↑空から俯瞰した東邦亜鉛安中製錬所の様子↑
■12月19日の午後1時49分に地元のかたから、「東邦亜鉛の安中製錬所が亜鉛精錬から撤退するという情報を知り合いから聞いた」と筆者に電話がありました。さっそくネットで検索してみると、次の記事が見つかりました。
**********MIRU(Metal Information Resources Universe) 2024年12月18日18:59
東邦亜鉛 24年度末までに亜鉛製錬から撤退 二次亜鉛原料などに注力――阪和と業務提携
東邦亜鉛が安中製錬所(群馬県安中市)の亜鉛製錬の一部ラインを2024年度末までに停止、環境ダストリサイクルの熔融設備に切り替える計画であることが18日わかった。小名浜製錬所の亜鉛焙炒炉と付随する硫酸工程も停止する。同日の発表資料などで、その方針を示した。亜鉛事業を対象に最大160人の希望退職も募る。また、同日には阪和興業と国内外における鉛・銀製品の拡販、鉱石・リサイクル原料の供給などで業務提携することも発表しており、一連の対策で事業再生を目指す。
安中製錬所の亜鉛製錬の一部ラインの変更は、「事業再生計画および第三者割当増資の概要」などで示した。亜鉛製錬事業の今後の活動方針として、24年度末までに主要亜鉛精錬設備を停止すると明記。27年度以降、環境ダストリサイクル熔融設備の新設による二次亜鉛原料販売と貴金属回収を計画として、新たな方向性を示している。25‐26年度の2年間で溶融設備などの導入を進める。35億円を投資するという。
小名浜製錬所については、亜鉛焙炒炉と付随する硫酸工程も停止する一方、既設の硫酸タンクを利用した濃硫酸の購入販売と薄硫酸の製造販売を継続、また24年10月に開始した新規事業であるLIBリサイクル事業に注力する。
同日発表の阪和興業との業務提携は、①国内外における鉛・銀製品の拡販、鉱石およびリサイクル原料の供給、②製品および原料の相場価格変動のリスク低減の支援または価格ヘッジにかかわる負担の軽減――が柱になるとしている。
事業面での支援を阪和興業から受けながら、アドバンテッジパートナーズ(AP)、辰巳商会に第三者割当増資を実施、75億円の資金を調達することで、事業再生を目指す。
24年3月期の決算(連結)は、売上高が前の期比10.3%減の1308億300万円、純損失は464億5200万円だった。25年3月期の連結最終損益は54億円の赤字予想となっている。
(IRuniverse G・Mochizuki)
**********日本経済新聞2024年12月18日 18:53
東邦亜鉛、第三者割当増資で75億円調達 経営建て直しへ
東邦亜鉛は18日、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(AP、東京・港)などを引受先とした第三者割当増資で、計75億円を調達すると発表した。市況変動や高コストな鉱山運営で財務体質が悪化している。増資で財務基盤を改善するほか資源事業の撤退など不採算事業の整理や希望退職にも取り組み、経営の建て直しをめざす。
2025年2月に開く臨時株主総会の承認を得た上で第三者割当増資を実施する。APに加えて、運送業の辰巳商会(大阪市)からも5億円の出資を受ける。同時に阪和興業とも業務提携し、製品や鉱石の調達と販売面での強化をめざす。今後は鉛・銀の製錬を軸として、リサイクル事業を拡大していく。
不採算事業の整理では25年3月期までに群馬県安中市の製錬所などの設備を停止する。オーストラリアに3カ所持つ亜鉛や鉛鉱山のうち2カ所を直近で売却しており、残る1カ所も早期に処分する。希望退職は亜鉛製錬の設備停止に伴い募集する。募集は25年2月から募り最大160人を見込む。
同日、25年3月期の連結最終損益が54億円の赤字(前期は464億円の赤字)になる見通しだと発表した。売上高は前期比11%減の1162億円、営業損益は32億円の黒字(前期は6億9000万円の赤字)を見込む。
**********上毛新聞2024年12月19日06:00
東邦亜鉛 安中製錬所(群馬・安中市)の製錬設備停止へ 希望退職者募集、配置転換も
↑東邦亜鉛安中精練所=2021年↑
東邦亜鉛(東京都港区)は18日、事業再生計画を発表し、2025年3月末までに亜鉛製錬事業の主力工場、群馬県の安中製錬所(安中市)の主要設備を停止することを明らかにした。設備停止に伴い希望退職者の募集や配置転換を行う。同製錬所では27年4月以降、亜鉛をリサイクルする新事業を計画しており、事業再編に乗り出す。
**********毎日新聞2024年12月19日
東邦亜鉛、創業地・群馬の製錬設備停止へ 25年3月末、事業再編
↑夜景で知られる東邦亜鉛安中製錬所=群馬県安中市中宿で2012年10月2日午後7時46分、角田直哉撮影↑
東邦亜鉛(本社・東京都)は18日、事業再生計画を発表し、2025年3月末までに亜鉛製錬事業の主力工場である安中製錬所(群馬県安中市)の主要設備を停止することを明らかにした。同社の亜鉛製錬事業に従事する従業員については、今後、希望退職者の募集や配置転換を行うとしている。【庄司哲也】
安中製錬所は、1937(昭和12)年に設立され、同社の創業地でもある。JR安中駅の裏手にある小高い山の斜面をはうように広がる製錬所は、夜景で有名なスポットになっている。現在約230人の従業員が在籍する。
計画によると、亜鉛製錬事業は市況変動が大きく価格転嫁が困難な事業環境であるのに加え、近年の電力料金やエネルギー価格の高止まり、亜鉛鉱石の市況悪化で高コストの事業となっていた。また、これをカバーするため進出していたオーストラリアの3カ所の鉱山事業は操業不調で、大きな損失が出ていた。
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■上記のとおり、今年度末を目途に安中製錬所での亜鉛精錬事業を停止し、その後、鉄鋼ダストなどから亜鉛などを回収するリサイクル事業に転換するための設備投資をして2027年度から新事業を開始する方針であることがわかります。
この報道に接し、現在筆者の住む安中市野殿地区では、カドミウム公害問題の原因者である東邦亜鉛安中製錬所から排出されて長年に亘り周辺部に降り注いでいる重金属を含む降下煤塵に起因する土壌汚染の解消のため、30年前から計画推進中の公害防除特別土地改良事業(公特事業)に対して、どのような影響があるのか、地元として大きな衝撃が走っています。
東邦亜鉛安中製錬所を巡るカドミウム公害に長年取り組んできた安中緑の大地を守る会(前身は安中公害訴訟原告団)の事務局によると、今年の新春に東邦亜鉛(株)本社で執り行われた新春賀詞交換会に出席した安中市の岩井均市長に対して、同社トップから「将来的に安中事業所でリサイクル事業を計画している」との説明が有ったということで、さっそく市長のFace Bookをチェックしました。
**********岩井均Face Book 2024年1月12日(抜粋)
都内で開かれた【信越化学工業(株)新年賀詞交歓会】に参加し、斉藤社長や上野専務、群馬事業所の佐藤所長や土居事務部長等と懇談しました。
群馬では「西の信越、東のSUBARU」と言われる位、売上高や利益がある超優良企業であり、安中市の雇用や税収、地域活動等で大きく貢献して頂いています。
その後、東邦亜鉛(株)に伺い、伊藤社長等と懇談しました。安中製錬所は今後、リサイクルに力を入れていくとのこと。SDGsを推進する企業として素晴らしい取組だと思います。
本市として両社は、東京に本社がある2大上場企業です。今後も企業と市が連携協力し、本市の発展を図りたいと存じます。
(当会注:左から岩井均・安中市長、今井力・東邦亜鉛取締役(監査等委員)、伊藤正人・東邦亜鉛代表取締役社長、大久保浩・東邦亜鉛常務執行役員総務本部長)
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また、今年4月6日に開催された同社安中製錬所の工場視察会でも、筆者の質問に対して、会社側から「スラグ置場を空っぽにしているのは、新事業の立ち上げを想定している」という趣旨の説明がありました。ところが、新事業についての具体的な説明を参加者から求められても、会社側の司会者は「現時点では未定で、自分自身も知らないし承知していない」の一点張りでした。
○2024年4月14日:三分咲きのサクラの中で開催された東邦亜鉛安中製錬所第33回工場視察会の一部始終(後編)↓
ということは、今年の始めには同社の上層部として、苦境を打開するための方策として、事業転換については既に相当な議論を交わしていて、「環境リサイクル事業に舵を切る」方針が決まっていたものとみられます。
前述の通り、同社の2024年3月期の決算(連結)は、売上高が前期比10.3%減の1308億300万円、純損失は464億5200万円であり、今回12月18日公表の2025年3月期の連結最終損益予想は売上高が前期比11%減の1162億円、営業損益は32億円の黒字(前期は6億9000万円の赤字)を見込むものの、連結最終損益は54億円の赤字(前期は464億円の赤字)としています。
東邦亜鉛の財務履歴を見ると、財務基盤の指標となる自己資本比率が昨年末から急落しており、一時2.8%を記録したあと、現在も6.4%と低迷しています。
通常、自己資本比率が50%以上の場合は、一般的に優良企業という評価がされています。また、自己資本比率が20%~49%の場合は、標準的な資金力であると言えます。一般に、自己資本比率が40%以上あれば財務は比較的安定していると考えられ、倒産リスクは低いと判断されることが多いようです。
そして自己資本比率が19%以下の場合は、資金力が低い状態とみなされます。すぐに経営状態が悪化するとは言い切れないものの、業種や事業内容によっては負債総額が資産総額を上回る「債務超過」のリスクも考えられます。
東邦亜鉛の場合は、自己資本比率が一時、一桁台の2.8%まで落ち込んだだめ、債務超過のリスクが現実的となったことから、支援してくれる相手を必死で見つけ出す必要があったわけです。なぜなら、自己資本比率がマイナスの場合はすでに債務超過の状態になるため、全資産を売却しても負債を返済することはできなくなるからです。
■今回、環境リサイクル事業に活路を見出す方針を打ち出した東邦亜鉛ですが、種々の金属、そしてLIB(リチウムイオン電池)や太陽光パネルのリサイクル事業は、既存および新規参入企業も多いように見受けられます。そのため、一にも二にも技術的なアドバンテージを持ち合わせているかが、事業転換の成否のカギを握ります。
このため、同社が記者発表したような筋書き通りに行くかどうか、いずれにしても、今後2、3年はイバラの道が待ち受けているのではないかと危惧されます。
同社のHPに掲載されている公表資料や、増資に応じたアドバンテッジパートナーズ(AP)社のHPの記事などから、東邦亜鉛の取締役9名のうち、過半数の5名が70億円と引き換えに第三者割当増資を受けるAP社からの派遣者が占めることとなるようです。AP社の増資分70億円のうち30億円が優先株式となることから、実質的に東邦亜鉛はAP社に身売りしたようなかたちです。既存の株主がこの増資を受け入れるかどうかは来年2月27日の臨時株主総会次第ということで、まだまだ東邦亜鉛の動向から目が離せません。
資本金146億円(来年2月に75億円増資予定)の東邦亜鉛の株価は本日の時点で542円とあり、年初来の安値でストップ安となっていますが、AP社への優先株式は1株1000円で300万株あり、劣後株式は1株256.6円で1754万株と乱発しており、これでは投資家の間で嫌気がさすのも無理有りません。
今年4月の東邦亜鉛安中製錬所における工場視察会後の質疑応答で、会社側から「スラグ置場を新事業の為空っぽにする」という説明がありましたが、これは鉄鋼ダストや各種メタルダストなど、都市鉱山的な産業廃棄物を原料としてストックするためであることが、今回の同社の記者発表で裏付けられたことになりました。
また、安中製錬所では電解工程を廃止し、環境ダストリサイクル熔融設備を導入し、これまでの電解工程で生じた残差をロータリーキルンに投入して蒸し焼きにして粗酸化亜鉛を回収したプロセスではなく、高温の溶融炉で、各種業界工程から発生する環境ダストを溶かし、亜鉛や鉛を揮発させて酸化亜鉛や酸化鉛で回収するプロセスに変えるようです。
そうすると、公害防止設備もそれに対応したものにする必要があると思いますが、どこまで降下ばいじんが減らせるのか、注目したいと思います。
資本構成が大幅に変動するため、地元の公特事業に対する東邦亜鉛の姿勢がどのように変わるのか否か、来春4月上旬に実施予定の安中製錬所工場視察会で、会社側がどういう対応や説明をするのか、大変関心が持たれます。
■また、来年度と再来年度は、安中製錬所における亜鉛精錬事業がストップするわけで、同社の売上高が相当量落ち込むことは必至で、この間、基盤・成長事業として東邦亜鉛が期待する「鉛、環境リサイクル、電子部品、電解鉄」が思惑通り年間40億円以上の利益を生み続け、その他の事業で損失が出ないかどうか、綱渡りだと思います。安中製錬所もリストラの嵐が吹き荒れるのでしょうが、そうなると公特事業の推進についても、東邦亜鉛は政治力を使い、されにあれこれ先送りするための圧力を行政に加えるのではないか、と懸念されるところです。
引き続き、今後の同社の動静について、公特事業推進委員会の会長を仰せつかっている筆者として、重大な関心を向けてゆく所存です。
【市民オンブズマン事務局からの報告】
※参考情報
**********2024年12月19日15:00
群馬県「情報収集進める」――東邦亜鉛の亜鉛製錬事業撤退による安中製錬所一部停止で
2024年度末をめどに亜鉛製錬事業からの撤退を表明した東邦亜鉛の事業再生の動きを受けて、主要拠点である安中製錬所がある群馬県では情報収集を急いでいる。県の担当課では「昨日の今日で新聞報道以上の情報は手元にまだない。安中製錬所とは19日朝も連絡をとったが、会社から直接話を聞く機会も今後出てくると思う」と、事態の推移を注視している。
**********レイルラボ2024年12月20日17:02更新22:53
“安中貨物”廃止へ…東邦亜鉛、2024年度末に亜鉛製錬事業を停止
↑EH500形 2018年03月03日撮影©レイルラボ FM-805Dさん↑
大手非鉄金属メーカーの東邦亜鉛(とうほうあえん)は、2024年12月18日付けで事業再生計画の事業支援を目的とした阪和興業との業務提携契約を締結したと発表しました。
同社は、不採算事業からの撤退・再編計画として、2024年度末までに主要亜鉛製錬設備を停止するとのこと。このためJR信越線 安中駅近くの安中精錬所(群馬県)なども閉鎖されるとみられ、鉱石を運搬する貨物列車輸送「通称:安中貨物」が終焉を迎えることとなりそうです。
安中貨物は、東邦亜鉛が福島・小名浜製錬所から群馬・安中製錬所へ焼鉱を輸送するために、福島臨海鉄道から常磐線・高崎線・信越線等を経由して運転されている貨物列車。同社は1969(昭和44)年から、専用タンク貨物列車「東邦号」の運行を開始。現在はJR貨物EH500形電気機関車が、トキ25000形貨車やタキ1200形を牽引しています。
↑トキ25000形 2018年03月03日撮影©レイルラボ FM-805Dさん↑
↑タキ1200形 2024年08月11日撮影©レイルラボ Tsurugi2999さん↑
**********上毛新聞2024年12月20日06:00
「群馬を代表する工場」「停止は残念」…東邦亜鉛の安中製錬所設備停止で
↑東邦亜鉛安中製錬所(2012年撮影)。夜景の名所としても知られている↑
東邦亜鉛(東京都港区)の亜鉛製錬事業の主力工場である安中製錬所(群馬県安中市)の主要設備停止の発表から一夜明けた19日、地元関係者から「残念だ」との声が広がった。
県商工会議所連合会の金子昌彦会長(68)は「安中というより県内を代表する工場だったので残念だ」と述べた。
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