケットのため,当然ながら運営スタッフは原告未来塾のメンバーだけでは足りず,ボランティアスタッフを募って共に運営していた(原告松本:3頁)。
(5) 原告松本は,このようなフリーマーケットを開催し,継続しようと思った理由,並びに,出店者,来場者及びボランティアスタッフの感想について,下記のとおり証言している。
(原告松本:3頁)
原告ら訴訟代理人山下 このようなフリーマーケットを開催しよう,また,続けていこうと思った理由はどういうものですか。
松本 そのころ,安中は非常に衰退しておりまして,地域の商店も,また,市民団体も社会的にもほんとに何かこう寂しい風が吹いてるような,そういう状況でした。私たちボランティアグループが安中市を元気にして,安中に大勢の人を集めてくることによって安中は元気になるだろうということで始めました。
山下 出店した方や来場した方からは,どのような感想が寄せられていましたか。
松本 それは,ほんとによかったということで,安中に大勢の人が集まったわけですから,喜んでくれましたし,これからも続けてほしいと言われております。
(原告松本:4頁)
原告ら訴訟代理人山下 (略)ボランティアで参加していた人たちからは,どのような感想が寄せられていましたか。
松本 すばらしいイベントだと,そういった実体騒がここでできるということは,もうほんとにうれしいと,子供たちでも知り合いでもいろんな人たちをこのボランティアに参加させたいということで,どんどん続けてほしいというようなご意見が多かったです。
(6) 原告未来塾の■■■■,■■■も,フリーマーケットが世代を超えた交流の場であったこと,ただ買い物をするというだけでなく,同窓会のような光景も見られたり,離れて暮らす親子がこの日だけ一緒に店を出すという話も聞いていたこと,そのような楽しみが得られるのも,このフリーマーケットの継続で培ってきた信用と信頼,そして地域が一緒になって取り組むことで,楽しさを一層盛り上げ,楽しいお祭りへと創り上げてきたからこそであることを陳述している(甲51:1頁)。
(7) 幼少の頃から家族や同級生とボランティアスタッフとしてフリーマーケットに取り組んできた原告未来塾の■■■■,■■■も,当日だけでなく準備の中で,一つの事をみんなでやり遂げる素晴らしさ,積極的に自ら行動することの大切さを学んだこと,今の自分があるのはこの取り組みがあってこそであり,自身の人格形成に大きな影響を与えた大切なものであったこと,スタッフとして参加していた子どもたちにとっても貴重な経験ができる場であり,自らが成長する大切な場であったこと等を陳述している(甲52:1頁)。
2 被告安中市(市長)からの会場使用許可
フリーマーケットは,被告安中市の所有・管理する公園や施設を会場として利用し,開催されていた。
(1) 米山公園
ア 米山公園の利用にあたっては,原告らは,「安中市都市公園条例」(その後「安中市公園条例」に改正。甲12)の規定に基づき,被告安中肉(市長)から公園使用許可を得てきた。申請書を被告安中市の建設部都市整備課に提出すると,即時その場で許可証が手渡されるか,遅くとも数日中には許可証が交付されていた(甲50:7頁,甲51:2頁)。
イ 米山公園の利用料は,免除されてきた(甲9,甲10,甲50:7頁)。原告らは,公園使用許可申請書(甲23)中の「使用料」欄を空欄で提出して許可を得ていた。公園使用料減免・還付申請書(乙2:様式第3号)は特段提出せずに被告安中市(市長)より使用料を免除される扱いが,長年にわたって続いていたのである。
市町村合併に伴い,乙2号証の安中市公園条例規則(乙2)が平成18年3月18日から施行され(附則第1条),被告岡田が市長に就任した平成18年4月以降も,原告らは同様の方法で申請を行い,かつ,市長たる被告岡田より使用料を免除されていた(平成18年10月17日付の許可書につき甲11の1,平成19年4月17日付の許可書につき甲11の2)。
ウ この点に関して,長澤建設部長も下記の通り証言し,形式的な申請がなくとも慣例により使用料を市が免除してきたこと,原告らの活動の社会的意義を認めてそのような扱いをしてきた旨を述べている(証人長澤:3頁)。
被告安中市訴訟代理人渡辺 これは,初めから無償だったですね。
長澤 以前から,これは公園を使っているのに対してそういう慣例できていると,ですから私が部長になってからも,その慣例にのっとり無料で使っていたと。
渡辺 その前も無料だったよね。
長澤 はい,そうです。
渡辺 無料については,使用料の免除の申立てみたいなのはあったんですか。
長澤 以前からもそうなんですけども,減免申請はなかったように聞いております。ですから,それに基づきましてその会(ママ、「回」の誤記)も審査はなかったと。
渡辺 なぜ無料だったのですか。
長澤 これは,未来塾さんのほうが開催するフリーマーケットが,安中を発信する地域振興,地域の活性化,更にはこれは環境のボランティアといいますかね,今現在リサイクル活動が非常に盛んですから,そういう運動をすることに対して行政としてもバックアップしていこうと,そういう趣旨がこれは一番大きかった,そういうふうに理解しています。
エ また,被告岡目も,会場を無料で使用するにあたって免除申請書を提出する必要があることについて,後述する平成19年9月10日の意見交換会の場で原告らに対し説明していないことを認めている(被告岡田:23頁)。
(2) スポーツセンター広場
原告らは,スポーツセンター広場の利用に関しては,同センターに直接申請を行ってきた(広場の利用料について特段の定めはない)。
同広場を使用する日程や使用方法の調整にあたっては,同センターで開催される「体育館利用者調整会議」で行われ,原告ら関係者も出席していた(甲51:2頁)。
同センターを会場として利用するにあたり,原告らは,警備員やシルバー人材センターなどによって人員を配置し,体育館(アリーナ)利用者の妨げとならないよう努め,現場では特段の混乱は生じていなかった。また,体育館との話し合いにより,午前10時以降はフリーマーケット利用者も駐車場への駐車が可能となっていた(甲50:7頁)。
3 出店者の参加費とフリーマーケットの収支
(1) 必要最低限の参加費を集めても収支は赤字であったこと
原告未来塾は,フリーマーケットの出席者から,1区画あたり2000円,企業参加の場合は1万円を,参加費として受領してきた(甲7:3頁,甲50:6頁)。
上述したとおり,フリーマーケットは2つの会場を使用し,参加者・来場者も多数に及ぶ大規模なもので,広告宣伝費,会場整備費,シヤトルバス代等,経費が多額に上る。上記参加費は,経費に宛てるため必要最低限のものであり,毎回,出席者から事前説明会において説明し了承を得たうえで受領してきた。
会場費が被告安中市から免除され,上記参加費を集めても,原告未来塾の収支はマイナスであり,利益は全く生じていない(甲13,原告松本:4頁)。その赤字分け,原告らの持ち出しや,他の事業によって填補していた(原告松本:4頁)。
(2) 参加費を集めることには何らの問題もないこと
ア 被告岡田は,ボランティア団体が公共施設を無償で利用しながら出店者から参加費を集めることが問題であるなどとの,全く根拠のない独自の見解を有しており(被告岡田:2頁),それが;平成19年5月22日付文書(甲22)や,その後に続く被告らの言動,意見交換会開催,そして本件「談話」の掲載配布の背景にある。
しかしながら,営利を目的としないフリーマーケットにおいて出席者から参加費を集めることは,通常一般に行われていることであり,何ら非難されるべきことではない。
イ 現在,他に行われているフリーマーケットにおいても,出店者から一般2000円,企業1万円程度を集めるのが一般的である。群馬県の県庁前広場で行われているフリーマーケットでも参加費が徴収されており,群馬県のNPO・ボランティア推進課も,原告らのフリーマーケットについて,「営利を目的としていないので,参加費徴収は問題ない」とコメントしている(甲2の6)。
ウ また,高崎経済大の伊藤亜都子准教授(地域コミュニテイ論)も,「無償とは『私的な利益を上げない』ということで,現金を受け取らないということではない」とし,「ボランティアが時間と労働力を投じた上,運営費も自腹では,活動費が成り立つはずがない」と述べている(甲2の6)。
エ さらに,長澤建設部長も,平成20年2月20日,原告らに対し,参加費を集めることは問題ないと述べている(甲55:10頁)。
松本 だからね,そういうことはね,いわゆる2000円の徴収が悪いって私は言われてるんで。ね,ボランティアってのはタダでやれっていわれてるんで。でも,その形態は・・・。
長澤 それはもう,ほぼ整理ついたんですよ。
松本 整理ったって・・・。整理できてない。
長澤 ___の方でしているのは,一般的には。
松本 間違っていることに気づいたんでしょ?
長澤 いや,間違っているんじゃなくて,一般的にはね,NPO法人とか,ボランティア団体は,無料じゃできないんで,最低限度の参加料はとっても。
松本 やってるよね?
長澤 それは違法性はないんです。ないん。一般的にそれはいいん。
松本 でも市長はそれでやめさせたわけでしょ,我々に・・・。
長澤 そうそうそうそうそう。だからそこはさあ,よく分かったからさあ。それはもういいんですよ。
(3) 事業運営に透明性が欠けるとの被告らの主張が失当であること
被告らは,原告未来塾との共催団体である地域創造集団「楽舎」の補助事業等実績報告書(乙7)を基に,事業運営の透明性を問題にするようであるが,失当である。
楽舎の管理する特別会計30万円は,フリーマーケット実行委員会が出店者から参加料を集めるまでの間,実行委員会が必要経費を支払えるようにするためのもの(開催準備金)であり,実行委員会が出席者から参加料を集めた後,実行委員会が楽舎に30万円を戻し,同様に次回以降のフリーマーケットの開催準備金に充てているものである(甲33)。したがって,フリーマーケットの収支(甲13)の結果には直接影響しないものであって,この記載がないことをもって「事業運営が透明性に欠ける」などと論難される謂われはない。
そもそも,被告らは本訴訟までの間に,原告らや学舎に対し上記の指摘及び質問を行ったことは一度としてなかったところ,本訴訟を提起されるや,平成20年11月6日になって,訴訟外で楽舎に対し問い合わせを行っており(甲32),このことからし被告らの主張がいかに杜撰かつ後付けの,根拠のないものであるかは明らかである。
また,被告らは「市民や出店者に対して会計報告がなされていない」などと主張するが,任意団体である原告未来塾やフリーマーケット実行委員会の会計を公にすべき法的根拠に乏しいばかりか,フリーマーケット開催にあたって補助金を支出もしていない被告安中市がかような主張を行うこと自体,理解に苦しむ。甲13号証のとおり,フリーマーケットの会計の内容に不透明な部分は一切なく,参加者から参加費を徴収しても,なお収支は赤字であって,その分け原告らの持ち出しとなっていた。
4 原告未来塾自身のバザーの収益からの寄付
原告未来塾は,フリーマーケット内において,自らもバザー「もったいない市」を行ってきた。これは,不用品の有効活用とともに,その収益を被告安中市及び訴外社会福祉法人安中市社会福祉協議会(以下「安中市社協」という)に寄付することや,自然保護活動に充てることを目的として行ってきたものであり,原告らが高い評価を受けていた活動の一つであった(甲14の2,甲8,甲50:8頁,原告松本:6頁)。
フリーマーケット終了後,後日,原告ら,被告安中市,及び安中市社協が安中市役所に集い,寄付金の受渡しが行われるのが慣例となっていた(甲14の2,甲50:8頁)。
なお,これまでの寄付は,累計で300万円及び車椅子4台である。
5 フリーマーケット内での募金活動
フリーマーケット内において募金活動が行われることもある(甲50:8頁)。
募金活動は,原告未来塾が主体となって行われることもあれば,原告未来塾以外のグループが行うこともあった。
例えば,
① 第12回(平成9年11月2日)及び第14回(平成10年10月18日)開催のフリーマーケットでは,「ちびくろ関東ネット群馬支部」の■■■■■■氏が,阪神淡路大震災に関する募金活動を行った(甲16,甲17)。
② 第26回(平成16年10月31日)開催のフリーマーケットでは,原告未来塾が,新潟県中越地震災害に関する募金を行い,日本赤十字社群馬支部を通して寄付を行った(甲18,甲19)。
③ また,ここ数年は,毎年,秋のフリーマーケットにおいて,群馬県共同募金会安中支会が,赤い羽根共同有余を行っていた(平成18年10月22日開催の第30回につき,甲20,甲21)。
第5 意見交換会開催までの経過
1 第29回及び第30回のフリーマーケット
平成18年4月に被告岡田が被告安中市の市長に就任して以降も,フリーマーケットは第29回(平成18年6月11日),第30回(同年10月22日)と従前通りに開催された(甲6,第30回の使用許可につき甲11の1)。
2 第31回(平成19年6月3日)のフリーマーケット
(1) 被告岡田による会場使用許可
平成19年6月3日開催の第31回フリーマーケット(甲6,甲7,甲8)にあたっての米山公園の使用許可は,先立つ同年4月17日に,被告安中市長の被告岡田名義で出されていた(甲11の2)。
(2) 平成19年5月22日付文書(甲22)
ア 文書が突然郵送されてきたこと
開催日の約10日前である同年5月22日,突然,原告松本のもとに安中市の建設部長及び教育部長名義で,「出店料及び,その他の徴収についても自粛していただき,真のボランテァ活勣にて運営下さるよう,お願い申し上げます」との文言(甲22)が郵送されてきた(甲50:9頁,原告松本:5頁)。
イ 原告らの問い合わせに対する被告らの無回答
原告らは,同文書の内容が意味不明であったため,その内容について名義人たる長澤建設部長に対し問い合わせた。しかし,長澤建設部長の回答は「私たちが書いた文書ではなく困っている。これは市長が自ら行った事である」というものであった(甲50:9頁,原告松本:5~6頁)。
原告らは被告岡田からの説明を求めたが,その後被告岡田から連絡はなかった(甲50:9頁)。
ウ 被告岡田の作成にもかかわらず作成名義を偽っていること
(ア) 同文書の作成名義は,長澤建設部長及び佐藤教育部長となっているが,実際に作成したのは被告岡田であり,作成名義に偽りがある。
(イ) 長澤建設部長は,同文書について教育委員会の職員が作成・起案し発送した旨証言する(証人長澤:2頁,17頁~18頁)。同証言自体,名義人たる長澤建設部長が作成したものでないことを示しているが,長澤部長は,同文書発送直後,原告らの問い合わせに対し,「私たちが書いた文書ではなく困っている。これは市長が自ら行ったことである」と回答し(甲50:9頁,原告松本:6頁),さらに平成20年2月20日にも「自分が作成したものではない」旨述べており,さらにこれらの事実を法廷でも認めている(証人長澤:18頁)。
原告ら訴訟代理人山下 あなたは,これが原告に届いたあと原告からこの文書について問い合わされて,これに対して,「私たちが書いた文書・でなくて困っている,市長がしたことです。]このように話しませんでしたか。
長澤 はい。
(略)
山下 この甲第22号証の1が私が作ったものではないということを,2月20日の日にもお話されていますね。
長澤 はい。
(甲55:9頁)
■■■ だって,あの文書は,だって,長湯さんが書いたわけじゃないんでしょ?一番初めの5月のお手紙は,名前が載ってましたけど。
長澤 いえ,違います。話の通りね。
■■■ ね。
(甲55:11頁)
長澤 いや,だから,これ(注:甲27)を手渡してこいってことなんて。
(賂)
長澤 まあ,建設部長っていう名前がないってことだけ,今度はいいんですけどね。本当にいいんですけどもね(笑)。
(ウ) 被告岡田自身,同文書(甲22)自分の意向に従って作成したものであることを法廷で認めている(被告岡田:1頁)。
エ 同文書が条例に反して作成されたものであること
(ア) 公印規則違反
同文書(甲22)の印影は,安中市公印規則(甲、36)の別表第2の42番の印鑑である。同印鑑は「辞令又は市名をもってする文書」に使用され,総務部秘書行政課長が管理者とされている(同別表第1)。
同文書(甲22)は,辞令でも市名をもってする文書でもないため,公印規則上,42番の印鑑は使用対象とならない。
さらに,印鑑の管理者である秘書行政課長は,当時鳥越一成であったところ,同人はそもそも本件文書が発送されていたこと自体,平成19年7月2日に原告松本より指摘されるまで知らなかった。鳥越課長の作成した「フリーマーケットinあんなか代表松本立家氏からの寄附辞退の対応について」(丙10の1)には,
「松本氏への文書は見ていないので,どんな内容の文書か聞いてみる」(4個目の「◎」の段落1行目)
「先の文書を建設部長より見せてもらってからもう一度かけ直すことで通話を切る」(同段落最後から2行目)
と記載されている。管理者である鳥越課長の預かり知らぬ間に,その管理する印鑑が使用されていたのである。
(イ) 公園条例違反
被告岡田は,同文書について,「安中市公園条例第7条(勧告及び命令)市長は,公園管理上必要かおる時は,利用者に対し,利用方法及び営業手段について勧告及び命令を,発する事ができると明記している。松本立家氏は,(この文書を)怪文書扱いしているのである。どういう人間性なのか?」(第1準備書面:5頁,第3準備書面:4頁も同旨)などと主張する。
しかし,同文書は,条例上の勧告でも命令でもない。仮に被告岡田の主張するように同書面が勧告や命令であるならば,その文書作成者は市長でなければならず,市長以外の名義で勧告・命令を発している点で,条例に明らかに違反している。
このことは,長澤建設部長も明確に認めている。
(証人長澤:20頁)
原告ら訴訟代理人山下 この裁判で被告側は,特に岡田市長ですけれども,平成19年5月21日付けの真のボランティア活動でという文書と発送した根拠について,公園条例の条例上に基づく勧告命令だという主張をしているんですけれども,あなたも同様の御見解ですか。
長澤 勧告ですか,ちょっとそういう認識はありません。
(賂)
山下 この7条にのっとって文書を出すのなら,あなたの名義で出すのはおかしいですよね。
長澤 正にそうです,はい。
(ウ) 被告岡田の条例・規則等を遵守する態度の欠如
このように,被告岡田は,文書の名義人の了解も,印鑑の管理者の了解もなく,また,本来使用すべきでない印鑑を用いて,勝手に作成し原告らに発送していた。
被告らは,原告らがフリーマーケットを開催するにあたり,あたかも条例違反を犯し,市民の利益に反する活動を行っていたかのように主張していが,そのような事実はない。むしろ,この文書の作成・発送の経過一つ取ってみても端的に示されているとおり,条例に定められている手続に違反し,市民の利益を顧みずに独善的かつ杜撰な行為に出ていたのは,被告岡田のほうである。
このことは,長澤建設部長も法廷で明確に認めている。
(証人長澤:21頁)
原告ら訴訟代理人山下 今回,この裁判で,被告側安中市と岡田市長さんは原告らのフリーマーケットの活動に対して,条例や規則を守っていない,使用料の減免申請書も出していないし募金活動の許可も受けていないし,禁じられているのに転貸で又貸ししていると。そして市の側は,条例や規則にのっとってちゃんとやらなきゃいけないと,こういう主張を締り返してるんですが,先ほどの甲第22号証の1,あなたの名前が書かれている文書一つ取ってみても,公印規則や公園条例にのっとってきちんと処理されてるものじゃないですよね,そのことはあなたも認めますね。
長澤 はい,そこは認めます。
(3) 第31回フリーマーケットの開催
結局,第31回フリーマーケット自体は,予定通り開催された。
同フリーマーケットでは,参加予定のなかった岡田市長が急遽参加し,ステージで行われたオープュングセレモ二ーで,「安中のフリーマーケットにようこそおいで下さいました」「未来塾のこのような活動はすばらしい」という趣旨のスピーチを参加者,来場者らに対し行った(甲3:2枚目上から3枚目の写真,甲50:9頁)。
3 被告安中市の原告未来塾からの寄付金の受領拒否
第31回フリーマーケット終了後,例年通り,平成19年7月2日に,安中市役所において,原告未来塾のフリーマーケット内のバザーでの収益から被告安中市及び安中市社協への寄付金の受渡しが行われる予定となっていた。
ところが,同日午前9時ころ,突然被告安中市秘書課長より原告松本宛に,「寄付金の受取りはできない。理由は以前送った文言の通りである。公共の施設で2000円を徴収しているようなイベントの寄付は受けられない」旨の連絡が入った。
原告松本は被告岡田からの説明を求めたが,被告らより連絡はなく,予定されていた寄付は行われなかった(甲50:9頁,甲2の4,証人長澤:6頁,原告松本:6頁,被告岡田:5頁)。
4 第32回の公園使用許可申請の不受理
(1) 事実経過
平成19年8月,原告未来塾の■■■■・■■■■■は,平成19年10月28日に予定していた第32回のフリーマーケット開催のため,被告安中市(市長)に対し,公園使用許可申請を行うため,被告安中市建設部都市整備課に申請書(甲23)を持参した。ところが,被告安中市担当者は,「上から保留にしなさいと言われているので渡せない,保留したとしても結論がいつになるのかわからない」と述べ,申請書はその場で返却された(甲51:3頁,原告松本:7頁)。
(2) 被告らの主張に対する反論
被告らは,建設部都市整備課から「今回は上記問題点も含めフリーマーケットの運営上の疑問から,使用許可についてその場で回答できないので検討させてもらいたい」と説明した旨主張するが,そのような説明は一切存しなかった。また,上述したような,使用料減免や募金について申請書を必要とするとの被告らの立場の説明や,申請書の提出が促されることも一切なかった。そのような説明や督促があれば,原告らとしては当然提出していたのである(甲50:10頁,原告松本:7頁,25~27頁)。
むしろ,下記の通り,被告安中市職員は,申請書を持ち帰るよう■■に述べたのである。
(甲40:56頁)
■■■ (略)私は,じゃ,そのことの保留はいつわかるのか?って言ったら今係の者がいないのでわからないと言われましたね,と思っていたらそこに課長さんか誰か,課長さんかな,顔見りゃわかりますけども,来て,そこで聞いたら,今,今日の段階では,貸せないのでこれはお預かりするかお持ち帰り下さいと言われたもんだから,わたしは持ち帰りました。(略)
(証人長澤:6頁)
被告訴訟代理人渡辺 これは,許可はしなかったのね。
長澤 許可はしないというか,まだ話合いで整理がついていないと,そういうことなんで,8月だったですかね,取りあえず,こういう申請に来たけども持ち帰ってもらいましたという報告は,所管のほうから話は,一応口頭で聞いております。
渡辺 持ち帰ってもらった。
長澤 はい。
(3) 高橋議員が申請書を提出したことはない
被告岡田は,31回目のフリーマーケット開催までは高橋議員が申請書を持参して来て,今すぐ許可してくれと述べていた,などと主張するが(被告岡田第1準備書面16頁),高橋議員が申請書を持参して市役所に赴き提出したことは一度もなく,被告岡田の主張は全くの虚偽である(甲51:3頁)。
第6 平成19年9月10日の「意見交換会」の開催
1 総論
原告らは,上述した,①出店料の徴収を自粛して真のボランティア活動で,との趣旨不明な文書が突然届いたこと,②寄付金の受け取りも突然拒否されたこと,③会場の使用許可が下りなかったこと,の3点について,再三にわたって被告岡田との話し合いを求め,結果,同年9月10日午後5時から,安中市役所にて話し合いがもたれることとなった(甲24,原告松本:8頁)。
2 意見交換会の日程
(1) 被告らは,建設部長及び総務部長から6月当初より原告らに話し合いを求め,原告らが断って被告らの要請によりようやく9月10日に意見交換会が開かれた,などと主張するが(答弁書6頁),虚偽である。
再三にわたって話し合いを求めていたのは,原告側である(原告松本:8頁)。7月20日には,原告未来塾の■■■■・■■■■が,総務部長と話し合いの場を持つための協議を行っている。
被告らは,原告が「話し合いの日時の繰り上げさえ要望することなく」などとも主張するが(答弁書6頁),意見交換会は「9月7日か9月10日」に予定されたため,原告らは早い方の9月7日を要望した。しかし,最終的に被告らの意向により9月10日に決定したのである(甲50:10頁)。
(2) 被告岡田は,この訴訟において,原告らが9月10日当日に突然市役所を訪れたなどとも主張し(被告岡田第1準備書面20頁,22頁,39頁),法廷でもそのように証言したが(被告岡田:6頁),明らかに事実に反する。
長澤部長が被告岡田及び原告らの日程を調整したうえ,遅くとも平成19年8月20日の時点では,意見交換会の日程は9月10日と決定していたのである(甲24の1)。
(3) 意見交換会の日程が9月10日に決定した経緯に関して,長澤建設部長は下記のとおり証言している。長澤建設部長の証言からも,原告らの要求故に同日程になったのでもなく,また,9月10日に突然原告らがおしかけてきたのでもなかったことは明白である。
(証人長澤:8頁)
被告安中市訴訟代理人渡辺 それが9月10日になってしまったのは,どういう理由だったんですか。
長澤 松本さんのほうの関係があるんで,私と総務部長のほうで窓口で調整をしてました。たまたまその当年は夏に選挙があるんで,選挙でも済んでから落ち着いてからしましょうということでやってまして,それが,選挙が終わってお盆になっちやってそれでまた先延ばしになって,このありますように9月10日なったんですね。
(証人長澤:21頁)
原告ら訴訟代理人山下 先ほど,主尋問の中で,平成19年9月10日の意見交換会の日程調整をあなたが窓口になって行っていたと,このように証言しましたね。
長澤 はい,私と総務部長ですね。
山下 日程調整をするときは,松本さんの予定を聞くのはもちろんのこと,市長の日程も当然に把握されますよね。
長澤 はい。
山下 9月10日に行うということは,いつごろ決まりましたか。(略)8月下旬ごろではありませんでしたか。
長澤 8月のお盆過ぎですね。
山下 この裁判で,岡田さんは準備書面の中で,当日午後4時50分に未来塾が市役所に突然やってきたと。岡田さんはあなたに対してなぜ今日なのですかと聞きましたが,建設部長,あなたは未来塾の申入れですと言うだけであったのであると,まるで事前のアポイントなしに突然その日の4時50分に市役所にやってきたというような主張をされているんですけれども,当日に突然やってきたわけじゃないですよね。
長澤 はい,そうです。
3 意見交換会の概要・被告岡田の「ボランティア」についての発言
(1) 実際に話し合いが始まったのは午後6時であり,午後8時頃まで行われた。被告安中市側は,被告岡田の外,総務部長,建設部長,及び教育部長が出席し,原告未来塾側は,原告松本の外,■■■■の■■■■及び■■■■の■■■が出席した(甲50:12頁,証人長澤7頁)。
(2) 「意見交換会」は,フリーマーケットの出店者からの参加費の徴収に関するものが主であった。その中で,被告岡田は,「ボランティアならば無償でやるべき(参加費を徴収すべきでない)との市民の指摘がある」,との主張を繰り返し,話は全く平行線のままであった(甲50:16頁,甲51:4頁)。
(3) また,被告岡田は,意見交換会開始後約30分経過した頃,「参加費を徴収しているのだから未来塾のフリーマーケットは露天商組合と同じではないかという指摘がある」などと発言した。原告らが,何度かフリーマーケット会場に来場している被告岡田自身が露天商と感じたのかと問うても,被告岡田は,「そういうことを岡田が感じたかということではなく,市民の皆さんの声,指摘に対して行数が適切に答えるために伺っている」などと議論をはぐらかせ続けた(甲51:5頁)。
(4) さらに,平成19年5月21日付け文言(甲22号証の1)に「真のボランティアで」との趣旨の記載がなされていたことから,原告らが,「真ののボランティア」についての被告岡田の認識を問うても,被告岡田は,「こちらから伺っているところです」「伺っていることのみに答えて,それは後にしていただきたいjなどと,議論をはぐらかせ続けた(甲52:4頁)。
4 意見交換会の開始の遅れ
被告らは当初,意見交換会の開始の遅れの原因について,原告らが「フリーマーケットの運営について」と題する文書(甲22の1)の件を明確に議題にするようにと「1時間20分余りにわたって自己主張を展開し続けた」と述べたためと主張していた(被告ら答弁書4頁)。被告らは,「談話」の掲載・発行にとどまらず,本訴訟においてもなお,原告らが,被告らとの話し合いに際して不誠実な態度を示す者・団体であるかのように主張したのである。
原告らが「フリーマーケットの運営について」(甲22)に議題を追加するよう被告らに求めていた事実はあるが,それはすでに8月から長澤建設部長に対して求めていたことである。また,意見交換会の開始が1時間(1時間30分ではない)遅れたのは,当日,県議会による現地視察や,議会での決算委員会などが行われたためであって,意見交換会開始直前,まず被告岡田が「どうも待たせてすいません」と発言し,その後,長澤建設部長が意見交換会開始の遅れを詫びた際に,雨の中現地視察に行っていた旨を説明した。原告らもこれに対し,「どうもどうも」「ご苦労様です」と労っている(甲50:13頁)。
原告が準備書面においてそのように反論するや,被告岡田は,意見交換会の開始の遅れは台風の対応があったためである旨主張を修正した(被告岡田第1準備書面8頁以降及び22頁以降)。
このような主張の変遷自体からも,被告らがいかに一貫性を欠き,悪意に満ちた虚偽の主張を行っているかは明白である。
5 開始後約15分経過時点
この「意見交換会」開始後,被告岡田は,原告松本と会話をしているにもかかわらず,被告岡田から見て左に座っている原告松本の方を全く向かず,右に座っている堀越総務部長・佐藤教育部長の方や,正面に座っている長澤建設部長の方を向いて,話を進めていた。
そのため,開始後約15分か経過した頃,原告松本が,「市長さん,お話をしているのは私ですから,できれば私のほうに向いていただけると,お答えもしやすいんですが」と指摘する場面もあった。
この点に関しては後に詳述する。
第7 第32回のフリーマーケット開催の断念
1 意見交換会の後も,被告安中市(市長)からは会場の使用許可が出されなかったため,同月12日,原告らは第32回のフリーマーケットの開催を断念し,フリーマーケット関係者に連絡した(甲2の2,甲50:22頁)。
2 その後の同月14日午前9時ころ,被告安中市の建設部長より原告松本に開催許可の電話があった(甲50:22頁,原告松本:15頁)。
原告らの開催しているフリーマーケットは,その規模の大きさから準備に約3ケ月を要する(甲25, 原告松本:15頁,22~24頁)。原告らは限界まで被告安中市からの回答を待ったうえ,開催の断念を決定し関係者に連絡をしたのであり,被告安中市からの回答は明らかに遅きに失していた。
第8 「おしらせ版あんなか」41号への本件記事の掲載と配布
1 本件記事の掲載
(1) 被告安中市は,月に2回,「おしらせ版あんなか」を,総務部秘書行政課が編集し,「安中市役所」が発行する形で,安中市内の全戸に配布している。
(2) 被告岡田は,この「おしらせ版あんなか」41号(平成19年12月21日付)3頁に,「談話」と題する下記の記事(以下「本件記事」という)を掲載した(甲1)。
①「1.話し合い開催日:平成19年9月10日
2.出席者:安中市:4名 未来塾3名
3.安中市から回答した日:平成19年9月13日午前8時30分誠意を待って許可する旨回答した
4. フリーマーケット開催予定日:平成19年10月28日・・・市の回答から44日間もある」
②「市 :すみませんが確認をさせていただきたいのですが・・・」
未来塾:目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」
市 :静かに話をしましよう。」
③「市 :募金箱を持って回るのはおかしい。市はそういうことを知っているのか・・・。という指摘もあります。本当なのか伺います。
未来塾:阪神大震災が発生した時,募金箱を持って回り,募金活動をしたことが1回あるだけです。
市 :阪神大震災は12年前ですよね。12年前のことを市民が指摘するのですかね・・・。
未来塾:阪神大震災のときだけです。その時以外は一切募金活動はしていません。
市 :そうですか。未来塾の皆さんは昨年ここ(市長室)へ何回(※)も来たんですから,フリーマーケットの内容の説明をされて市は聞いていれば市民から苦情や指摘があった時に即座に金額等は市は承知していますと答えられたんですよね。市は市民に説明責任があるのです。」
④「市 :スポーツセンターの駐車場使用について確認させてください。西の駐車場はスポーツセンター利用者の駐車場に。東駐車場はフリーマーケットに。はっきりスミワケを決めたことはご承知ですか。
未来塾:知っています。
市 :スポーツセンター中央駐車場までフリーマーケットの駐車場にするとは市は何を考えて提供しているのだ・・・と市民から抗議や苦情がきて困っているのですよ。」
⑤「※市役所北側のサワイ産業が閉鎖するので,市が跡地を買収するよう3回来庁しています。(1回目,2回目は未来塾から1人で,3回目はサワイ産業社長と2人で来庁)」
⑥「○フリーマーケット出店者に配布された資料(平成19年6月3日開催分)から抜粋」と称して,「活動のための寄付金を集めています」
⑦「安中市は人と争うことを避け,人に責められて人を責めず,罵られて罵らず,市行政は寛容の精神を持つ人を育てることを銘としています。」
2 配布
本件記事を含む「おしらせ版あんなか」41号は,被告安中市によって,安中市内の約2万3000戸の全戸に配布された。
3 原告らに事前の確認のなかったこと
被告安中市はこれまでも,市の広報紙にフリーマーケットの記事を掲載してきたが(甲53),それがたとえ数行の記事であっても,その内容に誤りがないかどうかについて,事前に原告らに確認があった(甲50:23頁,原告松本:17頁)。
しかしながら,本件「談話」について,原告らは,かような記事の掲載を事前に被告らから知らされておらず,被告らから当該記事内容の正確性についての事前確認はなかった(甲50:23頁,原告松本:17頁)。
**********
【ひらく会情報部・最終ラウンドその2-2につづく】
それでは、これまでの本件裁判の集大成とも言える、原告未来塾が地裁高崎支部に提出した129ページにおよぶ最終準備書面を見てみましょう。
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【原告最終準備書面】
平成20年(ワ)第492号 損害賠償等請求事件
原告 松本立家 外1名
被告 岡田義弘 外1名
原告最終準備書面
平成22年3月8日
前橋地方裁判所高崎支部合議2係 御中
原告ら訴訟代理人 弁護士 山下敏雅
同 中城重光
同 釜井英法
同 登坂真人
同 寺町東子
同 後藤真紀子
同 青本知己
同 古田隆宏
同 大伴慎吾
同 船崎まみ
同 寺田明弘
同 高城智子
同 山口裕未
<目 次>(略)
I はじめに
第1 事案の概要
本件は,原告らが長年にわたって開催してきたフリーマーケットに関して,平成19年9月10日に原告らと,被告安中市の市長である被告岡田義弘を含む市関係者とて「意見交換会」が行われたところ,被告岡田義弘が,その「意見交換会」の内官等に関する虚偽の記事を,被告安中市の編集・発行する広報紙に掲載して安中市全戸に配布し,原告らの社会的評価を低下させたことから,原告らが被告らに対し,損害賠償及び謝罪記事の掲載を求めた事案である。
なお,訴え提起時には記事が被告安中市のインターネットウェブサイト上に掲載され続けた状態であったことから,当該データの削除も請求の趣旨に含めていたが,その後被告らが削除したため,同請求部分は取下げている。
第2 本書面の骨子
本訴訟で現れた被告らの反論や,双方の提出した書証,そして尋問の結果から,原告らの請求に理由のあることはより一層明確となった。本書面の骨子は,以下の通りである。
1 事実関係
(1) 原告らの開催していた地域づくり活動である北関東最大級のフリーマーケットについて「第3」及び「第4」で述べる。
(2) ①第31回のフリーマーケットの前に「真のボランティア活動にて運営下さるよう」との文言(甲22)が突然郵送されてきたこと,②慣例となっていた原告らによる寄付金の受け渡しが突然被告らから拒否されたこと,③第32回のフリーマーケットの会場使用許可申請が受理されなかっとこと,の各経緯について,「第5」で述べる。特に,本件の一番の契機となっている甲22号証の文書については,被告岡田に条例・規則を遵守する態度のないことを端的に示している(「第5」「2」「(2)」で述べる)。
(3) 前項の3点について平成19年9月10日にもたれた「意見交換会」の概要について「第6」で述べ,その結果,原告らが第32回のフリーマーケットの開催を断念せざるを得なかったことにつき「第7」で述べる。特に意見交換会の開催日が9月10日となった経緯や,意見交換会の開始時間が予定よりも遅れた理由について,被告らの主張が事実に反することを,「第6」「2」及びF4Jで述べる。
(4) 「談話」は,原告らが冒頭から怒鳴ったなどの記載を始めとする真実に反した記述が多数に及び,また,意見交換会の話し合いの内容や関係資料を恣意的にとりまとめられ,さらにはフリーマーケットと無関係かつ誤った内容が掲載されている。この詳細については,「第8」及び「第9」において詳述する。
(5) 原告らが怒鳴っていないこと等,意見交換会のやりとりの内容については,ICレコーダーの記録(甲39)から明らかであり,同記録には編集加工は一切なされていない。録音記録が編集されていると結論づける鑑定書(丙22)は,論理的に重大な誤りがあり,信用性はないうえ,むしろ編集加工していないとの原告らの主張を裏付けるものとなっている。他方で,被告岡田が提出した「要点筆記」(丙17)は,後目作成された虚偽のものである。これらの詳細については,「第10」において詳述する。
(6) 被告岡田は,平成20年2月19日付文書(甲27)で,米山公園周辺住民への配慮が肝要などと記載したが,かかる論点は意見交換台でも「談話」でも触れられていない論点てあるうえ,当の周辺住民からかような苦情は出ていなかった。むしろ,翌20日に同文書を持参した長澤建設部長は,原告らに対し,「談話」の記載が事実と反していることや,事実に反していることを市長たる被告岡田には指摘できないことを述べたうえ,さらには原告松本と長澤建設部長が一番の被害者だと述べていたのである。
これらの詳細については,「第11」において詳述する。
(7) 被告岡田は,「談話」掲戦後も地区懇談会で名誉毀損行為を反復継続し,さらに本件に関する原告らとの和解に関して,地区懇談会での発言や本訴訟で証言した意見と異なる陳述害(乙17)を本訴訟に提出していた。この点について「第12」で述べる。
(8) 被告らの主張する,フリーマーケットにおいて募金を行うための条例上の許可や,転貸禁止条項該当性については,そもそも本訴訟で初めて被告らが出した論点であり,意見交換会や「談話jにおいては触れられていない。この点について「第13」において述べる。
2 法的主張
(1) 本件「談話」は,一般読者の普通の注意と読み方を基準としてみれば,原告らの社会的評価を低下させるものであること,すなわち,名誉毀損に該当することは明らかである。冒頭から怒鳴ったり,市長を罵るような団体・個人であったり,その他,不正な活動に従事し,不自然な弁解を行い,開催準備期間が十分にあるのにやる気がないのに行わないような団体・個人であれば,地域づくりに関して信頼性の高い機関・団体から多数受賞するに値しないこととなろう。そして,一般市民も同様に受け止める。このことは岡田自身も法廷で認めている。そして,実際に原告らの社会的評価は低下させられている。これらの諸点について,「第14」及び「第15」で詳述する。
そして,名誉毀損は,原告未来塾だけでなく,実名が記されていない原告松本個人に関しても同様に成立している。この点について,「第16」で述べる。
(2) 本件「談話」の記載内容は,真実でない。のみならず,被告らにおいて,「真実と信ずるについての相当の理由」も欠く。被告岡田は,自らの私的満足等の目的のために,故意に虚偽の内容を「談話」に記載したのであり,また,被告岡田・被告安中市共に,少なくとも重過失の存することは明らかである。これらについて,「第17」で詳述する。
また,「談話」の掲載が「専ら公益を図る目的」を欠いていることにつき「第18」で,「言論の応酬」の免責の法理についての被告らの主張が失当であることにつき「第19」で,それぞれ述べる。
(3) 本件「談話」は,名誉毀損を構成するのみならず,名誉感情及び人格権をも侵害するものであることにつき,「第20」及び「第21」で述べる。
(4) 被告岡田が不法行為責任を負い,被告安中市に国家賠償法上の責任が認められる場合でも被告岡田が免責されないことにつき「第22」で,また,被告安中市について,被告岡田の行為につき国家賠償法上の責任及び使用者責任を負うこと,のみならず,「談話」の編集・発行・配布・掲載した担当職員の行為についても国家賠償法上の責任を負うことにつき「第23」で,それぞれ述べる。
また,「談話」掲載によって発生した損害及びその回復のために慰謝料の支払いのみならず謝罪記事の掲載が必要であることにつき,「第24」で述べる。
(5) そして,本件訴訟の意義につき,「第25」で述べる。
Ⅱ 事実関係
第3 当事者
1 原告ら
(1) 原告松本立家
原告松本立家(以下「原告松本」という)は,安中市の市民であり,家庭電化製品類販売等の有限会社の代表取締役を務めながら,下記の「地域づくり団体未来塾」代表として,地域のために長年にわたってボランティア活動を続けている者である(甲26,甲50:4頁)。
平成16年5月3日には,群馬県から,群馬県総合表彰「地域づくり功労賞」を受賞している(甲26,甲50:5頁/原告松本:1頁)。
(2) 原告地域づくり団体未来塾
ア 設立・目的・活動内容
原告地域づくり団体未来塾(以下「原告未来塾」 という)は,平成元年10月1日に設立された団体である。
原告未来塾は,会の目的として,会則第3条において,「この今は,塾生による自由な発想のもと『より良いまちづくり・人づくり・環境づくり』を目指すとともに,個々にある可能性や夢などをさまざまな活動を通じて引き出し自らの向上を目指す」と定めており(甲29),下記に詳述するフリーマーケットの開催,バザー(「もったいない市」)の収益金から被告安中市や社会福祉協議会への寄付,里山の自然を取り戻す環境保護活動,小学校のビオガーデン整備,各種文化事業等を実施している(甲28,原告松本:1頁)。
メンバーの構成は,現時点において,10歳から70歳まで約80名である。
イ 原告未来塾の活動に対する社会的評価
未来塾の活動は外部から高い評価を受けており,主な受賞歴だけでも,上毛新聞社・上毛新聞厚生福祉事業団「上毛社会賞」(平成8年),群馬県新生活運動椎進協議会「群馬ふるさとづくり奨励賞」(平成8年),群馬県「緑の大地ぐんま180選『山根ホダルの里』」(平成10年),群馬銀行環境財団「群馬銀行環境財団賞」(平成13年),安中市「安中市地方自治功労賞」(平成18年,甲31の1),群馬県社会福祉協議会会長感謝状(平成18年),群馬県地域づくり協議会外「群馬ふるさとづくり賞」(平成19年,甲31の4),財団法人あしたの日本を創る協会「あしたのまち・くらしづくり活動賞・振興奨励賞」(平成19年,甲31の5)等がある(甲28,原告松本:1頁)。
ウ 権利能力なき社団
原告未来塾は,法人格を有していないものの,会則(甲29)において,目的,名称,意思決定方法,業務執行機関など,団体としての組織性を備えており,多数決の原則が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,代表の方法,総会(甲30)の運営,財産の管理等団体としての主要な点が確定している,いわゆる「権利能力なき社団」である(最判昭和39年10月1日民集18巻8号1671頁参照)。
2 被告ら
(1) 被告岡田義弘
被告岡田義弘(以下「被告岡田」という)は,平成18年4月より被告安中市の市長を務めている者である。
(2) 被告安中市
被告安中市は,群馬県西部に位置し,平成20年4月時点で6万4000人余りの人口,2万3000戸余りの世帯を抱える,地方自治法の定める普通地方公共団体である。
被告安中市は,平成18年3月18日に,旧安中市及び松井田町が新設合併して,現在の市となった。
第4 原告らが長年開催してきたフリーマーケット
1 概要
(1) 原告未来塾は,安中市青年団連合会(その後の「地域創造集団楽舎」)と共催で,平成4年5月31日から,年に2回,「フリーマーケットinあんなか」を開催してきた(甲50:5頁)。
(2) 当初,西毛運動公園広場を会場とし,区画数70で始まった同フリーマーケットは,市民らからの人気の高まりを受けで徐々に規模が拡大し,平成16年5月30日の第25回からは,会場として米山公園(甲4:2枚目の一番上の写真)と安中市のスポーツセンター(甲4:2枚目の真ん中の写真)の2つを利用し,区画数も400に増え,毎回,当日の来場者数が1万5000人以上に及ぶ規模にまで成長し(甲6),「北関東最大級のフリーマーケット」と称されるようになっていた(フリーマーケットの様子につき,甲4及び甲5の各写真。原告松本:2頁,証人長澤1頁)。
(3) 原告らがフリーマーケットを始めた当初は,「フリーマーケット」という言葉自体が群馬県内に認知されておらず,出店者や来場者を集めることにも苦労したが,原告らの活動が浸透していった。また,以前はゴミだらけて非行少年らのたまり場となっていた米山公園も,フリーマーケット会場として使用されるようになってから,綺麗に整備されるようになっていった(原告松本:2頁)。
(4) 大規模なフリーマーケットのため,当然ながら運営スタッフは原告未来塾のメンバーだけでは足りず,ボランティアスタッフを募って共に運営していた(原告松本:3頁)。
(5) 原告松本は,このようなフリーマーケットを開催し,継続しようと思った理由,並びに,出店者,来場者及びボランティアスタッフの感想について,下記のとおり証言している。
(原告松本:3頁)
原告ら訴訟代理人山下 このようなフリーマーケットを開催しよう,また,続けていこうと思った理由はどういうものですか。
松本 そのころ,安中は非常に衰退しておりまして,地域の商店も,また,市民団体も社会的にもほんとに何かこう寂しい風が吹いてるような,そういう状況でした。私たちボランティアグループが安中市を元気にして,安中に大勢の人を集めてくることによって安中は元気になるだろうということで始めました。
山下 出店した方や来場した方からは,どのような感想が寄せられていましたか。
松本 それは,ほんとによかったということで,安中に大勢の人が集まったわけですから,喜んでくれましたし,これからも続けてほしいと言われております。
(原告松本:4頁)
原告ら訴訟代理人山下 (略)ボランティアで参加していた人たちからは,どのような感想が寄せられていましたか。
松本 すばらしいイベントだと,そういった実体騒がここでできるということは,もうほんとにうれしいと,子供たちでも知り合いでもいろんな人たちをこのボランティアに参加させたいということで,どんどん続けてほしいというようなご意見が多かったです。
(6) 原告未来塾の■■■■,■■■も,フリーマーケットが世代を超えた交流の場であったこと,ただ買い物をするというだけでなく,同窓会のような光景も見られたり,離れて暮らす親子がこの日だけ一緒に店を出すという話も聞いていたこと,そのような楽しみが得られるのも,このフリーマーケットの継続で培ってきた信用と信頼,そして地域が一緒になって取り組むことで,楽しさを一層盛り上げ,楽しいお祭りへと創り上げてきたからこそであることを陳述している(甲51:1頁)。
(7) 幼少の頃から家族や同級生とボランティアスタッフとしてフリーマーケットに取り組んできた原告未来塾の■■■■,■■■も,当日だけでなく準備の中で,一つの事をみんなでやり遂げる素晴らしさ,積極的に自ら行動することの大切さを学んだこと,今の自分があるのはこの取り組みがあってこそであり,自身の人格形成に大きな影響を与えた大切なものであったこと,スタッフとして参加していた子どもたちにとっても貴重な経験ができる場であり,自らが成長する大切な場であったこと等を陳述している(甲52:1頁)。
2 被告安中市(市長)からの会場使用許可
フリーマーケットは,被告安中市の所有・管理する公園や施設を会場として利用し,開催されていた。
(1) 米山公園
ア 米山公園の利用にあたっては,原告らは,「安中市都市公園条例」(その後「安中市公園条例」に改正。甲12)の規定に基づき,被告安中肉(市長)から公園使用許可を得てきた。申請書を被告安中市の建設部都市整備課に提出すると,即時その場で許可証が手渡されるか,遅くとも数日中には許可証が交付されていた(甲50:7頁,甲51:2頁)。
イ 米山公園の利用料は,免除されてきた(甲9,甲10,甲50:7頁)。原告らは,公園使用許可申請書(甲23)中の「使用料」欄を空欄で提出して許可を得ていた。公園使用料減免・還付申請書(乙2:様式第3号)は特段提出せずに被告安中市(市長)より使用料を免除される扱いが,長年にわたって続いていたのである。
市町村合併に伴い,乙2号証の安中市公園条例規則(乙2)が平成18年3月18日から施行され(附則第1条),被告岡田が市長に就任した平成18年4月以降も,原告らは同様の方法で申請を行い,かつ,市長たる被告岡田より使用料を免除されていた(平成18年10月17日付の許可書につき甲11の1,平成19年4月17日付の許可書につき甲11の2)。
ウ この点に関して,長澤建設部長も下記の通り証言し,形式的な申請がなくとも慣例により使用料を市が免除してきたこと,原告らの活動の社会的意義を認めてそのような扱いをしてきた旨を述べている(証人長澤:3頁)。
被告安中市訴訟代理人渡辺 これは,初めから無償だったですね。
長澤 以前から,これは公園を使っているのに対してそういう慣例できていると,ですから私が部長になってからも,その慣例にのっとり無料で使っていたと。
渡辺 その前も無料だったよね。
長澤 はい,そうです。
渡辺 無料については,使用料の免除の申立てみたいなのはあったんですか。
長澤 以前からもそうなんですけども,減免申請はなかったように聞いております。ですから,それに基づきましてその会(ママ、「回」の誤記)も審査はなかったと。
渡辺 なぜ無料だったのですか。
長澤 これは,未来塾さんのほうが開催するフリーマーケットが,安中を発信する地域振興,地域の活性化,更にはこれは環境のボランティアといいますかね,今現在リサイクル活動が非常に盛んですから,そういう運動をすることに対して行政としてもバックアップしていこうと,そういう趣旨がこれは一番大きかった,そういうふうに理解しています。
エ また,被告岡目も,会場を無料で使用するにあたって免除申請書を提出する必要があることについて,後述する平成19年9月10日の意見交換会の場で原告らに対し説明していないことを認めている(被告岡田:23頁)。
(2) スポーツセンター広場
原告らは,スポーツセンター広場の利用に関しては,同センターに直接申請を行ってきた(広場の利用料について特段の定めはない)。
同広場を使用する日程や使用方法の調整にあたっては,同センターで開催される「体育館利用者調整会議」で行われ,原告ら関係者も出席していた(甲51:2頁)。
同センターを会場として利用するにあたり,原告らは,警備員やシルバー人材センターなどによって人員を配置し,体育館(アリーナ)利用者の妨げとならないよう努め,現場では特段の混乱は生じていなかった。また,体育館との話し合いにより,午前10時以降はフリーマーケット利用者も駐車場への駐車が可能となっていた(甲50:7頁)。
3 出店者の参加費とフリーマーケットの収支
(1) 必要最低限の参加費を集めても収支は赤字であったこと
原告未来塾は,フリーマーケットの出席者から,1区画あたり2000円,企業参加の場合は1万円を,参加費として受領してきた(甲7:3頁,甲50:6頁)。
上述したとおり,フリーマーケットは2つの会場を使用し,参加者・来場者も多数に及ぶ大規模なもので,広告宣伝費,会場整備費,シヤトルバス代等,経費が多額に上る。上記参加費は,経費に宛てるため必要最低限のものであり,毎回,出席者から事前説明会において説明し了承を得たうえで受領してきた。
会場費が被告安中市から免除され,上記参加費を集めても,原告未来塾の収支はマイナスであり,利益は全く生じていない(甲13,原告松本:4頁)。その赤字分け,原告らの持ち出しや,他の事業によって填補していた(原告松本:4頁)。
(2) 参加費を集めることには何らの問題もないこと
ア 被告岡田は,ボランティア団体が公共施設を無償で利用しながら出店者から参加費を集めることが問題であるなどとの,全く根拠のない独自の見解を有しており(被告岡田:2頁),それが;平成19年5月22日付文書(甲22)や,その後に続く被告らの言動,意見交換会開催,そして本件「談話」の掲載配布の背景にある。
しかしながら,営利を目的としないフリーマーケットにおいて出席者から参加費を集めることは,通常一般に行われていることであり,何ら非難されるべきことではない。
イ 現在,他に行われているフリーマーケットにおいても,出店者から一般2000円,企業1万円程度を集めるのが一般的である。群馬県の県庁前広場で行われているフリーマーケットでも参加費が徴収されており,群馬県のNPO・ボランティア推進課も,原告らのフリーマーケットについて,「営利を目的としていないので,参加費徴収は問題ない」とコメントしている(甲2の6)。
ウ また,高崎経済大の伊藤亜都子准教授(地域コミュニテイ論)も,「無償とは『私的な利益を上げない』ということで,現金を受け取らないということではない」とし,「ボランティアが時間と労働力を投じた上,運営費も自腹では,活動費が成り立つはずがない」と述べている(甲2の6)。
エ さらに,長澤建設部長も,平成20年2月20日,原告らに対し,参加費を集めることは問題ないと述べている(甲55:10頁)。
松本 だからね,そういうことはね,いわゆる2000円の徴収が悪いって私は言われてるんで。ね,ボランティアってのはタダでやれっていわれてるんで。でも,その形態は・・・。
長澤 それはもう,ほぼ整理ついたんですよ。
松本 整理ったって・・・。整理できてない。
長澤 ___の方でしているのは,一般的には。
松本 間違っていることに気づいたんでしょ?
長澤 いや,間違っているんじゃなくて,一般的にはね,NPO法人とか,ボランティア団体は,無料じゃできないんで,最低限度の参加料はとっても。
松本 やってるよね?
長澤 それは違法性はないんです。ないん。一般的にそれはいいん。
松本 でも市長はそれでやめさせたわけでしょ,我々に・・・。
長澤 そうそうそうそうそう。だからそこはさあ,よく分かったからさあ。それはもういいんですよ。
(3) 事業運営に透明性が欠けるとの被告らの主張が失当であること
被告らは,原告未来塾との共催団体である地域創造集団「楽舎」の補助事業等実績報告書(乙7)を基に,事業運営の透明性を問題にするようであるが,失当である。
楽舎の管理する特別会計30万円は,フリーマーケット実行委員会が出店者から参加料を集めるまでの間,実行委員会が必要経費を支払えるようにするためのもの(開催準備金)であり,実行委員会が出席者から参加料を集めた後,実行委員会が楽舎に30万円を戻し,同様に次回以降のフリーマーケットの開催準備金に充てているものである(甲33)。したがって,フリーマーケットの収支(甲13)の結果には直接影響しないものであって,この記載がないことをもって「事業運営が透明性に欠ける」などと論難される謂われはない。
そもそも,被告らは本訴訟までの間に,原告らや学舎に対し上記の指摘及び質問を行ったことは一度としてなかったところ,本訴訟を提起されるや,平成20年11月6日になって,訴訟外で楽舎に対し問い合わせを行っており(甲32),このことからし被告らの主張がいかに杜撰かつ後付けの,根拠のないものであるかは明らかである。
また,被告らは「市民や出店者に対して会計報告がなされていない」などと主張するが,任意団体である原告未来塾やフリーマーケット実行委員会の会計を公にすべき法的根拠に乏しいばかりか,フリーマーケット開催にあたって補助金を支出もしていない被告安中市がかような主張を行うこと自体,理解に苦しむ。甲13号証のとおり,フリーマーケットの会計の内容に不透明な部分は一切なく,参加者から参加費を徴収しても,なお収支は赤字であって,その分け原告らの持ち出しとなっていた。
4 原告未来塾自身のバザーの収益からの寄付
原告未来塾は,フリーマーケット内において,自らもバザー「もったいない市」を行ってきた。これは,不用品の有効活用とともに,その収益を被告安中市及び訴外社会福祉法人安中市社会福祉協議会(以下「安中市社協」という)に寄付することや,自然保護活動に充てることを目的として行ってきたものであり,原告らが高い評価を受けていた活動の一つであった(甲14の2,甲8,甲50:8頁,原告松本:6頁)。
フリーマーケット終了後,後日,原告ら,被告安中市,及び安中市社協が安中市役所に集い,寄付金の受渡しが行われるのが慣例となっていた(甲14の2,甲50:8頁)。
なお,これまでの寄付は,累計で300万円及び車椅子4台である。
5 フリーマーケット内での募金活動
フリーマーケット内において募金活動が行われることもある(甲50:8頁)。
募金活動は,原告未来塾が主体となって行われることもあれば,原告未来塾以外のグループが行うこともあった。
例えば,
① 第12回(平成9年11月2日)及び第14回(平成10年10月18日)開催のフリーマーケットでは,「ちびくろ関東ネット群馬支部」の■■■■■■氏が,阪神淡路大震災に関する募金活動を行った(甲16,甲17)。
② 第26回(平成16年10月31日)開催のフリーマーケットでは,原告未来塾が,新潟県中越地震災害に関する募金を行い,日本赤十字社群馬支部を通して寄付を行った(甲18,甲19)。
③ また,ここ数年は,毎年,秋のフリーマーケットにおいて,群馬県共同募金会安中支会が,赤い羽根共同有余を行っていた(平成18年10月22日開催の第30回につき,甲20,甲21)。
第5 意見交換会開催までの経過
1 第29回及び第30回のフリーマーケット
平成18年4月に被告岡田が被告安中市の市長に就任して以降も,フリーマーケットは第29回(平成18年6月11日),第30回(同年10月22日)と従前通りに開催された(甲6,第30回の使用許可につき甲11の1)。
2 第31回(平成19年6月3日)のフリーマーケット
(1) 被告岡田による会場使用許可
平成19年6月3日開催の第31回フリーマーケット(甲6,甲7,甲8)にあたっての米山公園の使用許可は,先立つ同年4月17日に,被告安中市長の被告岡田名義で出されていた(甲11の2)。
(2) 平成19年5月22日付文書(甲22)
ア 文書が突然郵送されてきたこと
開催日の約10日前である同年5月22日,突然,原告松本のもとに安中市の建設部長及び教育部長名義で,「出店料及び,その他の徴収についても自粛していただき,真のボランテァ活勣にて運営下さるよう,お願い申し上げます」との文言(甲22)が郵送されてきた(甲50:9頁,原告松本:5頁)。
イ 原告らの問い合わせに対する被告らの無回答
原告らは,同文書の内容が意味不明であったため,その内容について名義人たる長澤建設部長に対し問い合わせた。しかし,長澤建設部長の回答は「私たちが書いた文書ではなく困っている。これは市長が自ら行った事である」というものであった(甲50:9頁,原告松本:5~6頁)。
原告らは被告岡田からの説明を求めたが,その後被告岡田から連絡はなかった(甲50:9頁)。
ウ 被告岡田の作成にもかかわらず作成名義を偽っていること
(ア) 同文書の作成名義は,長澤建設部長及び佐藤教育部長となっているが,実際に作成したのは被告岡田であり,作成名義に偽りがある。
(イ) 長澤建設部長は,同文書について教育委員会の職員が作成・起案し発送した旨証言する(証人長澤:2頁,17頁~18頁)。同証言自体,名義人たる長澤建設部長が作成したものでないことを示しているが,長澤部長は,同文書発送直後,原告らの問い合わせに対し,「私たちが書いた文書ではなく困っている。これは市長が自ら行ったことである」と回答し(甲50:9頁,原告松本:6頁),さらに平成20年2月20日にも「自分が作成したものではない」旨述べており,さらにこれらの事実を法廷でも認めている(証人長澤:18頁)。
原告ら訴訟代理人山下 あなたは,これが原告に届いたあと原告からこの文書について問い合わされて,これに対して,「私たちが書いた文書・でなくて困っている,市長がしたことです。]このように話しませんでしたか。
長澤 はい。
(略)
山下 この甲第22号証の1が私が作ったものではないということを,2月20日の日にもお話されていますね。
長澤 はい。
(甲55:9頁)
■■■ だって,あの文書は,だって,長湯さんが書いたわけじゃないんでしょ?一番初めの5月のお手紙は,名前が載ってましたけど。
長澤 いえ,違います。話の通りね。
■■■ ね。
(甲55:11頁)
長澤 いや,だから,これ(注:甲27)を手渡してこいってことなんて。
(賂)
長澤 まあ,建設部長っていう名前がないってことだけ,今度はいいんですけどね。本当にいいんですけどもね(笑)。
(ウ) 被告岡田自身,同文書(甲22)自分の意向に従って作成したものであることを法廷で認めている(被告岡田:1頁)。
エ 同文書が条例に反して作成されたものであること
(ア) 公印規則違反
同文書(甲22)の印影は,安中市公印規則(甲、36)の別表第2の42番の印鑑である。同印鑑は「辞令又は市名をもってする文書」に使用され,総務部秘書行政課長が管理者とされている(同別表第1)。
同文書(甲22)は,辞令でも市名をもってする文書でもないため,公印規則上,42番の印鑑は使用対象とならない。
さらに,印鑑の管理者である秘書行政課長は,当時鳥越一成であったところ,同人はそもそも本件文書が発送されていたこと自体,平成19年7月2日に原告松本より指摘されるまで知らなかった。鳥越課長の作成した「フリーマーケットinあんなか代表松本立家氏からの寄附辞退の対応について」(丙10の1)には,
「松本氏への文書は見ていないので,どんな内容の文書か聞いてみる」(4個目の「◎」の段落1行目)
「先の文書を建設部長より見せてもらってからもう一度かけ直すことで通話を切る」(同段落最後から2行目)
と記載されている。管理者である鳥越課長の預かり知らぬ間に,その管理する印鑑が使用されていたのである。
(イ) 公園条例違反
被告岡田は,同文書について,「安中市公園条例第7条(勧告及び命令)市長は,公園管理上必要かおる時は,利用者に対し,利用方法及び営業手段について勧告及び命令を,発する事ができると明記している。松本立家氏は,(この文書を)怪文書扱いしているのである。どういう人間性なのか?」(第1準備書面:5頁,第3準備書面:4頁も同旨)などと主張する。
しかし,同文書は,条例上の勧告でも命令でもない。仮に被告岡田の主張するように同書面が勧告や命令であるならば,その文書作成者は市長でなければならず,市長以外の名義で勧告・命令を発している点で,条例に明らかに違反している。
このことは,長澤建設部長も明確に認めている。
(証人長澤:20頁)
原告ら訴訟代理人山下 この裁判で被告側は,特に岡田市長ですけれども,平成19年5月21日付けの真のボランティア活動でという文書と発送した根拠について,公園条例の条例上に基づく勧告命令だという主張をしているんですけれども,あなたも同様の御見解ですか。
長澤 勧告ですか,ちょっとそういう認識はありません。
(賂)
山下 この7条にのっとって文書を出すのなら,あなたの名義で出すのはおかしいですよね。
長澤 正にそうです,はい。
(ウ) 被告岡田の条例・規則等を遵守する態度の欠如
このように,被告岡田は,文書の名義人の了解も,印鑑の管理者の了解もなく,また,本来使用すべきでない印鑑を用いて,勝手に作成し原告らに発送していた。
被告らは,原告らがフリーマーケットを開催するにあたり,あたかも条例違反を犯し,市民の利益に反する活動を行っていたかのように主張していが,そのような事実はない。むしろ,この文書の作成・発送の経過一つ取ってみても端的に示されているとおり,条例に定められている手続に違反し,市民の利益を顧みずに独善的かつ杜撰な行為に出ていたのは,被告岡田のほうである。
このことは,長澤建設部長も法廷で明確に認めている。
(証人長澤:21頁)
原告ら訴訟代理人山下 今回,この裁判で,被告側安中市と岡田市長さんは原告らのフリーマーケットの活動に対して,条例や規則を守っていない,使用料の減免申請書も出していないし募金活動の許可も受けていないし,禁じられているのに転貸で又貸ししていると。そして市の側は,条例や規則にのっとってちゃんとやらなきゃいけないと,こういう主張を締り返してるんですが,先ほどの甲第22号証の1,あなたの名前が書かれている文書一つ取ってみても,公印規則や公園条例にのっとってきちんと処理されてるものじゃないですよね,そのことはあなたも認めますね。
長澤 はい,そこは認めます。
(3) 第31回フリーマーケットの開催
結局,第31回フリーマーケット自体は,予定通り開催された。
同フリーマーケットでは,参加予定のなかった岡田市長が急遽参加し,ステージで行われたオープュングセレモ二ーで,「安中のフリーマーケットにようこそおいで下さいました」「未来塾のこのような活動はすばらしい」という趣旨のスピーチを参加者,来場者らに対し行った(甲3:2枚目上から3枚目の写真,甲50:9頁)。
3 被告安中市の原告未来塾からの寄付金の受領拒否
第31回フリーマーケット終了後,例年通り,平成19年7月2日に,安中市役所において,原告未来塾のフリーマーケット内のバザーでの収益から被告安中市及び安中市社協への寄付金の受渡しが行われる予定となっていた。
ところが,同日午前9時ころ,突然被告安中市秘書課長より原告松本宛に,「寄付金の受取りはできない。理由は以前送った文言の通りである。公共の施設で2000円を徴収しているようなイベントの寄付は受けられない」旨の連絡が入った。
原告松本は被告岡田からの説明を求めたが,被告らより連絡はなく,予定されていた寄付は行われなかった(甲50:9頁,甲2の4,証人長澤:6頁,原告松本:6頁,被告岡田:5頁)。
4 第32回の公園使用許可申請の不受理
(1) 事実経過
平成19年8月,原告未来塾の■■■■・■■■■■は,平成19年10月28日に予定していた第32回のフリーマーケット開催のため,被告安中市(市長)に対し,公園使用許可申請を行うため,被告安中市建設部都市整備課に申請書(甲23)を持参した。ところが,被告安中市担当者は,「上から保留にしなさいと言われているので渡せない,保留したとしても結論がいつになるのかわからない」と述べ,申請書はその場で返却された(甲51:3頁,原告松本:7頁)。
(2) 被告らの主張に対する反論
被告らは,建設部都市整備課から「今回は上記問題点も含めフリーマーケットの運営上の疑問から,使用許可についてその場で回答できないので検討させてもらいたい」と説明した旨主張するが,そのような説明は一切存しなかった。また,上述したような,使用料減免や募金について申請書を必要とするとの被告らの立場の説明や,申請書の提出が促されることも一切なかった。そのような説明や督促があれば,原告らとしては当然提出していたのである(甲50:10頁,原告松本:7頁,25~27頁)。
むしろ,下記の通り,被告安中市職員は,申請書を持ち帰るよう■■に述べたのである。
(甲40:56頁)
■■■ (略)私は,じゃ,そのことの保留はいつわかるのか?って言ったら今係の者がいないのでわからないと言われましたね,と思っていたらそこに課長さんか誰か,課長さんかな,顔見りゃわかりますけども,来て,そこで聞いたら,今,今日の段階では,貸せないのでこれはお預かりするかお持ち帰り下さいと言われたもんだから,わたしは持ち帰りました。(略)
(証人長澤:6頁)
被告訴訟代理人渡辺 これは,許可はしなかったのね。
長澤 許可はしないというか,まだ話合いで整理がついていないと,そういうことなんで,8月だったですかね,取りあえず,こういう申請に来たけども持ち帰ってもらいましたという報告は,所管のほうから話は,一応口頭で聞いております。
渡辺 持ち帰ってもらった。
長澤 はい。
(3) 高橋議員が申請書を提出したことはない
被告岡田は,31回目のフリーマーケット開催までは高橋議員が申請書を持参して来て,今すぐ許可してくれと述べていた,などと主張するが(被告岡田第1準備書面16頁),高橋議員が申請書を持参して市役所に赴き提出したことは一度もなく,被告岡田の主張は全くの虚偽である(甲51:3頁)。
第6 平成19年9月10日の「意見交換会」の開催
1 総論
原告らは,上述した,①出店料の徴収を自粛して真のボランティア活動で,との趣旨不明な文書が突然届いたこと,②寄付金の受け取りも突然拒否されたこと,③会場の使用許可が下りなかったこと,の3点について,再三にわたって被告岡田との話し合いを求め,結果,同年9月10日午後5時から,安中市役所にて話し合いがもたれることとなった(甲24,原告松本:8頁)。
2 意見交換会の日程
(1) 被告らは,建設部長及び総務部長から6月当初より原告らに話し合いを求め,原告らが断って被告らの要請によりようやく9月10日に意見交換会が開かれた,などと主張するが(答弁書6頁),虚偽である。
再三にわたって話し合いを求めていたのは,原告側である(原告松本:8頁)。7月20日には,原告未来塾の■■■■・■■■■が,総務部長と話し合いの場を持つための協議を行っている。
被告らは,原告が「話し合いの日時の繰り上げさえ要望することなく」などとも主張するが(答弁書6頁),意見交換会は「9月7日か9月10日」に予定されたため,原告らは早い方の9月7日を要望した。しかし,最終的に被告らの意向により9月10日に決定したのである(甲50:10頁)。
(2) 被告岡田は,この訴訟において,原告らが9月10日当日に突然市役所を訪れたなどとも主張し(被告岡田第1準備書面20頁,22頁,39頁),法廷でもそのように証言したが(被告岡田:6頁),明らかに事実に反する。
長澤部長が被告岡田及び原告らの日程を調整したうえ,遅くとも平成19年8月20日の時点では,意見交換会の日程は9月10日と決定していたのである(甲24の1)。
(3) 意見交換会の日程が9月10日に決定した経緯に関して,長澤建設部長は下記のとおり証言している。長澤建設部長の証言からも,原告らの要求故に同日程になったのでもなく,また,9月10日に突然原告らがおしかけてきたのでもなかったことは明白である。
(証人長澤:8頁)
被告安中市訴訟代理人渡辺 それが9月10日になってしまったのは,どういう理由だったんですか。
長澤 松本さんのほうの関係があるんで,私と総務部長のほうで窓口で調整をしてました。たまたまその当年は夏に選挙があるんで,選挙でも済んでから落ち着いてからしましょうということでやってまして,それが,選挙が終わってお盆になっちやってそれでまた先延ばしになって,このありますように9月10日なったんですね。
(証人長澤:21頁)
原告ら訴訟代理人山下 先ほど,主尋問の中で,平成19年9月10日の意見交換会の日程調整をあなたが窓口になって行っていたと,このように証言しましたね。
長澤 はい,私と総務部長ですね。
山下 日程調整をするときは,松本さんの予定を聞くのはもちろんのこと,市長の日程も当然に把握されますよね。
長澤 はい。
山下 9月10日に行うということは,いつごろ決まりましたか。(略)8月下旬ごろではありませんでしたか。
長澤 8月のお盆過ぎですね。
山下 この裁判で,岡田さんは準備書面の中で,当日午後4時50分に未来塾が市役所に突然やってきたと。岡田さんはあなたに対してなぜ今日なのですかと聞きましたが,建設部長,あなたは未来塾の申入れですと言うだけであったのであると,まるで事前のアポイントなしに突然その日の4時50分に市役所にやってきたというような主張をされているんですけれども,当日に突然やってきたわけじゃないですよね。
長澤 はい,そうです。
3 意見交換会の概要・被告岡田の「ボランティア」についての発言
(1) 実際に話し合いが始まったのは午後6時であり,午後8時頃まで行われた。被告安中市側は,被告岡田の外,総務部長,建設部長,及び教育部長が出席し,原告未来塾側は,原告松本の外,■■■■の■■■■及び■■■■の■■■が出席した(甲50:12頁,証人長澤7頁)。
(2) 「意見交換会」は,フリーマーケットの出店者からの参加費の徴収に関するものが主であった。その中で,被告岡田は,「ボランティアならば無償でやるべき(参加費を徴収すべきでない)との市民の指摘がある」,との主張を繰り返し,話は全く平行線のままであった(甲50:16頁,甲51:4頁)。
(3) また,被告岡田は,意見交換会開始後約30分経過した頃,「参加費を徴収しているのだから未来塾のフリーマーケットは露天商組合と同じではないかという指摘がある」などと発言した。原告らが,何度かフリーマーケット会場に来場している被告岡田自身が露天商と感じたのかと問うても,被告岡田は,「そういうことを岡田が感じたかということではなく,市民の皆さんの声,指摘に対して行数が適切に答えるために伺っている」などと議論をはぐらかせ続けた(甲51:5頁)。
(4) さらに,平成19年5月21日付け文言(甲22号証の1)に「真のボランティアで」との趣旨の記載がなされていたことから,原告らが,「真ののボランティア」についての被告岡田の認識を問うても,被告岡田は,「こちらから伺っているところです」「伺っていることのみに答えて,それは後にしていただきたいjなどと,議論をはぐらかせ続けた(甲52:4頁)。
4 意見交換会の開始の遅れ
被告らは当初,意見交換会の開始の遅れの原因について,原告らが「フリーマーケットの運営について」と題する文書(甲22の1)の件を明確に議題にするようにと「1時間20分余りにわたって自己主張を展開し続けた」と述べたためと主張していた(被告ら答弁書4頁)。被告らは,「談話」の掲載・発行にとどまらず,本訴訟においてもなお,原告らが,被告らとの話し合いに際して不誠実な態度を示す者・団体であるかのように主張したのである。
原告らが「フリーマーケットの運営について」(甲22)に議題を追加するよう被告らに求めていた事実はあるが,それはすでに8月から長澤建設部長に対して求めていたことである。また,意見交換会の開始が1時間(1時間30分ではない)遅れたのは,当日,県議会による現地視察や,議会での決算委員会などが行われたためであって,意見交換会開始直前,まず被告岡田が「どうも待たせてすいません」と発言し,その後,長澤建設部長が意見交換会開始の遅れを詫びた際に,雨の中現地視察に行っていた旨を説明した。原告らもこれに対し,「どうもどうも」「ご苦労様です」と労っている(甲50:13頁)。
原告が準備書面においてそのように反論するや,被告岡田は,意見交換会の開始の遅れは台風の対応があったためである旨主張を修正した(被告岡田第1準備書面8頁以降及び22頁以降)。
このような主張の変遷自体からも,被告らがいかに一貫性を欠き,悪意に満ちた虚偽の主張を行っているかは明白である。
5 開始後約15分経過時点
この「意見交換会」開始後,被告岡田は,原告松本と会話をしているにもかかわらず,被告岡田から見て左に座っている原告松本の方を全く向かず,右に座っている堀越総務部長・佐藤教育部長の方や,正面に座っている長澤建設部長の方を向いて,話を進めていた。
そのため,開始後約15分か経過した頃,原告松本が,「市長さん,お話をしているのは私ですから,できれば私のほうに向いていただけると,お答えもしやすいんですが」と指摘する場面もあった。
この点に関しては後に詳述する。
第7 第32回のフリーマーケット開催の断念
1 意見交換会の後も,被告安中市(市長)からは会場の使用許可が出されなかったため,同月12日,原告らは第32回のフリーマーケットの開催を断念し,フリーマーケット関係者に連絡した(甲2の2,甲50:22頁)。
2 その後の同月14日午前9時ころ,被告安中市の建設部長より原告松本に開催許可の電話があった(甲50:22頁,原告松本:15頁)。
原告らの開催しているフリーマーケットは,その規模の大きさから準備に約3ケ月を要する(甲25, 原告松本:15頁,22~24頁)。原告らは限界まで被告安中市からの回答を待ったうえ,開催の断念を決定し関係者に連絡をしたのであり,被告安中市からの回答は明らかに遅きに失していた。
第8 「おしらせ版あんなか」41号への本件記事の掲載と配布
1 本件記事の掲載
(1) 被告安中市は,月に2回,「おしらせ版あんなか」を,総務部秘書行政課が編集し,「安中市役所」が発行する形で,安中市内の全戸に配布している。
(2) 被告岡田は,この「おしらせ版あんなか」41号(平成19年12月21日付)3頁に,「談話」と題する下記の記事(以下「本件記事」という)を掲載した(甲1)。
①「1.話し合い開催日:平成19年9月10日
2.出席者:安中市:4名 未来塾3名
3.安中市から回答した日:平成19年9月13日午前8時30分誠意を待って許可する旨回答した
4. フリーマーケット開催予定日:平成19年10月28日・・・市の回答から44日間もある」
②「市 :すみませんが確認をさせていただきたいのですが・・・」
未来塾:目を見て話をしろ(冒頭から怒鳴る)」
市 :静かに話をしましよう。」
③「市 :募金箱を持って回るのはおかしい。市はそういうことを知っているのか・・・。という指摘もあります。本当なのか伺います。
未来塾:阪神大震災が発生した時,募金箱を持って回り,募金活動をしたことが1回あるだけです。
市 :阪神大震災は12年前ですよね。12年前のことを市民が指摘するのですかね・・・。
未来塾:阪神大震災のときだけです。その時以外は一切募金活動はしていません。
市 :そうですか。未来塾の皆さんは昨年ここ(市長室)へ何回(※)も来たんですから,フリーマーケットの内容の説明をされて市は聞いていれば市民から苦情や指摘があった時に即座に金額等は市は承知していますと答えられたんですよね。市は市民に説明責任があるのです。」
④「市 :スポーツセンターの駐車場使用について確認させてください。西の駐車場はスポーツセンター利用者の駐車場に。東駐車場はフリーマーケットに。はっきりスミワケを決めたことはご承知ですか。
未来塾:知っています。
市 :スポーツセンター中央駐車場までフリーマーケットの駐車場にするとは市は何を考えて提供しているのだ・・・と市民から抗議や苦情がきて困っているのですよ。」
⑤「※市役所北側のサワイ産業が閉鎖するので,市が跡地を買収するよう3回来庁しています。(1回目,2回目は未来塾から1人で,3回目はサワイ産業社長と2人で来庁)」
⑥「○フリーマーケット出店者に配布された資料(平成19年6月3日開催分)から抜粋」と称して,「活動のための寄付金を集めています」
⑦「安中市は人と争うことを避け,人に責められて人を責めず,罵られて罵らず,市行政は寛容の精神を持つ人を育てることを銘としています。」
2 配布
本件記事を含む「おしらせ版あんなか」41号は,被告安中市によって,安中市内の約2万3000戸の全戸に配布された。
3 原告らに事前の確認のなかったこと
被告安中市はこれまでも,市の広報紙にフリーマーケットの記事を掲載してきたが(甲53),それがたとえ数行の記事であっても,その内容に誤りがないかどうかについて,事前に原告らに確認があった(甲50:23頁,原告松本:17頁)。
しかしながら,本件「談話」について,原告らは,かような記事の掲載を事前に被告らから知らされておらず,被告らから当該記事内容の正確性についての事前確認はなかった(甲50:23頁,原告松本:17頁)。
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【ひらく会情報部・最終ラウンドその2-2につづく】