■タゴ51億円事件で群馬県警刑事二課の総力を挙げた捜査にもかかわらず、平成7年6月初めにタゴが警察に出頭する直前に、富岡市在住の元金融マンで古物商の免許を持っていた親友に、絵画等6点を預けていた件で、昨年5月、安中市土地開発公社の岡田義弘理事長は、タゴの妻から、「夫の親友から返還されたので公社の損害に充当してほしい。しかし本物かどうかは定かでない」とタゴお宝絵画等6点の寄贈の申し入れを受理しました。
そのため当会は、いったいどのような絵画等6点をタゴが隠していたのか確認すべく、情報開示請求を安中市の岡田義弘市長に行ったところ、肝心の図柄が開示されなかった為、異議申立てをしましたが、棄却されたので、前橋地裁に提訴したところ、これも棄却された為、現在、東京高裁で開示を求めて控訴中です。
↑安中市長が正当性を主張するために引用した、市長が理事長を併任することを定めた定款を持つ川越市土地開発公社のある川越市役所の全景。↑
■11月8日に東京高裁で行われた第1回口頭弁論で、早くも結審し、12月20日に判決予定ですが、裁判長が安中市に対して、①安中市が安中市土地開発公社に対して積極的に絵柄情報の開示を求めないのはなぜか、②公社が開示を拒否する理由が曖昧なのはどうしてか、の2点についてもっと説明が必要だと訴訟指揮をしました。
その結果、安中市の岡田市長は、11月29日付の準備書面(2)で、上記の2点に加えて、絵柄情報を開示することに伴う公社の不利益について、説明してきました。
ところが、それをみると、安中市長が安中市土地開発公社の理事長を兼務、或いは併任することは、他の自治体の土地開発公社の例からも、決して異常ではない、という主張を展開しているので驚かされました。まったく安中市は、あの16年前に安中市を揺るがしたタゴ51億円事件について反省をしていないからです。
■安中市では、安中市土地開発公社を安中市長が兼務していることの正当性を示そうと、ネットで調べたとして、川越市のホームページから、川越市土地開発公社の定款を引っ張り出してきて、そこに、第8条第2項に「理事長は、川越市長の職にある者をもってあてる」とあることから、それを乙3号証として、「他市町村でも安中市同様に市長が理事長職を兼ねている自治体もある」と主張しました。
そこで、先日、実際に川越市土地開発公社を訪問してきました。また、土地開発公社の関係を管轄する国の総務省地域力創造グループ地域振興室を訪れて、首長が土地開発公社の理事長を兼ねている割合と、その問題点の有無について見解を聴取してきました。さらに、群馬県市町村課で、群馬県内の土地開発公社の理事長を併任する割合について調べてもらいました。
■最初に川越市土地開発公社を訪れました。高崎から新幹線で25分で大宮駅に着き、そこから川越線に乗り換えてJR川越駅まで20分ほどで着きます。
↑JR川越駅。↑
↑JR川越駅前の様子。手前のバスターミナルから川越市役所行きのバスが出る。↑
川越市役所はJR川越駅からかなり距離があります。歩くと小一時間かかります。さっそく市役所1階の受付に聞いたところ、都市計画課は5階にあるとの事なので、エレベータで5階にあがりました。5階の南側にある都市計画課を訪れて、川越市土地開発公社のことを尋ねたところ、担当者は「こちらでは土地開発公社を管轄しているのは4階の管財課というところになります」と言いました。そこで、4階に移動して、やはり南側に面した管財課をたずねました。
「安中市から来た者ですが、こちらの土地開発公社の組織的なところなど2、3、質問したいのですが」とお願いしたところ、窓口の係員は当会の名刺を受取り、「それでは担当者をお呼びします」と奥でなにやら実務担当者らと話しをしたあと、「どうぞこちらへ」と案内されました。テーブルに着き、名刺を頂戴した後、当会からおもむろに話を切り出しました。
初めに、平成7年5月18日に安中市土地開発公社の事務局内で発覚した巨額詐欺横領事件のタゴ51億円事件のあらましを同公社事務局の担当者らに説明しました。
「安中市から来た者ですが、安中市の土地開発公社のことはお聞き及びか知りませんが、16年前に51億円という巨額横領事件がありました。元職員が、群馬銀行に対して、市長印と理事長印を勝手に押印して借入書類等を作成し、新幹線安中榛名駅周辺の駐車場などの開発業務をでっち上げて、多額のカネを銀行から騙し取った前代未聞の事件です」と説明を始めたところ、興味深そうにメモをとっていました。
「当時は安中市の市長が公社の理事長をやっていて、副理事長が助役。あと常務理事を財務部長がやっていました。それをナアナアでやっていたため、元職員の不正を見抜けませんでした。市長印を押印する秘書課の責任者も、元職員が市長のゴルフ友達ということで偽造書類にメクラ判を押していました。しかも元職員は15年間同一職場に配置されていました。安中市では土地開発公社は昭和54年に設立されましたが、その後平成7年に不正が発覚するまで15年間ずっと同一職場に配置して、公社の金庫番をさせていました。そのため、市役所の職員やOBやら市会議員らが大勢その周りにたかっていました。それにもかかわらず、この史上空前の巨額横領事件が、元職員の単独犯行ということにされてしまい、本人は14年の実刑をくらって千葉刑務所に服役し、一昨年の9月に出てきたことになっています。そしたら、昨年5月、突然、元職員の妻から公社に対して、『夫が絵画等を6点友達に預けていたのを友達から返してもらったので土地開発公社の損害賠償に充当してほしい』と寄贈を申し入れてきました。当時、当方が警察に聞いたところよれば、元職員が12億円使って購入したと自称する延べ800数十点の骨董品や古美術品、絵画とか版画とか、伊万里焼などが元職員が建てた骨董倉庫の中や自宅の居間、そして妻が経営していた喫茶店の陳列棚などから見つかりましたが、その中にその6点が入っていませんでした。一説によると6点のなかにはかなり高いのが含まれているといわれています。その6点の作者や作品名は分かっています。江戸末期から昭和にかけての作品。そのため、当方から絵柄を見せてほしいと言って、安中市に情報公開請求をしたところ、安中市から「みせられない」ということで、開示を拒否されたのです。異議申立てをしても拒否されたので、しかたなく裁判に踏み切ったのですが、前橋地裁で敗訴させられました。現在東京高裁で控訴審をやっています。そのなかで安中市から出てきた準備書面で、川越市の土地開発公社は、いまだに市長が理事長だとして、川越市のホームページからダウンロードして印刷した公社定款を証拠として出してきたのです」
すると、川越市土地開発公社事務局を兼務している管財課の職員らは、「うちのことが出たんですか」と驚いていました。そして、「実態としては市長になっている場合もあるだろうし、副市長の場合もあるし、また違う方の場合もあるだろうし、それぞれの自治体でことなりますね」と言いました。
■そこで、当会から、安中市土地開発公社についてさらに詳しく説明しました。
「この準備書面で安中市の言い分は、副市長を安中市が設置していないので、安中市長がやむをえずに就任していると主張しています。ところが実際には、安中市長は、副市長も助役も置こうとせず、市の公用車も廃止しました。その代わりに、自分の自家用車を自分で運転して、公務時間内であろうとなかろうと、市内あちこちの法人や個人を訪れて勝手に自己PRをしています。それはともなく、お聞きしたいのは、もちろん川越市では安中市のような不祥事は起きていないと思いますが、当会がずっと問題だと思っていたのは、市長と公社の理事長を兼務した場合、いろいろと癒着が生じてくることです。安中市の場合は元職員を15年も同一職場に配置していたうえに、元職員と市長兼理事長がゴルフ友達だったことです。元職員は土地開発公社の主査でしたが、ゴルフはシングルプレーヤーで鳴らしていたため、しょっちゅう、勤務時間であってもなくても、市長に誘われて、或いは市長を誘って、安中市内の太平洋ゴルフ場などでプレーしていました。そのため、元職員は「おやじ」という言い方で市長を呼んだりして非常に緊密でした。当会は、公社のズサンな対応を正すために訴訟を何度も提起しましたが、その都度、裁判所は、土地開発公社というのは特別法人扱いであり、市とは別組織だという安中市の主張だけを斟酌し、しかもこれは最高裁の判例であると主張したため、これまでずっと当会は裁判で敗訴してきました。裁判所は、『土地開発公社内でおこった横領による損害は、市民には及ばないし、公社は別法人だから、市民は安中市は訴えてもいいが、土地開発公社を訴える権利がない』と言って、いままでずっと棄却され続けて来ました。それはともかく、お聞きしたいのは、市長が理事長という定款を掲げるユニークなところは他に見当たらないが、この定款に、ここまでうたってある経緯というのは何かあるのでしょうか」
すると川越市土地開発公社事務局を兼務する担当者らは「うーん」と首をひねりました。そして「うちは昭和49年に公社は設立されていますから、おそらくその時に定款も作られたのだと思います。しかも条例もその当時作成されたので、それ以降、多分改正されていないと思います。変わっていないことから。当時の定款ではこれが一般的だったのかもしれません。表現方法が他の自治体の土地開発公社定款では違うのかもしれませんけど」と若手職員らは、当時の経緯を知らない様子でした。
■そこで、当会から「もしご存知でしたら、埼玉県内でこのように川越市土地開発公社のように定款にこのように明文化してある自治体は、他にご存知でしょうか」と質問したところ、「ちょっと分かりませんが、いわゆるあて職という形で理事長や副理事長を任命しているところが多いのではないかと思います。とはいっても、そんなに無茶苦茶多いというわけではないと思います」とコメントがありました。
当会は「これから総務省にも行って、全国的な公社の理事長と首長の兼務の趨勢は聞くつもりですが、安中市の場合、公社を舞台にとんでもない不祥事が起きたわけで、しかも当時の公社の理事や監事をやっていたことがあり、元職員とも親密だったという人物が現在安中市長になっていて、状況は16年前の、もとの木阿弥状態になりつつあります。だからこんな内容の準備書面を書いてくる始末なのですがが、川越市土地開発公社の場合には、理事会も定期的にきちんとやっていると思います。ところで、現在の公社の構成員としては、当て食ということで理事長は市長が併任しているが、あとはどのような構成なのですか」と質問しました。
すると、川越市土地開発公社事務局の担当職員の皆さんは「副理事長が1人で副市長。常務理事はおらず、あとは理事だけです。市長も副市長も理事だから全部で11人。あと監事が2人います」と答えてくれました。当会から「では、この辺の経緯は当時からこのままだということなのですね」とさらに念を押すと、「すいません。この設立当時やそれ以前のことについては、余り詳しくないので。たぶん改訂していないので、たぶん当時のままだと思います」とのことでした。
■次に当会は、土地開発公社の保有土地の塩漬け状態について、質問をぶつけてみました。「総務省が発表している公社の塩漬け土地の関係を見ると、結構、川越市も多いようですね」と聞いてみたところ、川越市の職員らは、「確かに少なくはありません。ただし、塩漬けの定義が判然としませんが、長期に土地を保管と言う意味で言えば、そのとおりです。でも土地保有に目的がないわけではないので、きちんと目的があって保有土地を持っているということです。どうしてもその時々の都合で、市の方で公社が購入した土地を受け取る時期が遅くなっているものもあります。その意味で5年を超えて持っている保有土地があり、いわゆるゼロではありません」と教えてくれました。
当会はさらに、公社の存在意義について質問してみました。
「長期保有土地を早期に減らすとか、総務省がいろいろ通達を出しているようです。安中市のとなりの高崎市などは行動計画を立てて、近い将来、土地開発公社を解散するというビジョンを描いているようです。国からいろいろ指導を受けながら公社の清算を図る自治体も増えていると思います。ところが、安中市の場合は、まったくそのような機運がみられません。なぜかというと、51億円あまりの横領事件が発生し、この横領のうち、自転車操業で回した分を除くと、およそ39億円が実損失となります。群馬銀行が返還請求訴訟の裁判を起こして、このうち6億円が元職員が群馬銀行に預けた裏金預金や、骨董品をオークションで売り飛ばした得た金額などを充当して公社の損害に充当しまたが、まだ33億円が残ってしまいました。裁判は3年間続きましたが、このうち9億円を群銀が棒引きして、残りの24.5億円を103年間で返すという長期ローンが和解金として裁判所から銀行と安中市に提示されました」
これについて、川越市の職員らの感想は「どうにもならないからそうしたのでしょう」とのことでした。
↑観光客でにぎわう土蔵の並ぶ通りの風景。↑
■当会は、安中市土地開発公社の異常性をさらに説明しました。
「安中市と土地開発公社を相手取って訴訟を起こした群馬銀行にいわせると、『全部とってもいいが、そうすると安中市がつぶれるからこういう和解方法を採った』などと豪語しましたが、和解案として提示された返済は103年間掛けて返済するという、いわゆる103年ローン方式でした。そのため、10年ごとに更改しなければなりません。昨年最初の10年目の更改をして、今年は2順目の2年目で来る12月25日に、群馬銀行への12回目の支払いが迫っています。初回は公社から4億円をまとめて群銀に払いました。その後は、20.5億円の残高に対して、毎年2000万円ずつ支払い続けるというので、計算上は103年かかることになります。最後の年は1000万円になる。要するに安中市の場合、土地開発公社は、群銀への和解金の支払機関になりさがってしまいました。だから、総務省がいくら解散するようにと指導しても、解散できない状況に陥っています。かつて公社にいた元職員も、土地ころがしで、安中市の土地情報を一手に握っていたため、たとえば、群馬県の住宅開発で団地を造成したら、その山土を造園業者などに園芸用の表土として高く売り飛ばし、裏金を作って政治家やOBにばら撒いたというのが市民の見方で、そういう市民情報も全部捜査関係者に提供しましたが、結局元職員は単独犯とされ、14年の実刑を受けました。実際には5年程度で仮出所になったという話もあります。そういうことで、公社の理事長を市長が兼ねていると、周囲が遠慮して不正が発覚しにくくなるという弊害があります。だから、市長が公社理事長を兼ねるのは問題だと思っているのですが、なぜか安中市はその状態を擁護する為に、このような証拠を出してきました」
すると川越市の職員らは「たまたま川越市がこうなっているから、例に出されちゃったようですね。市長や首長さんが(公社の)理事長さんをやっている自治体も、実態としてはうちと同じわけだ。明文化してあるのはうちくらいかもしれませんが。ただ一例になっているだけではないか、ということしかちょっとわかりません」
当会は更に続けて安中市の公社の実態と巨額横領事件の背景を説明しました。
「民間だと、民間でも子会社の会社を兼務することはあるかもしれませんが、不祥事件さえ起きなければ良いのですが、一旦不祥事が起きると“コンプライアンス上問題があるのではないか”と追及されます。安中市が言うには“完全な別法人だから”と。独立採算とまでいわないが、きちんと方針を立てて運営しているというだけです。だからそこに、元犯人の奥さんが、もう元職員の夫と藤岡市で同居していますが、その友人というのが事件当時、安中市役所の前にある地元金融機関支店にいて、その金融マンが古物商の免許を持っていて、それが元職員のかわりに、栃木県の足利市にある骨董品とか、高崎とか、館林や、前橋にある骨董商から古美術や骨董品を買いまくりました。元職員は12億円くらい買ったといっているが、警察の捜査では、その半分しか把握されていません。残りの数億円が行方不明とされているのです。今回たまたま絵画等6点が公社に返還されたということですが、これは明らかに警察の手入れの直前に、元職員に代わり買い付けを一手に引き受けていた古物商の免許を持つ金融マンと、元職員が相談して、一番目ぼしいやつを選んで、その金融マンの自宅に保管していた可能性があります。市民として警察には、この事件について入手したあらゆる情報を提供し、共犯が沢山いるようだと伝えていましたが、結局警察の捜査担当者からは、“元職員の単独事件だった”と最後に言われました。今回の絵画等6点は1点当たり1億円もするなどという巷の噂もありますが、17年前の800数十点のオークションでは、中島誠之助が主催する笹塚会で大量の骨董品を一度に捌いたため、単価が下がって、安く買い叩かれたようです。また、横山大観作と称した偽モノもかなり混じっていたといわれています。当時はバブルもはじけたため、骨董品の値段が安くなったという見方もあります。この前代未聞の巨額事件では、捜査の過程でつじつまが合わないことはいっぱいあったようで、担当した警察官らは、関係者のいうことはうそだらけだったと言っていました。その挙句が、警察が調べた結果なんと14億数千万円が使途不明金として残ったことでした」
こうした事件の背景を聞いて、川越市の担当者らは、驚きの余り目を見開いていました。とくに、市長兼公社理事長と、実務担当の職員との癒着については「癒着などありえません。(一介の職員が市長に)会うのもはばかれる雰囲気です。絶対ありえません」と力強く否定しました。さらに「うちはちゃんと理事会が機能しているし、理事は市長と副市長を除く9名が全員市議会議員から構成されているので、いろいろな会派の人が入っているので互いに内部牽制ができています」とはっきりと述べました。
理事全員が議員などというのは、安中市ではおよそ想像も付かないことです。もし、安中市土地開発公社の理事会で、理事が全部市会議員だったら、内部の不正行為は外部に漏れなくなり、たちまち第二のタゴ事件が発生しかねないし、発生しても誰も気付かないので、そのうちに取り返しがつかない状況になると思われます。安中市土地開発公社の場合は、理事全員が市役所の各部署の部長クラスで構成されています。これまた、安中市の場合は市長のイエスマンなので、理事全員が議員の場合よりさらに始末が負えません。安中市の場合はどっちにしても、市民のなかから理事を入れない限り、公社が利権の道具として使われる体質にあるため、早急に公社を解体すべきなのです。
当会は最後に裁判の現状について説明しました。
「この判決は12月20日予定ですが、11月8日に東京高裁の第1回口頭弁論でこちらが出した準備書面、むこうが出した準備書面で裁判をやりました。その時、裁判長は絵の作者も作品名も分かっているのになぜ積極的に絵柄を求めようとしないのかと、この点についてもう少し聞かせてほしいと安中市に命じました。また、絵を市民に開示することで公社にどんな不利益があるのか、ということ。この2点を説明するようにという指示が安中市に出されました。たぶんこの裁判の判決は、新聞にもなにも載らないと思いますが、こういう公社を抱えている自治体もあるということを記憶にとどめておいて頂ければ幸いです」
すると、川越市の担当者らは、「これは市民の財産を奪ったのも同然ですから犯罪ですよね。これはだから、個人が、あるいは元職員が悪いということにとどまらず、組織的に市長も含めて幹部も責任を取るべきだと思います。これがもし本当であったとしたらですけどね」と感想を述べてくれました。やはり、タゴ51億円事件のような異常な犯罪が自治体で起きうること事態、想定外のようです。無理もありません。
↑小江戸川越を象徴付ける火の見やぐらのある通りの風景。↑
■当会は次のように総括をしました。
「事件発覚直後には、それでも、市役所からの内部告発もありましたし、いろいろな関係者からいろいろな情報が入りました。それらを振り返ってみると、この巨額横領事件は、恐るべき事件でした。警察は我々市民団体の動きを注視していて、よく当会にやって来た専任の刑事には、できる限りの情報提供をしました。事件発覚後、2年ほど経過してから、その刑事に会ったとき、いろいろ話をしました。“市民から情報をあれほど提供したのだから、その見返りを捜査結果を聞かせてほしい”とお願いしたところ、“それをやったら、こうなる”とクビをきるまねをされました。“木の幹だけを切るのが精一杯で、木の枝はまで切る時間がなかった”という言い方もされていました。一方、元職員のほうは、事件発覚直後に奥さんが県内でも有名な警察に顔のきく高崎市内の弁護士のところに駆け込みました。そのことひとつをみても、この事件の奥深さがわかります。群馬県という保守的な土地の関係で、いろいろな分野の人物が絡んでいる事件です。だから裁判を5回もやって最高裁まで争いましたが、全て敗訴しました。犯罪所得に対して課税を怠ったこと、団地造成後の土地の販売で購入者の名義を語り、隣接地もその人にしていたこと、そのため、固定資産税の課税台帳も改ざんしていたこと。通常は一般市民が土地登記手続きをする場合には契約書やらいろいろ書類を出さなければなりませんが、公社がやるばあいには、嘱託登記といって、非常に手続が簡単に行えることを悪用して、土地ころがしはやりたい放題だったのです」
すると、川越市の担当者は「嘱託登記はうちでもよくやっています。それにしても、すごいですね。うちではそんなこと、絶対やれないです。相互監視が厳しいですから。うちでは全く考えられないことです」と、驚いていました。
↑川越市役所前の植え込みに立つ太田道灌の銅像。江戸城構築で名高いが川越城の建造も手がけたため、ここにも銅像がある。↑
■そこで当会から、元職員を自由にのさばらせていた安中市役所の様子を少し説明しました。
「安中市役所では、元職員が数十万円もするスーツを着て勤務したり、骨董品の鍋島や古伊万里の湯飲み茶碗を同僚や上司に見せびらかしたりして、役所の七不思議といわれていましたが、誰一人として、そのような異常な事情を追求する者は居ませんでした。又、元職員の上司として平成2年から経理に詳しいと自称する人物が異動してきましたが、不思議なことに自分では全く通帳をチェックすることもなく、そのため、その後も、横領額がどんどん膨らんだという経緯があります」
「安中市が公社の事業の為に支払った先の公社の口座から、元職員が、直接横領していたケースも3億円余りに達していました。しかし、市や公社がやとった弁護士は、これは横領事件ではなく、詐欺事件だと決め付けて、市民を目をくらませたのでした。群馬銀行も、元職員に盆暮れの付け届けをしたり、ゴルフ会員権の斡旋時に、群銀の子会社のクレジット会社を通じてローンを提供してやっていました。元職員は毎週1千万円単位で横領金を群銀から引き出していて、会員権など即金で支払えるほどカネをもっていたのに、さらに群銀はローンまで組んでやっていたのでした」
川越市の職員のかたがたは、このような話に熱心に耳を傾けてくださり、さかんに「すごいですね。不思議ですね」を連発していました。お二人とも、安中市のことは知っており、「結構、行ってみるといいところだなと思いますよ」と言ってくれました。
最後に当会から、「詳しい内容は、当会のブログに掲載されていますので、この後、昼休みの時間にでもよくチェックしておいてください。多忙中のところお時間をとっていただきありがとうございます。これから総務省に行きます。ではこれで」とお礼の言葉を差し上げつつ、財政課を退出しました。
↑川越市役所の玄関。↑
■再び川越線に乗り、大宮駅から埼京線で新宿まで出てから、地下鉄の丸の内線に乗り、霞ヶ関まで行きました。そして総務省の検問を通過して、エレベーターで4階の地域力創造グループ地域振興室を訪ねました。
↑総務省4階の案内図。中央に大きな吹き抜けスペースがある。↑
アポイント無しでしたが、応対していただいた女性の総務事務官は非常に丁寧に担当者に取り次いでくれました。入口脇のテーブルと椅子の在る狭いスペースでしたが、そこに案内され、お茶までだしていただきました。まもなく担当者の課長補佐の方が来ました。
簡単な挨拶と自己紹介の後、当会から用件を切り出しました。
「手短に話します。群馬県の安中市土地開発公社のことについて聞きたいことがあってきました。この公社では、平成7年5月18日に51億4千面円の横領事件が発生しました。当会はその真相究明をやってきた市民団体です。実行犯とされた元職員が詐欺罪と公文書偽造罪の複合罪で懲役14年の刑を終えて一昨年9月に出所しました。昨年4月になって、元職員の奥さんが、夫が警察に捕まる直前に古美術品を6点、親しい知り合いに預けておいていたところ、その知人から“これはお宅の主人のものだから返したい”と申し出があったそうです。それは絵画等6点ですが、それを奥さんのほうから安中市土地開発公社に対して、現在まだ19億円あまりの簿外財務というか、群馬銀行と和解した結果、毎年12月25日のクリスマスに2000万円ずつ支払って、まだ19億円余りありあと90年余りかかるという状況にありますが、元職員の夫人から“その損害賠償の足しにしてほしい”と申し入れがありました。“その絵画を公社に寄付するので、それを換価して、公社の損害金の弁済の足しにしてほしい”という申し入れがあったのです。当会はこの事件をずっと追及してきていますが、使途不明金が14億5千万円もあります。その絵画等6点も使途不明金に関係している可能性があります。とにかく情報公開でどんな絵柄の絵画等6点を返却しようとしているのか、安中市に開示請求しました。安中市は当然そのような情報を持っていなければならないはずだからです。連帯責任者として公社の和解金支払のバックアップをしている立場だからです。どんなものが絵画等6点なのか、奥さんが夫の知人からもらったときに“これは本物かどうかわからない”といわれたため、“真贋は分からないがとにかく返済して損害舞賞の足しにしてほしい”と申し入れたのでした。当会で情報開示を請求したところ、作者と作品名は公開してもらえましたが、結局、肝心の絵柄については開示されませんでした。そのため、異議申立てをしました。それでも安中市情報開示審査会は弁護士が会長をしていますが、その会長は“安中市が持っていないと主張するのであるから、公社がもっていても安中市はもっていない”のは理解できるとして、絵柄を見せたくでも不存在だから仕方がない、という答申を安中市にしたのでした。公社の理事長を市長が兼務して、理事長に対して市長が“市民からこういう請求があったので開示してほしい”と依頼の手紙を送ったところ、公社理事長は“それを開示すると公社の経営に重大な支障がある”として、同じ人が同じ人に対してやり取りしています。それは当事者の最高責任者がそう言っているならそれはしかたがありませんだ、作者も作品名も開示したのに、絵柄だけ開示しない、ということはなにか支障になるのか疑問であるというコメント付きでありながらも、当会の申し立てを棄却してしまいました。それで当会は前橋地裁に訴えましたが棄却され、現在東京高裁で11月8日に第1回口頭弁論があり、即日結審して12月20日に判決が出る予定です。裁判長は第1回口頭弁論で、安中市に対して、“市がなぜ公社に絵柄の開示を積極的に求めないのか”、“それが今までのやり取りでもよくわからない”として、“その絵柄を市民に開示することで公社が不利益をこうむると言っているがいったいどんな不利益を被るのか”“これについてもう少し詳しく聞きたい”と言いました。そして、裁判長は、“それは法廷では陳述しなくてよいが、12月20日までに判決を出すときに参考にしたいので、11月末までに陳述するように”と指示したのでした。当方に対して裁判長は、“それを見て何か言いたいことがあれば提出するように”と言ってきました。市のこれ(準備書面)をみるとばかばかしくて反論するのもあれですが、公社の理事長と市長が兼務していることについて、当時巨額横領事件の発生時にも、やはり市長が理事長を兼務していたことから、しかも、元職員がシングルプレーヤーだったことから、元職員と市長は仲が非常に良かったのです。“おい親父”と市長を呼ぶ間柄で、理事長印や市長印が偽造書類に暴印されて、巨額の金がだましとられました。そのため事件発覚後は、事件の反省からずっと市長と理事長は別々の人がやっていました。ところが安中市が5年前に隣接の町と合併した時に、市長選で、元公社の理事監事をやっていた人物が当選して、現在2期目です。当会がこの事件をずっと追及してきたことから、“何が何でも当会には絶対に見せたくない”という気持ちが根底にあると思います。しかし、安中市はあろうことか、市長と理事長が実際に兼務している例として、川越市の土地開発公社の定款をインターネットで検索し引っ張り出して「乙3号証」として当会に送りつけてきました。確かに第8条の第2項に“理事長は市長をもってあてる”と書いてあります。ところが群馬県のネットに掲載されている各自治体の定款には、もちろん安中市も含めて、こうは書いてありません。つまり、“理事は市長が任命するが理事長は理事の互選で選ぶ”と書いてあります。実はここへ来る前に川越市役所に立ちよって、どういう経緯でこういう条項になったのか、他の自治体ではそうなっていないのに、なぜかときいてきました。そしたら、昭和49年に公社を設立したが、おそらくその時、それ以前の前身だった組織の定款を参考に作ったのではないかということでした。普通は川越市の近辺でも副市長が理事長をやることが多いそうで、市長が理事長を兼務する場合、いわゆる組織が別だということを第3者に示すのに、問題はないか、と聞いたところ、“全然ありません”と言いました。安中市では事件当時も市長が理事長を兼務していたため、ノーチェックでとんでもない犯罪が起きてしまったが、川越市では、“いや、うちはクロスチェックが厳しいので、そのようなことは絶対に起こりえない。一職員が市長と親しく口をきくことはないし、そのようなコンプライアンスに違反することはない”と言っていました。そこでお聞きしたいのは、市長が兼務するのはこのご時世、民間ではコンプライアンス上、好ましくないと思います。一方、当会が公社の問題について裁判所に訴えた時には、最高裁の“公社は特別法人で市とは別法人だ”とする判例を楯に、みな敗訴になってしまいました。だから、51億円横領事件で公社が損害を受けても、市民には損害がない、したがって訴える利益がない、などとして敗訴させられました。市は訴えられるけど、市には損害がない。住民監査請求をしても訴えの資格がない、ということで全部敗訴しました。“市には損害がない”と言っても連帯責任があり、事務費として事業費の5%を払っています。一つお聞きしたいのは、実態として、市長が兼務している公社の割合が全国でどの程度あるのか、それと“市長が兼務していることについて、そのことは良くない”という趣旨の通達を出した経緯があるのかどうか、この2点をお聞きしておきたい。川越市役所できいたのは、外形的にはこのように“市長が兼務する”と定款に書いてありますが、実際の中の組織の運用面できちんとコンプライアンスは遵守されるので心配ない、と彼らは言っています。安中市の場合には、事件をおこしてからもなお、実質的に市長が公社の理事長を兼務しているのです。今の前任の市長は、理事長を別の人にしていましたが、今は昔に戻ってしまいました。そのため、“川越市長だってこうして兼務を定款に明示しているから直ちに問題にはならない”と反論してきました。もし総務省のほうで何か有益なデータベースがあれば大変参考になります」
これに対して総務省では「データはないと思いますが、その毎年公社のヒヤリングをやっております。ただ、うちは都道府県と政令都市しかしません。市町村の公社の監督権限は県が持っているということになります」と答えました。そして「数字としては把握はしていないが、その併任されているところは、時々見られるということは、感触としてはわかります。先ほどのように古い時代にできた公社については、わりとそういうところが残っていたりします。あとは、総務省からの公社に対する通知ということについては、その、民法上の“双方代理の禁止”という規定があり、要は契約の当事者に同じ人がなれないという場合があり、それに明らかに抵触するというわけではないが、問題となる可能性はある、と認識しています。ですから、“是正に努められたい”というようなものは(通達で)出しています」とコメントがありました。
当会では思わず「まあ当然ですよね」と相槌をうちました。すると、総務省の課長補佐は「ただ、それも明らかに違法かといえば直ちにそうともいえません。ただ、おっしゃったように、誤解を招くというか、そういうこともあるので、“事務の適正化”というなかで、できるだけ双方の併任という形の解消に進んでほしい、ということは言っています」と述べました。
■それを受けて当会から安中市の公社の体質について説明しました。
「わかりました。その2点ということに関連してですが、隣の高崎市は総務省の出している公社の解散に向けた指針にもとづき、もう先行取得の時代ではなく、そうでなくてもこういう年月の長い土地の保有が膨大な額になっているので、高崎市はそれらの観点から、公社はいらないということで総務所の示したガイドラインに沿って動き始めているとききます。群馬県については他にもそうした動きがある自治体があるようです。しかし安中市にはそういうことをする気概が全くありません。いわば、総務省の通達など無視しているといった状況にあります。なぜならあと91年間も巨額横領事件の和解金としての返済義務が公社と連帯保証人の安中市に残っているので、組織として存続させないと、群馬銀行から蒸し返されて市民が騒ぎ出すということで、単なる巨額横領事件の和解金支払の為の組織として温存していることは明らかです。もっとも、10年ごとに民法上の問題で、支払い義務について確認の為の“証”を更新しなければなりません。一般の場合、借金の返済義務は、何も督促しなければ3年間経過すると請求権が抹消してしまいますが、文書で取り決めると10年間有効となります。群馬銀行は、巨額横領事件のその後も相変わらず安中市の指定金融機関として地方債などで市から恩恵を受けていることから、いい加減に勘弁してくれと、議会などは群銀に求める声もありました。結局、今の市長がフライングで、さっさと早期に群馬銀行の頭取を訪れて、支払う姿勢を見せてしまったため、結局またあと10年間、安中しは元職員の残した負の遺産を償わせられることになったのです。このようなどうしようもない安中市土地開発公社はもとより、全国の土地開発公社の間には、総務省の通達に基づき精算整理をして解散する動きが加速しているという報道もあるようです。このまま公社を存続しようとすると、ますます、長期塩漬け土地を抱え、利率の高い借金が雪ダルマ式に益々膨れ上がるので、公社を存続して潤うのは金融機関だけなので、早く土地開発公社を整理するような動きがあると思います」
すると総務省の担当者は、「一概には在るとは言えません。そこはやはり、地域によって実情が違っていたりするからです。今後も事業をやって行くというところもあります。あるいは今おっしゃったように、土地の先行取得の役割を終えたということで、解散されるところもあります。必ずしも、総務省としては解散を推し進めているわけではありませんが、ただ長期保有土地問題については、この際、そこの債務を整理して、公社も整理して、解散していただけるような手続については、用意はしています」と述べました。
■当会は再び巨額横領事件を起こした我らが安中市の土地開発公社について鋭く批判しました。
「その点から言えば、川越市などは公社の運営に自信を持っている様子がうかがえましたが、安中市の場合にはコンプライアンスもへったくれもありません。安中市は巨額横領事件から16年経過しましたが、未だに自分たちの非を認めず、市民がこの事件について批判すると、言いたい放題反論してきます。当会のことについても“いろんなことをブログに書いているが、虚実が混じっており、けしからん”などとして、イメージダウンを図ろうとするのです。もし、今回の裁判で勝訴し、当会が、元職員が隠してきた絵画等6点が本物かどうか確定する為に、それを売買した古物商らに当ってみようと思います。」
すると、総務省の担当者は、「これにはまあ、事件が絡んでいるものなので、かなり、なんというか、イレギュラーな事案ではあると思われます。」と感想を吐露しました。そして「団体によっては、その団体の用地業務と統合されるところもあります。いろいろな動きがあるけれども、工夫して、そういう使い方をされることもありますが、本来、公社としての設立目的がなくなったのであれば、解散して頂くというのが筋かなと思います」
■終わりに当たり、当会からもう一度「公社の理事長職にある人物と、設立母体の首長が一体化している市町村の割合はどのくらいあるでしょうか?」と質問したところ、総務省の担当者は「具体的なパーセンテージは把握していません。ぜひ、群馬県のことなら群馬県市町村課で聞くとよいと思います。」とのことでした。
そして最後に当会から「もし総務省で近々、アンケート等で実態調査を行うのであれば、ネットで総務省のホームページを見ていますので、ぜひ総務省のほうでそういう提案を、あるいはどこからオその部署から提案が出たらそれは面白い事だからと一押していただけませんか」と要請しました。「当会のこの公社に関する裁判の12月20日の判決については、新聞やニュースでは報道されないと思いますが、安中市民として、やるべきことはやっておきたいと思います。なにしろ、ひ孫の代までツケが回らないようにしたいものですから。」そういい残して、総務省をあとにしました。
■最後に、群馬県庁の9階を訪れ、市町村課の担当係長と面談しました。その結果、群馬県内にある23の自治体の土地開発公社における首長と公社理事長職の併任の実態について聴取しました。
群馬県では、安中市の公社を含め14の公社が依然として併任状態にあるそうです。つまり、平成23年3月31日時点で、設立団体の長以外が理事長に就任している県内の土地開発公社としては、前橋市土地開発公社、高崎市土地開発公社、太田市土地開発公社、沼田市土地開発公社、川場村土地開発公社、東吾妻町土地開発公社、玉村町土地開発公社、みなかみ町土地開発公社、昭和村土地開発公社の9団体となっています。
一方、設立団体の長が理事長に就任している県内の公社としましては、明和町土地開発公社、伊勢崎市土地開発公社、桐生市土地開発公社、渋川市土地開発公社、館林市土地開発公社、富岡市土地開発公社、吉岡町土地開発公社、板倉町土地開発公社、安中市土地開発公社、藤岡市土地開発公社、中之条町土地開発公社、榛東村土地開発公社、西邑楽土地開発公社、甘楽郡土地開発公社の14団体となっています。
また、市町村課によると、総務省からは、双方代理の禁止の観点でできるだけ併任状態の解消を図るように指導されているということです。
なお、驚いたことに、担当の係長は、タゴ51億円事件が発覚した当時、県庁に入ったばかりで、たまたま地方課に所属しており、当時の事件のことは記憶に残っているとのことでした。そのため、現在でもなお、タゴ51億円事件の負の遺産を引きずっている安中市の公社の実態について、当会の説明にじっと耳を傾けていました。
■当会では、以上の関係先でのヒヤリング結果をもとに、控訴人として、さっそく東京高裁に準備書面(2)を提出する予定です。
【ひらく会事務局】
そのため当会は、いったいどのような絵画等6点をタゴが隠していたのか確認すべく、情報開示請求を安中市の岡田義弘市長に行ったところ、肝心の図柄が開示されなかった為、異議申立てをしましたが、棄却されたので、前橋地裁に提訴したところ、これも棄却された為、現在、東京高裁で開示を求めて控訴中です。
↑安中市長が正当性を主張するために引用した、市長が理事長を併任することを定めた定款を持つ川越市土地開発公社のある川越市役所の全景。↑
■11月8日に東京高裁で行われた第1回口頭弁論で、早くも結審し、12月20日に判決予定ですが、裁判長が安中市に対して、①安中市が安中市土地開発公社に対して積極的に絵柄情報の開示を求めないのはなぜか、②公社が開示を拒否する理由が曖昧なのはどうしてか、の2点についてもっと説明が必要だと訴訟指揮をしました。
その結果、安中市の岡田市長は、11月29日付の準備書面(2)で、上記の2点に加えて、絵柄情報を開示することに伴う公社の不利益について、説明してきました。
ところが、それをみると、安中市長が安中市土地開発公社の理事長を兼務、或いは併任することは、他の自治体の土地開発公社の例からも、決して異常ではない、という主張を展開しているので驚かされました。まったく安中市は、あの16年前に安中市を揺るがしたタゴ51億円事件について反省をしていないからです。
■安中市では、安中市土地開発公社を安中市長が兼務していることの正当性を示そうと、ネットで調べたとして、川越市のホームページから、川越市土地開発公社の定款を引っ張り出してきて、そこに、第8条第2項に「理事長は、川越市長の職にある者をもってあてる」とあることから、それを乙3号証として、「他市町村でも安中市同様に市長が理事長職を兼ねている自治体もある」と主張しました。
そこで、先日、実際に川越市土地開発公社を訪問してきました。また、土地開発公社の関係を管轄する国の総務省地域力創造グループ地域振興室を訪れて、首長が土地開発公社の理事長を兼ねている割合と、その問題点の有無について見解を聴取してきました。さらに、群馬県市町村課で、群馬県内の土地開発公社の理事長を併任する割合について調べてもらいました。
■最初に川越市土地開発公社を訪れました。高崎から新幹線で25分で大宮駅に着き、そこから川越線に乗り換えてJR川越駅まで20分ほどで着きます。
↑JR川越駅。↑
↑JR川越駅前の様子。手前のバスターミナルから川越市役所行きのバスが出る。↑
川越市役所はJR川越駅からかなり距離があります。歩くと小一時間かかります。さっそく市役所1階の受付に聞いたところ、都市計画課は5階にあるとの事なので、エレベータで5階にあがりました。5階の南側にある都市計画課を訪れて、川越市土地開発公社のことを尋ねたところ、担当者は「こちらでは土地開発公社を管轄しているのは4階の管財課というところになります」と言いました。そこで、4階に移動して、やはり南側に面した管財課をたずねました。
「安中市から来た者ですが、こちらの土地開発公社の組織的なところなど2、3、質問したいのですが」とお願いしたところ、窓口の係員は当会の名刺を受取り、「それでは担当者をお呼びします」と奥でなにやら実務担当者らと話しをしたあと、「どうぞこちらへ」と案内されました。テーブルに着き、名刺を頂戴した後、当会からおもむろに話を切り出しました。
初めに、平成7年5月18日に安中市土地開発公社の事務局内で発覚した巨額詐欺横領事件のタゴ51億円事件のあらましを同公社事務局の担当者らに説明しました。
「安中市から来た者ですが、安中市の土地開発公社のことはお聞き及びか知りませんが、16年前に51億円という巨額横領事件がありました。元職員が、群馬銀行に対して、市長印と理事長印を勝手に押印して借入書類等を作成し、新幹線安中榛名駅周辺の駐車場などの開発業務をでっち上げて、多額のカネを銀行から騙し取った前代未聞の事件です」と説明を始めたところ、興味深そうにメモをとっていました。
「当時は安中市の市長が公社の理事長をやっていて、副理事長が助役。あと常務理事を財務部長がやっていました。それをナアナアでやっていたため、元職員の不正を見抜けませんでした。市長印を押印する秘書課の責任者も、元職員が市長のゴルフ友達ということで偽造書類にメクラ判を押していました。しかも元職員は15年間同一職場に配置されていました。安中市では土地開発公社は昭和54年に設立されましたが、その後平成7年に不正が発覚するまで15年間ずっと同一職場に配置して、公社の金庫番をさせていました。そのため、市役所の職員やOBやら市会議員らが大勢その周りにたかっていました。それにもかかわらず、この史上空前の巨額横領事件が、元職員の単独犯行ということにされてしまい、本人は14年の実刑をくらって千葉刑務所に服役し、一昨年の9月に出てきたことになっています。そしたら、昨年5月、突然、元職員の妻から公社に対して、『夫が絵画等を6点友達に預けていたのを友達から返してもらったので土地開発公社の損害賠償に充当してほしい』と寄贈を申し入れてきました。当時、当方が警察に聞いたところよれば、元職員が12億円使って購入したと自称する延べ800数十点の骨董品や古美術品、絵画とか版画とか、伊万里焼などが元職員が建てた骨董倉庫の中や自宅の居間、そして妻が経営していた喫茶店の陳列棚などから見つかりましたが、その中にその6点が入っていませんでした。一説によると6点のなかにはかなり高いのが含まれているといわれています。その6点の作者や作品名は分かっています。江戸末期から昭和にかけての作品。そのため、当方から絵柄を見せてほしいと言って、安中市に情報公開請求をしたところ、安中市から「みせられない」ということで、開示を拒否されたのです。異議申立てをしても拒否されたので、しかたなく裁判に踏み切ったのですが、前橋地裁で敗訴させられました。現在東京高裁で控訴審をやっています。そのなかで安中市から出てきた準備書面で、川越市の土地開発公社は、いまだに市長が理事長だとして、川越市のホームページからダウンロードして印刷した公社定款を証拠として出してきたのです」
すると、川越市土地開発公社事務局を兼務している管財課の職員らは、「うちのことが出たんですか」と驚いていました。そして、「実態としては市長になっている場合もあるだろうし、副市長の場合もあるし、また違う方の場合もあるだろうし、それぞれの自治体でことなりますね」と言いました。
■そこで、当会から、安中市土地開発公社についてさらに詳しく説明しました。
「この準備書面で安中市の言い分は、副市長を安中市が設置していないので、安中市長がやむをえずに就任していると主張しています。ところが実際には、安中市長は、副市長も助役も置こうとせず、市の公用車も廃止しました。その代わりに、自分の自家用車を自分で運転して、公務時間内であろうとなかろうと、市内あちこちの法人や個人を訪れて勝手に自己PRをしています。それはともなく、お聞きしたいのは、もちろん川越市では安中市のような不祥事は起きていないと思いますが、当会がずっと問題だと思っていたのは、市長と公社の理事長を兼務した場合、いろいろと癒着が生じてくることです。安中市の場合は元職員を15年も同一職場に配置していたうえに、元職員と市長兼理事長がゴルフ友達だったことです。元職員は土地開発公社の主査でしたが、ゴルフはシングルプレーヤーで鳴らしていたため、しょっちゅう、勤務時間であってもなくても、市長に誘われて、或いは市長を誘って、安中市内の太平洋ゴルフ場などでプレーしていました。そのため、元職員は「おやじ」という言い方で市長を呼んだりして非常に緊密でした。当会は、公社のズサンな対応を正すために訴訟を何度も提起しましたが、その都度、裁判所は、土地開発公社というのは特別法人扱いであり、市とは別組織だという安中市の主張だけを斟酌し、しかもこれは最高裁の判例であると主張したため、これまでずっと当会は裁判で敗訴してきました。裁判所は、『土地開発公社内でおこった横領による損害は、市民には及ばないし、公社は別法人だから、市民は安中市は訴えてもいいが、土地開発公社を訴える権利がない』と言って、いままでずっと棄却され続けて来ました。それはともかく、お聞きしたいのは、市長が理事長という定款を掲げるユニークなところは他に見当たらないが、この定款に、ここまでうたってある経緯というのは何かあるのでしょうか」
すると川越市土地開発公社事務局を兼務する担当者らは「うーん」と首をひねりました。そして「うちは昭和49年に公社は設立されていますから、おそらくその時に定款も作られたのだと思います。しかも条例もその当時作成されたので、それ以降、多分改正されていないと思います。変わっていないことから。当時の定款ではこれが一般的だったのかもしれません。表現方法が他の自治体の土地開発公社定款では違うのかもしれませんけど」と若手職員らは、当時の経緯を知らない様子でした。
■そこで、当会から「もしご存知でしたら、埼玉県内でこのように川越市土地開発公社のように定款にこのように明文化してある自治体は、他にご存知でしょうか」と質問したところ、「ちょっと分かりませんが、いわゆるあて職という形で理事長や副理事長を任命しているところが多いのではないかと思います。とはいっても、そんなに無茶苦茶多いというわけではないと思います」とコメントがありました。
当会は「これから総務省にも行って、全国的な公社の理事長と首長の兼務の趨勢は聞くつもりですが、安中市の場合、公社を舞台にとんでもない不祥事が起きたわけで、しかも当時の公社の理事や監事をやっていたことがあり、元職員とも親密だったという人物が現在安中市長になっていて、状況は16年前の、もとの木阿弥状態になりつつあります。だからこんな内容の準備書面を書いてくる始末なのですがが、川越市土地開発公社の場合には、理事会も定期的にきちんとやっていると思います。ところで、現在の公社の構成員としては、当て食ということで理事長は市長が併任しているが、あとはどのような構成なのですか」と質問しました。
すると、川越市土地開発公社事務局の担当職員の皆さんは「副理事長が1人で副市長。常務理事はおらず、あとは理事だけです。市長も副市長も理事だから全部で11人。あと監事が2人います」と答えてくれました。当会から「では、この辺の経緯は当時からこのままだということなのですね」とさらに念を押すと、「すいません。この設立当時やそれ以前のことについては、余り詳しくないので。たぶん改訂していないので、たぶん当時のままだと思います」とのことでした。
■次に当会は、土地開発公社の保有土地の塩漬け状態について、質問をぶつけてみました。「総務省が発表している公社の塩漬け土地の関係を見ると、結構、川越市も多いようですね」と聞いてみたところ、川越市の職員らは、「確かに少なくはありません。ただし、塩漬けの定義が判然としませんが、長期に土地を保管と言う意味で言えば、そのとおりです。でも土地保有に目的がないわけではないので、きちんと目的があって保有土地を持っているということです。どうしてもその時々の都合で、市の方で公社が購入した土地を受け取る時期が遅くなっているものもあります。その意味で5年を超えて持っている保有土地があり、いわゆるゼロではありません」と教えてくれました。
当会はさらに、公社の存在意義について質問してみました。
「長期保有土地を早期に減らすとか、総務省がいろいろ通達を出しているようです。安中市のとなりの高崎市などは行動計画を立てて、近い将来、土地開発公社を解散するというビジョンを描いているようです。国からいろいろ指導を受けながら公社の清算を図る自治体も増えていると思います。ところが、安中市の場合は、まったくそのような機運がみられません。なぜかというと、51億円あまりの横領事件が発生し、この横領のうち、自転車操業で回した分を除くと、およそ39億円が実損失となります。群馬銀行が返還請求訴訟の裁判を起こして、このうち6億円が元職員が群馬銀行に預けた裏金預金や、骨董品をオークションで売り飛ばした得た金額などを充当して公社の損害に充当しまたが、まだ33億円が残ってしまいました。裁判は3年間続きましたが、このうち9億円を群銀が棒引きして、残りの24.5億円を103年間で返すという長期ローンが和解金として裁判所から銀行と安中市に提示されました」
これについて、川越市の職員らの感想は「どうにもならないからそうしたのでしょう」とのことでした。
↑観光客でにぎわう土蔵の並ぶ通りの風景。↑
■当会は、安中市土地開発公社の異常性をさらに説明しました。
「安中市と土地開発公社を相手取って訴訟を起こした群馬銀行にいわせると、『全部とってもいいが、そうすると安中市がつぶれるからこういう和解方法を採った』などと豪語しましたが、和解案として提示された返済は103年間掛けて返済するという、いわゆる103年ローン方式でした。そのため、10年ごとに更改しなければなりません。昨年最初の10年目の更改をして、今年は2順目の2年目で来る12月25日に、群馬銀行への12回目の支払いが迫っています。初回は公社から4億円をまとめて群銀に払いました。その後は、20.5億円の残高に対して、毎年2000万円ずつ支払い続けるというので、計算上は103年かかることになります。最後の年は1000万円になる。要するに安中市の場合、土地開発公社は、群銀への和解金の支払機関になりさがってしまいました。だから、総務省がいくら解散するようにと指導しても、解散できない状況に陥っています。かつて公社にいた元職員も、土地ころがしで、安中市の土地情報を一手に握っていたため、たとえば、群馬県の住宅開発で団地を造成したら、その山土を造園業者などに園芸用の表土として高く売り飛ばし、裏金を作って政治家やOBにばら撒いたというのが市民の見方で、そういう市民情報も全部捜査関係者に提供しましたが、結局元職員は単独犯とされ、14年の実刑を受けました。実際には5年程度で仮出所になったという話もあります。そういうことで、公社の理事長を市長が兼ねていると、周囲が遠慮して不正が発覚しにくくなるという弊害があります。だから、市長が公社理事長を兼ねるのは問題だと思っているのですが、なぜか安中市はその状態を擁護する為に、このような証拠を出してきました」
すると川越市の職員らは「たまたま川越市がこうなっているから、例に出されちゃったようですね。市長や首長さんが(公社の)理事長さんをやっている自治体も、実態としてはうちと同じわけだ。明文化してあるのはうちくらいかもしれませんが。ただ一例になっているだけではないか、ということしかちょっとわかりません」
当会は更に続けて安中市の公社の実態と巨額横領事件の背景を説明しました。
「民間だと、民間でも子会社の会社を兼務することはあるかもしれませんが、不祥事件さえ起きなければ良いのですが、一旦不祥事が起きると“コンプライアンス上問題があるのではないか”と追及されます。安中市が言うには“完全な別法人だから”と。独立採算とまでいわないが、きちんと方針を立てて運営しているというだけです。だからそこに、元犯人の奥さんが、もう元職員の夫と藤岡市で同居していますが、その友人というのが事件当時、安中市役所の前にある地元金融機関支店にいて、その金融マンが古物商の免許を持っていて、それが元職員のかわりに、栃木県の足利市にある骨董品とか、高崎とか、館林や、前橋にある骨董商から古美術や骨董品を買いまくりました。元職員は12億円くらい買ったといっているが、警察の捜査では、その半分しか把握されていません。残りの数億円が行方不明とされているのです。今回たまたま絵画等6点が公社に返還されたということですが、これは明らかに警察の手入れの直前に、元職員に代わり買い付けを一手に引き受けていた古物商の免許を持つ金融マンと、元職員が相談して、一番目ぼしいやつを選んで、その金融マンの自宅に保管していた可能性があります。市民として警察には、この事件について入手したあらゆる情報を提供し、共犯が沢山いるようだと伝えていましたが、結局警察の捜査担当者からは、“元職員の単独事件だった”と最後に言われました。今回の絵画等6点は1点当たり1億円もするなどという巷の噂もありますが、17年前の800数十点のオークションでは、中島誠之助が主催する笹塚会で大量の骨董品を一度に捌いたため、単価が下がって、安く買い叩かれたようです。また、横山大観作と称した偽モノもかなり混じっていたといわれています。当時はバブルもはじけたため、骨董品の値段が安くなったという見方もあります。この前代未聞の巨額事件では、捜査の過程でつじつまが合わないことはいっぱいあったようで、担当した警察官らは、関係者のいうことはうそだらけだったと言っていました。その挙句が、警察が調べた結果なんと14億数千万円が使途不明金として残ったことでした」
こうした事件の背景を聞いて、川越市の担当者らは、驚きの余り目を見開いていました。とくに、市長兼公社理事長と、実務担当の職員との癒着については「癒着などありえません。(一介の職員が市長に)会うのもはばかれる雰囲気です。絶対ありえません」と力強く否定しました。さらに「うちはちゃんと理事会が機能しているし、理事は市長と副市長を除く9名が全員市議会議員から構成されているので、いろいろな会派の人が入っているので互いに内部牽制ができています」とはっきりと述べました。
理事全員が議員などというのは、安中市ではおよそ想像も付かないことです。もし、安中市土地開発公社の理事会で、理事が全部市会議員だったら、内部の不正行為は外部に漏れなくなり、たちまち第二のタゴ事件が発生しかねないし、発生しても誰も気付かないので、そのうちに取り返しがつかない状況になると思われます。安中市土地開発公社の場合は、理事全員が市役所の各部署の部長クラスで構成されています。これまた、安中市の場合は市長のイエスマンなので、理事全員が議員の場合よりさらに始末が負えません。安中市の場合はどっちにしても、市民のなかから理事を入れない限り、公社が利権の道具として使われる体質にあるため、早急に公社を解体すべきなのです。
当会は最後に裁判の現状について説明しました。
「この判決は12月20日予定ですが、11月8日に東京高裁の第1回口頭弁論でこちらが出した準備書面、むこうが出した準備書面で裁判をやりました。その時、裁判長は絵の作者も作品名も分かっているのになぜ積極的に絵柄を求めようとしないのかと、この点についてもう少し聞かせてほしいと安中市に命じました。また、絵を市民に開示することで公社にどんな不利益があるのか、ということ。この2点を説明するようにという指示が安中市に出されました。たぶんこの裁判の判決は、新聞にもなにも載らないと思いますが、こういう公社を抱えている自治体もあるということを記憶にとどめておいて頂ければ幸いです」
すると、川越市の担当者らは、「これは市民の財産を奪ったのも同然ですから犯罪ですよね。これはだから、個人が、あるいは元職員が悪いということにとどまらず、組織的に市長も含めて幹部も責任を取るべきだと思います。これがもし本当であったとしたらですけどね」と感想を述べてくれました。やはり、タゴ51億円事件のような異常な犯罪が自治体で起きうること事態、想定外のようです。無理もありません。
↑小江戸川越を象徴付ける火の見やぐらのある通りの風景。↑
■当会は次のように総括をしました。
「事件発覚直後には、それでも、市役所からの内部告発もありましたし、いろいろな関係者からいろいろな情報が入りました。それらを振り返ってみると、この巨額横領事件は、恐るべき事件でした。警察は我々市民団体の動きを注視していて、よく当会にやって来た専任の刑事には、できる限りの情報提供をしました。事件発覚後、2年ほど経過してから、その刑事に会ったとき、いろいろ話をしました。“市民から情報をあれほど提供したのだから、その見返りを捜査結果を聞かせてほしい”とお願いしたところ、“それをやったら、こうなる”とクビをきるまねをされました。“木の幹だけを切るのが精一杯で、木の枝はまで切る時間がなかった”という言い方もされていました。一方、元職員のほうは、事件発覚直後に奥さんが県内でも有名な警察に顔のきく高崎市内の弁護士のところに駆け込みました。そのことひとつをみても、この事件の奥深さがわかります。群馬県という保守的な土地の関係で、いろいろな分野の人物が絡んでいる事件です。だから裁判を5回もやって最高裁まで争いましたが、全て敗訴しました。犯罪所得に対して課税を怠ったこと、団地造成後の土地の販売で購入者の名義を語り、隣接地もその人にしていたこと、そのため、固定資産税の課税台帳も改ざんしていたこと。通常は一般市民が土地登記手続きをする場合には契約書やらいろいろ書類を出さなければなりませんが、公社がやるばあいには、嘱託登記といって、非常に手続が簡単に行えることを悪用して、土地ころがしはやりたい放題だったのです」
すると、川越市の担当者は「嘱託登記はうちでもよくやっています。それにしても、すごいですね。うちではそんなこと、絶対やれないです。相互監視が厳しいですから。うちでは全く考えられないことです」と、驚いていました。
↑川越市役所前の植え込みに立つ太田道灌の銅像。江戸城構築で名高いが川越城の建造も手がけたため、ここにも銅像がある。↑
■そこで当会から、元職員を自由にのさばらせていた安中市役所の様子を少し説明しました。
「安中市役所では、元職員が数十万円もするスーツを着て勤務したり、骨董品の鍋島や古伊万里の湯飲み茶碗を同僚や上司に見せびらかしたりして、役所の七不思議といわれていましたが、誰一人として、そのような異常な事情を追求する者は居ませんでした。又、元職員の上司として平成2年から経理に詳しいと自称する人物が異動してきましたが、不思議なことに自分では全く通帳をチェックすることもなく、そのため、その後も、横領額がどんどん膨らんだという経緯があります」
「安中市が公社の事業の為に支払った先の公社の口座から、元職員が、直接横領していたケースも3億円余りに達していました。しかし、市や公社がやとった弁護士は、これは横領事件ではなく、詐欺事件だと決め付けて、市民を目をくらませたのでした。群馬銀行も、元職員に盆暮れの付け届けをしたり、ゴルフ会員権の斡旋時に、群銀の子会社のクレジット会社を通じてローンを提供してやっていました。元職員は毎週1千万円単位で横領金を群銀から引き出していて、会員権など即金で支払えるほどカネをもっていたのに、さらに群銀はローンまで組んでやっていたのでした」
川越市の職員のかたがたは、このような話に熱心に耳を傾けてくださり、さかんに「すごいですね。不思議ですね」を連発していました。お二人とも、安中市のことは知っており、「結構、行ってみるといいところだなと思いますよ」と言ってくれました。
最後に当会から、「詳しい内容は、当会のブログに掲載されていますので、この後、昼休みの時間にでもよくチェックしておいてください。多忙中のところお時間をとっていただきありがとうございます。これから総務省に行きます。ではこれで」とお礼の言葉を差し上げつつ、財政課を退出しました。
↑川越市役所の玄関。↑
■再び川越線に乗り、大宮駅から埼京線で新宿まで出てから、地下鉄の丸の内線に乗り、霞ヶ関まで行きました。そして総務省の検問を通過して、エレベーターで4階の地域力創造グループ地域振興室を訪ねました。
↑総務省4階の案内図。中央に大きな吹き抜けスペースがある。↑
アポイント無しでしたが、応対していただいた女性の総務事務官は非常に丁寧に担当者に取り次いでくれました。入口脇のテーブルと椅子の在る狭いスペースでしたが、そこに案内され、お茶までだしていただきました。まもなく担当者の課長補佐の方が来ました。
簡単な挨拶と自己紹介の後、当会から用件を切り出しました。
「手短に話します。群馬県の安中市土地開発公社のことについて聞きたいことがあってきました。この公社では、平成7年5月18日に51億4千面円の横領事件が発生しました。当会はその真相究明をやってきた市民団体です。実行犯とされた元職員が詐欺罪と公文書偽造罪の複合罪で懲役14年の刑を終えて一昨年9月に出所しました。昨年4月になって、元職員の奥さんが、夫が警察に捕まる直前に古美術品を6点、親しい知り合いに預けておいていたところ、その知人から“これはお宅の主人のものだから返したい”と申し出があったそうです。それは絵画等6点ですが、それを奥さんのほうから安中市土地開発公社に対して、現在まだ19億円あまりの簿外財務というか、群馬銀行と和解した結果、毎年12月25日のクリスマスに2000万円ずつ支払って、まだ19億円余りありあと90年余りかかるという状況にありますが、元職員の夫人から“その損害賠償の足しにしてほしい”と申し入れがありました。“その絵画を公社に寄付するので、それを換価して、公社の損害金の弁済の足しにしてほしい”という申し入れがあったのです。当会はこの事件をずっと追及してきていますが、使途不明金が14億5千万円もあります。その絵画等6点も使途不明金に関係している可能性があります。とにかく情報公開でどんな絵柄の絵画等6点を返却しようとしているのか、安中市に開示請求しました。安中市は当然そのような情報を持っていなければならないはずだからです。連帯責任者として公社の和解金支払のバックアップをしている立場だからです。どんなものが絵画等6点なのか、奥さんが夫の知人からもらったときに“これは本物かどうかわからない”といわれたため、“真贋は分からないがとにかく返済して損害舞賞の足しにしてほしい”と申し入れたのでした。当会で情報開示を請求したところ、作者と作品名は公開してもらえましたが、結局、肝心の絵柄については開示されませんでした。そのため、異議申立てをしました。それでも安中市情報開示審査会は弁護士が会長をしていますが、その会長は“安中市が持っていないと主張するのであるから、公社がもっていても安中市はもっていない”のは理解できるとして、絵柄を見せたくでも不存在だから仕方がない、という答申を安中市にしたのでした。公社の理事長を市長が兼務して、理事長に対して市長が“市民からこういう請求があったので開示してほしい”と依頼の手紙を送ったところ、公社理事長は“それを開示すると公社の経営に重大な支障がある”として、同じ人が同じ人に対してやり取りしています。それは当事者の最高責任者がそう言っているならそれはしかたがありませんだ、作者も作品名も開示したのに、絵柄だけ開示しない、ということはなにか支障になるのか疑問であるというコメント付きでありながらも、当会の申し立てを棄却してしまいました。それで当会は前橋地裁に訴えましたが棄却され、現在東京高裁で11月8日に第1回口頭弁論があり、即日結審して12月20日に判決が出る予定です。裁判長は第1回口頭弁論で、安中市に対して、“市がなぜ公社に絵柄の開示を積極的に求めないのか”、“それが今までのやり取りでもよくわからない”として、“その絵柄を市民に開示することで公社が不利益をこうむると言っているがいったいどんな不利益を被るのか”“これについてもう少し詳しく聞きたい”と言いました。そして、裁判長は、“それは法廷では陳述しなくてよいが、12月20日までに判決を出すときに参考にしたいので、11月末までに陳述するように”と指示したのでした。当方に対して裁判長は、“それを見て何か言いたいことがあれば提出するように”と言ってきました。市のこれ(準備書面)をみるとばかばかしくて反論するのもあれですが、公社の理事長と市長が兼務していることについて、当時巨額横領事件の発生時にも、やはり市長が理事長を兼務していたことから、しかも、元職員がシングルプレーヤーだったことから、元職員と市長は仲が非常に良かったのです。“おい親父”と市長を呼ぶ間柄で、理事長印や市長印が偽造書類に暴印されて、巨額の金がだましとられました。そのため事件発覚後は、事件の反省からずっと市長と理事長は別々の人がやっていました。ところが安中市が5年前に隣接の町と合併した時に、市長選で、元公社の理事監事をやっていた人物が当選して、現在2期目です。当会がこの事件をずっと追及してきたことから、“何が何でも当会には絶対に見せたくない”という気持ちが根底にあると思います。しかし、安中市はあろうことか、市長と理事長が実際に兼務している例として、川越市の土地開発公社の定款をインターネットで検索し引っ張り出して「乙3号証」として当会に送りつけてきました。確かに第8条の第2項に“理事長は市長をもってあてる”と書いてあります。ところが群馬県のネットに掲載されている各自治体の定款には、もちろん安中市も含めて、こうは書いてありません。つまり、“理事は市長が任命するが理事長は理事の互選で選ぶ”と書いてあります。実はここへ来る前に川越市役所に立ちよって、どういう経緯でこういう条項になったのか、他の自治体ではそうなっていないのに、なぜかときいてきました。そしたら、昭和49年に公社を設立したが、おそらくその時、それ以前の前身だった組織の定款を参考に作ったのではないかということでした。普通は川越市の近辺でも副市長が理事長をやることが多いそうで、市長が理事長を兼務する場合、いわゆる組織が別だということを第3者に示すのに、問題はないか、と聞いたところ、“全然ありません”と言いました。安中市では事件当時も市長が理事長を兼務していたため、ノーチェックでとんでもない犯罪が起きてしまったが、川越市では、“いや、うちはクロスチェックが厳しいので、そのようなことは絶対に起こりえない。一職員が市長と親しく口をきくことはないし、そのようなコンプライアンスに違反することはない”と言っていました。そこでお聞きしたいのは、市長が兼務するのはこのご時世、民間ではコンプライアンス上、好ましくないと思います。一方、当会が公社の問題について裁判所に訴えた時には、最高裁の“公社は特別法人で市とは別法人だ”とする判例を楯に、みな敗訴になってしまいました。だから、51億円横領事件で公社が損害を受けても、市民には損害がない、したがって訴える利益がない、などとして敗訴させられました。市は訴えられるけど、市には損害がない。住民監査請求をしても訴えの資格がない、ということで全部敗訴しました。“市には損害がない”と言っても連帯責任があり、事務費として事業費の5%を払っています。一つお聞きしたいのは、実態として、市長が兼務している公社の割合が全国でどの程度あるのか、それと“市長が兼務していることについて、そのことは良くない”という趣旨の通達を出した経緯があるのかどうか、この2点をお聞きしておきたい。川越市役所できいたのは、外形的にはこのように“市長が兼務する”と定款に書いてありますが、実際の中の組織の運用面できちんとコンプライアンスは遵守されるので心配ない、と彼らは言っています。安中市の場合には、事件をおこしてからもなお、実質的に市長が公社の理事長を兼務しているのです。今の前任の市長は、理事長を別の人にしていましたが、今は昔に戻ってしまいました。そのため、“川越市長だってこうして兼務を定款に明示しているから直ちに問題にはならない”と反論してきました。もし総務省のほうで何か有益なデータベースがあれば大変参考になります」
これに対して総務省では「データはないと思いますが、その毎年公社のヒヤリングをやっております。ただ、うちは都道府県と政令都市しかしません。市町村の公社の監督権限は県が持っているということになります」と答えました。そして「数字としては把握はしていないが、その併任されているところは、時々見られるということは、感触としてはわかります。先ほどのように古い時代にできた公社については、わりとそういうところが残っていたりします。あとは、総務省からの公社に対する通知ということについては、その、民法上の“双方代理の禁止”という規定があり、要は契約の当事者に同じ人がなれないという場合があり、それに明らかに抵触するというわけではないが、問題となる可能性はある、と認識しています。ですから、“是正に努められたい”というようなものは(通達で)出しています」とコメントがありました。
当会では思わず「まあ当然ですよね」と相槌をうちました。すると、総務省の課長補佐は「ただ、それも明らかに違法かといえば直ちにそうともいえません。ただ、おっしゃったように、誤解を招くというか、そういうこともあるので、“事務の適正化”というなかで、できるだけ双方の併任という形の解消に進んでほしい、ということは言っています」と述べました。
■それを受けて当会から安中市の公社の体質について説明しました。
「わかりました。その2点ということに関連してですが、隣の高崎市は総務省の出している公社の解散に向けた指針にもとづき、もう先行取得の時代ではなく、そうでなくてもこういう年月の長い土地の保有が膨大な額になっているので、高崎市はそれらの観点から、公社はいらないということで総務所の示したガイドラインに沿って動き始めているとききます。群馬県については他にもそうした動きがある自治体があるようです。しかし安中市にはそういうことをする気概が全くありません。いわば、総務省の通達など無視しているといった状況にあります。なぜならあと91年間も巨額横領事件の和解金としての返済義務が公社と連帯保証人の安中市に残っているので、組織として存続させないと、群馬銀行から蒸し返されて市民が騒ぎ出すということで、単なる巨額横領事件の和解金支払の為の組織として温存していることは明らかです。もっとも、10年ごとに民法上の問題で、支払い義務について確認の為の“証”を更新しなければなりません。一般の場合、借金の返済義務は、何も督促しなければ3年間経過すると請求権が抹消してしまいますが、文書で取り決めると10年間有効となります。群馬銀行は、巨額横領事件のその後も相変わらず安中市の指定金融機関として地方債などで市から恩恵を受けていることから、いい加減に勘弁してくれと、議会などは群銀に求める声もありました。結局、今の市長がフライングで、さっさと早期に群馬銀行の頭取を訪れて、支払う姿勢を見せてしまったため、結局またあと10年間、安中しは元職員の残した負の遺産を償わせられることになったのです。このようなどうしようもない安中市土地開発公社はもとより、全国の土地開発公社の間には、総務省の通達に基づき精算整理をして解散する動きが加速しているという報道もあるようです。このまま公社を存続しようとすると、ますます、長期塩漬け土地を抱え、利率の高い借金が雪ダルマ式に益々膨れ上がるので、公社を存続して潤うのは金融機関だけなので、早く土地開発公社を整理するような動きがあると思います」
すると総務省の担当者は、「一概には在るとは言えません。そこはやはり、地域によって実情が違っていたりするからです。今後も事業をやって行くというところもあります。あるいは今おっしゃったように、土地の先行取得の役割を終えたということで、解散されるところもあります。必ずしも、総務省としては解散を推し進めているわけではありませんが、ただ長期保有土地問題については、この際、そこの債務を整理して、公社も整理して、解散していただけるような手続については、用意はしています」と述べました。
■当会は再び巨額横領事件を起こした我らが安中市の土地開発公社について鋭く批判しました。
「その点から言えば、川越市などは公社の運営に自信を持っている様子がうかがえましたが、安中市の場合にはコンプライアンスもへったくれもありません。安中市は巨額横領事件から16年経過しましたが、未だに自分たちの非を認めず、市民がこの事件について批判すると、言いたい放題反論してきます。当会のことについても“いろんなことをブログに書いているが、虚実が混じっており、けしからん”などとして、イメージダウンを図ろうとするのです。もし、今回の裁判で勝訴し、当会が、元職員が隠してきた絵画等6点が本物かどうか確定する為に、それを売買した古物商らに当ってみようと思います。」
すると、総務省の担当者は、「これにはまあ、事件が絡んでいるものなので、かなり、なんというか、イレギュラーな事案ではあると思われます。」と感想を吐露しました。そして「団体によっては、その団体の用地業務と統合されるところもあります。いろいろな動きがあるけれども、工夫して、そういう使い方をされることもありますが、本来、公社としての設立目的がなくなったのであれば、解散して頂くというのが筋かなと思います」
■終わりに当たり、当会からもう一度「公社の理事長職にある人物と、設立母体の首長が一体化している市町村の割合はどのくらいあるでしょうか?」と質問したところ、総務省の担当者は「具体的なパーセンテージは把握していません。ぜひ、群馬県のことなら群馬県市町村課で聞くとよいと思います。」とのことでした。
そして最後に当会から「もし総務省で近々、アンケート等で実態調査を行うのであれば、ネットで総務省のホームページを見ていますので、ぜひ総務省のほうでそういう提案を、あるいはどこからオその部署から提案が出たらそれは面白い事だからと一押していただけませんか」と要請しました。「当会のこの公社に関する裁判の12月20日の判決については、新聞やニュースでは報道されないと思いますが、安中市民として、やるべきことはやっておきたいと思います。なにしろ、ひ孫の代までツケが回らないようにしたいものですから。」そういい残して、総務省をあとにしました。
■最後に、群馬県庁の9階を訪れ、市町村課の担当係長と面談しました。その結果、群馬県内にある23の自治体の土地開発公社における首長と公社理事長職の併任の実態について聴取しました。
群馬県では、安中市の公社を含め14の公社が依然として併任状態にあるそうです。つまり、平成23年3月31日時点で、設立団体の長以外が理事長に就任している県内の土地開発公社としては、前橋市土地開発公社、高崎市土地開発公社、太田市土地開発公社、沼田市土地開発公社、川場村土地開発公社、東吾妻町土地開発公社、玉村町土地開発公社、みなかみ町土地開発公社、昭和村土地開発公社の9団体となっています。
一方、設立団体の長が理事長に就任している県内の公社としましては、明和町土地開発公社、伊勢崎市土地開発公社、桐生市土地開発公社、渋川市土地開発公社、館林市土地開発公社、富岡市土地開発公社、吉岡町土地開発公社、板倉町土地開発公社、安中市土地開発公社、藤岡市土地開発公社、中之条町土地開発公社、榛東村土地開発公社、西邑楽土地開発公社、甘楽郡土地開発公社の14団体となっています。
また、市町村課によると、総務省からは、双方代理の禁止の観点でできるだけ併任状態の解消を図るように指導されているということです。
なお、驚いたことに、担当の係長は、タゴ51億円事件が発覚した当時、県庁に入ったばかりで、たまたま地方課に所属しており、当時の事件のことは記憶に残っているとのことでした。そのため、現在でもなお、タゴ51億円事件の負の遺産を引きずっている安中市の公社の実態について、当会の説明にじっと耳を傾けていました。
■当会では、以上の関係先でのヒヤリング結果をもとに、控訴人として、さっそく東京高裁に準備書面(2)を提出する予定です。
【ひらく会事務局】